魔法使いのレシピ
芝迅みずき
魔法使いのレシピ
友達と喧嘩をして、泣きながら帰ってきた日。お母さんは私の頭をふわりと撫でて言った。
「それじゃあお母さんが、泣き虫なリカをにっこり笑顔にさせる魔法をかけてあげようね」
お母さんはエプロンをつける。魔女みたいな真っ黒なエプロンだ。そして台所に向かう。
お母さんの魔法が知りたくて、私は後を追い駆けた。
お母さんはまず冷蔵庫から玉ねぎを取り出す。皮を剥いて四つに切ると、その内の一つを薄く切った。そして今度はお鍋を用意して火にかける。バターを溶かして、お鍋に玉ねぎを入れながら、お母さんは言った。
「おひさまのカケラで、涙の根っこの薄切りを炒めまーす」
おひさまのカケラと混ざって、涙の根っこはふにゃふにゃになった。狐色よりも少し茶色くなったところで、塩と胡椒を振って水を入れると蓋をする。
「海の結晶とくしゃみ薬、雪解け水を入れてコトコトなるまで待ちましょう」
暫くしてコトコトとなり始めたお鍋に何かを入れて、お母さんはゆっくりとおたまで混ぜていく。私は訊いた。
「何入れたの?」
「火星の赤土だよ」
どんどん雪解け水が茶色っぽくなっていく。それに伴って、優しくて香ばしいにおいが広がった。お母さんはそれをおたまで掬って、真っ白なスープカップに注ぐ。
「はい、完成。リカを笑顔にする、涙の溶けたこんがりおひさまのスープ。さぁ、席について」
目を輝かせて、バタバタとテーブルの席についた。私の前にカップを置いて、お母さんはスプーンを持って来る。
「どうぞ、召し上がれ」
「いっただきまーすっ!」
* * *
今思えば、なんてことない簡単なコンソメスープ。けれど、あの時私には、確かにお母さんが魔法使いに見えていた。
もう、あの頃抱いていた「お母さんは魔法使い」と言う憧れとは少し違う。けれど、今でもお母さんは、私の中では魔法使いである。
あの頃の自分と同じくらいの、泣きながら帰ってきた子供の頭をふわりと撫でた。
「それじゃあ、」
――そして、お母さんから教えてもらった笑顔の魔法で、私もまた魔法使いになろうとしている。
《終》
魔法使いのレシピ 芝迅みずき @mzk-sbhy
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