第2話 ゾンビの先にて
新しいオンラインゲームのリリースが終わり、私は学生時代ぶりに島根の古びた温泉宿に逗留することにした。なぜ、わざわざこんなところまでと、自分で思わないではないが、それでも宿に荷をおろしてみると大阪でのギスギスした空気がスッと抜けずいぶん気持ちが軽くなったのがわかった。
「昔、来たことがあるんですよ10何年ぶりかな」
宿帳にサインしながら、奥から出てきたおぱあさんに声をかけると、おばあさんは少し微笑んで「そうですか、それはありがとうございます」と言った。このおばあさんが昔泊まったときもいたかどうかは、わからない。
宿全体はあの頃とは何も変わっていないように思う。玄関に置かれている鮭をくわえたクマの置物は10年の時間でより鮭の身を食い破り、今は鮭の頭しか残っていない。ただその部分だけが10年という年月を感じさせるものだった。
「二階の『蜂の間』でございます、こちらへとうぞ」
「ああ、どうも」
「あいにく川が観える部屋が埋まっておりまして…」
文学沼ゾンビー 一色 胴元 @kusatu94
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