第44話 エピローグ

 サナトス・ヴァイラスとの戦闘後の処理は冒険者組合の方々に任せて、俺たちは一度街の『ゴードンハウス』に戻った。


 アメリアとロフィンの疲労が激しく、俺やラチェリやレフィンも少なからずケガを負っていたからだ。


 治療が終わって一息ついていると、他の冒険者たちが『ゴードンハウス』へやってきた。


 俺たちと一緒に酒盛りをしたいので、探していたらしい。


「それならここでやるのが最適だぜ!」と話に割り込んできたのは『ゴードンハウス』のアフロ店主ゴードンだ。


 というわけで、休憩が終了のと同時に即席の祝勝会が始まった。


 先ほどと同じように大勢の冒険者に囲まれて、アメリアが金魚のように口をぱくぱくして飛んでくる質問に怯えながら答えていたが、魔力も少し回復したらしく、先ほどのように青い顔にはなっていなかった。


 その夜は、大いに盛り上がった。


 カテゴリーAのサナトス・ヴァイラスの討伐を【シルバー】以下のメンバーだけで成し遂げたのはこの世界でも前例がなく、皆が皆自分が生きていることを喜びながらも、今日という日を自身の武勇伝として他の者に語り、共有していた。


 この祝勝会だが、ヘーブルと彼に雇われている数人の冒険者は参加しなかった。


 シュエットに言われて、サナトス・ヴァイラスの分体をしっかり処理することになったらしい。


 俺も手伝おうかと申し出たのだが、「一番の功労者は君だ。後処理はこの領地の権利を持つ僕に任せて休んでいたまえ」と元気な様子で言われ、ラチェリからも「あいつ、真っ先に逃げたから体力が有り余ってるのよ。後処理くらいやってもらいましょ」と止められたので、ヘーブルに任せることにした。


 祝勝会の最中には俺のところにも冒険者が数名来て、俺の作りだしたパイプ椅子や名刺のことなどについて尋ねられたので、元いた世界のことはぼかしながらあれこれ話していた。途中、アマゾネスの冒険者がやってきたところでラチェリに止められて、それからはいつもの『魔戦夜行』のメンバーで食事を取ることになった。


 夜は更け、酔い潰れている冒険者を横目に、俺たちは事務所に戻った。


 そして、次の朝を迎えた。


「というわけで、イセ。あたしをアイドルにしなさい」

「オレもオレも! 強くなれるなら、アイドルってのになりたい!」

「ア、アタシも、ご迷惑でなければ、よろしくお願いします……」


 ラチェリ、レフィン、ロフィンが口々にアイドルになりたいと志願してきた。


「いや、あの……そもそもアイドルっていうのは、戦う職業じゃなくて……」

「いいじゃないですか、プロデューサー!」


 宮ちゃんがロフィンに抱き着きながら、声を張り上げた。


「こんな可愛い子がアイドルになりたいって言ってるんですよ! 絶対売れっ子になりますって! 全員、うちの所属にしてしましょう!」

『アイドルセイヴァー』でステータスの高い子が事務所へオーディションに来た際と同じボイスを宮ちゃんは発していた。


 まあ三人とも可愛いというのには同意する。


 だがこの三人はおそらくアイドルという職業を誤解している。


 アメリアの成長を見て、『レッスンを受ければ今よりもすごくパワーアップできる』とかそんなふうに思っているに違いない。というか、絶対にそうだ。

「だけど、それが本当にこの世界の『アイドル』なのかもな……」


 戦うアイドル。


 アメリアを冒険者にするとき、そんなことを本人にも言ったし、俺もそのつもりでいた。


 そして実際にアメリアは人気者となり、戦うアイドルとしての一歩を踏み出した。


 やっぱり、俺がこの世界へやってきたのも、女の子を強くして凶暴なモンスターから守るためかもしれないな。


「わかったよ。それじゃあ宮ちゃん、三人の手続きをお願い」

「はーい。それでは皆さん、こちらへ来てくださいね!」

「わかりました。待ってなさい、イセ。あたしだって強くなって、あんたの隣で戦えるようになるんだから」

「オレだって魔法の矢とか使ってやるぜ!」

「アタシも、イセさんの力になれるように……がんばります……」


 それぞれの思惑を抱くラチェリたちを連れて宮ちゃんは事務室を出ていった。


「チェリちゃんたちも『アイドル』になるんだね」


 ソファーに腰かけて成り行きを見守っていたアメリアが、お茶請けのせんべいを食べながらやってきた。


「本気でなりたいって言うなら止められないさ。というかお前ずいぶんこの場所に馴染んでいるようだけど、もう少しでレッスン始めるからな」

「わかってる。そのために元気を溜めているところだよ」


 ぽりぽりとせんべいをかじりながらそんなことを言ってくる異世界事務所のアイドル第一号さん。


「レッスンはこれからどんどん厳しくなるけど、逃げ出すなよ」

「逃げ出さないよ。逃げ出すわけがないよ。だって、イセと一緒ならわたしはみんなに夢と希望を与えられるってわかったから。だからね、もっともっと頑張ってお母さんみたいに、いろんな人に大きな夢と希望を与えられるようになりたいの」

「英雄になるのは難しいと思うけどな」

「それって、アイドルとどっちが難しいかな」

「無論アイドルだ。アイドルは戦わないでも、人に夢と希望を与えられる存在だからな」

「それじゃあ、アイドルになったときには、英雄にもなれてるってことだね!」

「いや、そもそもその二つはベクトルが違うんだが……」

「ねえ、イセ」

「なんだ?」

「これからもよろしくね」


 アメリアはせんべいを食べ終わると手を伸ばしてきた。


「わたしはあなたの『アイドル』として頑張るよ。だからよろしくね」

「……ああ、よろしくな。アメリア」


 俺はアメリアの手を取って頷いた。


 これからも強いモンスターが街を襲撃することもあるだろう。


 そうなったときにも彼女たちを守れる存在でありたい。


 そして、異世界であっても俺は『アイドルセイヴァー』のプロデューサーとして、みんなに夢と希望を与える存在として彼女たちを輝かせていく。


 それが、この世界での、俺の生き方だ。

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異世界でプロデューサー 千人 @taisaman

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