第5話心配

工事バイトに勤しみ、ほぼ撤の状態で学校にきたがなかなかきつい。

神崎と夏目が、またさっきの大袈裟にこけたことを思い返して大笑いしている。

玉木は笑いすぎだよと注意しつつも、くすくす笑っている。


神崎「お前、全然寝てねぇんだろ。」

玉木「ひどい隈だよ。何してたの?」

夏目「また遅くまでナンパしてたとか?」

優「あーたーりー。」

玉木「サイテー」

神崎「こいつがそんなチャラいこと…しそうに見えるけど、しねぇよ」

優「沈黙してからしそうとか言うなよ。フォローがフォローになってねぇよ。」

夏目「ねね!賭けしようよ!優が次の授業寝落ちするかどうか!私、寝落ちにやきそばパン賭けようかな」

神崎「寝落ちに一票。」

玉木「同じく一票」

夏目「みんな同じだったら賭けにならないじゃない」

優「お前らなぁ、俺は馬じゃねぇぞ」


今日の授業は、

1限:現代文

2限:体育

3限:英語

4限:数学

5限:化学

6限:日本史

という流れだ。

理系の科目は問題に没頭して楽しめるので起きていられる自信はあるが、文系の科目は厳しい。起きられる自信が全くない。しかもなんだよ、2限体育って。もうすでに全身筋肉痛で魂抜けそう。英語絶対ねる。


優「神崎、俺寝てたら起こしてくれねぇか?」

神崎「なに言ってんだよ、ホームルーム始まる前からずっと起こそうとあれこれがんばったんだぜ?なにしても起きやしなかったよ。それを授業中にこっそり起こすなんてできるか」

優「まじか。」

神崎「素直に怒られることだな。」

…薄情なやつめっ!昨日絆確かめたのにぃ!


〜キーンコーンカーン…〜

1限目の現代文が始まる合図だ。現代文の先生は、面白おかしくインパクトある授業をモットーに頑張っており、生徒からも人気だ。俺もこの先生の授業は好きなのだが…。やばい。先生の朗読が子守唄みたいだ。

すごい。まぶたに磁石でもあるかのように、どんどん引き寄せられていく。きれいにくっついてしまった。俺の意志を無視してまぶたは安眠へとGo a headしてしまった。っく…俺は、意志の…強い、…Zzz。


優「ぐぅぅぅぅ」

現代文先生「…今日ホームルームで笑ってたのこれ?」

神崎「そうです。」

現代文先生「…すっごい寝てる。これだいぶ疲れてるねぇ。」

神崎「みたいです」

現代文先生「守道くーん?疲れてると思うけど、教科書進めたいんだよー。」

優「ぅーん。大丈夫っす。それ、俺持っていけますよ。」

現代文先生「え、教科書持ってどこいくの?」

優「……教科書?岩じゃなくて?」

現代文先生「あははは。これは笑っちゃうねぇ。隣のクラスまで笑い声が聞こえる訳だ。」

クラス「はははは!」

神崎「あははは、はっきり寝言言うよなこいつ。」

夏目「いーーーーーひひひひ、お腹痛い。」

現代文先生「しーしー!ホームルームはよくても授業中はダメ!ほんとに迷惑だから!みんなこらえて!」

神崎「俺に任せてください。」

……

優「ぐぅぅぅぅ。…ぅぉ!なんだ!?」


俺は、首筋に急に冷たさと何か滴っているのを感じて飛び起きた。

時間が戻ったかのように、また朝と同じくみんなが笑っている。

あ、でも先生が違うから俺は寝落ちしてしまったみたいだ。

後ろを見ると、神崎が立っていた。こいつ授業中になにやってんだあほか。

いや、授業中堂々と寝てた俺も俺か。

神崎の片手にはペットボトルを持っている。

どうやら神崎は、ペットボトルの水を俺の首に垂らしたみたいだ。

寝てる時にこれはほんとにびっくりするので、真似しないように。


神崎「唯一試してなかった起こし方。これ、寝起き胸糞悪くなるからやりたくなかったのに」

優「サンキューな。次は別の起こし方で頼む。」

現代文先生「うん、まず寝ないでね。声出そうか。112ページの4行目からお願いします。」

優「すません。はい。…しかし、民主主義国家の国民たちは労働意欲と生活満足度の傾向として、全体的に低いという結果が出ている……」

現代文先生「…はい。ありがとう。このように、接続詞は読み解く重要なヒントになります。ではじっくり読み解いていきましょう。作者は民主主義によってのメリットとデメリットについて話しています。その中でもデメリットに関しては強調され…」


〜キーンンコーンカーン〜

現代文先生「はい。次は114ページから始めます。号令」

日直「起立、礼」


頑張って起きていたと思うが、寝ていたのか起きていたのかもわからない記憶が途切れ途切れの現代文がやっと終わった。

次は体育。今日の体育はバレーだそうです。マラソンじゃないのがありがたい。

二人一組みで柔軟を行う。

体育先生「前屈ー!」

神崎「いーち、」

神崎が俺の背中を思いっきり押した。

優「いぃぃぃでででででい゛だい゛!」

体育先生「どうした?」

神崎「そんなに強くやってねぇぞ?」

優「やった!ちぎれる!あほか!」

神崎「このやろうもっと押すぞ」

体育先生「男同士でじゃれるなよ気色悪い」

優&神崎「じゃれてないっす!」


体育先生「今日からバレーに入るぞー。レシーブ20回、トス20回練習したらアタックとサーブの練習をして試合やろうか。」


一通り授業をしてから、練習試合を行う。

いつもチーム戦のスポーツは、神崎とナイスプレーをして盛り上がるのだが…

神崎「優!レシーブ」

ボールが上がり、神崎が綺麗なトスを俺にあげてきた。

神崎「いけ!優!」

スカッ

優「あ…」

俺らのチームコートにボールがトトンと落ちた。肩、肩が…俺の肩ご臨終してませんか?

…あ、一応肩くっついてるぅ。くぅぅぅ。いてぇ。

神崎「あーぁ」

クラスメイトA「優!それはひでぇ。あはははは」

クラスメイトB「完璧なトスだったのに、ラッキー♪俺らの勝ち〜!優と透のチームに勝ったら気分いいぜ!」

ピピィーーーー

体育先生「しゅーーりょーーー。優!綺麗な空振りだったな。珍しい。これはこれでおもしれぇな。」

神崎が駆け寄ってきた。

神崎「お前、大丈夫か?」

だんだん心配がガチになってる。俺体力無さすぎる?徹夜はよくしてたからいけると思ったんだけど。

優「おう。」

次から絶対心配させないようにしよう。寝ない!


〜英語〜

優「ぐうぅぅごぉっっっ…ぐぅぅ」

英語先生「もりみちーー!!!Do not sleeeeeeeeeeeeeeep!!!!!!!!!」

クラス「あははは」


〜数学〜

数学先生「優、宿題の箇所板書しろ。」

…解答中…

数学先生「正解。」

優「先生!俺、ぼけっと授業してたら寝るんで先に問題やりつつ受けていいですか?」

数学先生「噂は聞いた。聞くべきところはちゃんと聞けよ。」

優「……かぁあああぐぅう。」

数学先生「結局寝てるじゃねぇか。」

クラス「クスクス」


〜化学〜

優「…」

化学先生「あら、この授業は寝ないの?」

神崎「たぶん、目開けて寝てますね。」

化学先生「え?そんなことある?ほんとだ!」

神崎「疲れすぎたらこいつこうなります」

優「…」

化学先生「ドカーーーーーン」

優「わぁあああああ」

クラス「あーーーはははは」


〜日本史〜

優「なんで俺教壇横なんすか」

日本史先生「今日のお前の居眠りは度が過ぎていると聞いたからな。」

優「すみません」

クラス「クスクス」


………………………

〜キーンコーンカーン〜


優「あぁー今日は本当に疲れた。」

神崎「ほとんど寝てしかなかったじゃねぇか。」

優「普通徹夜しても全然起きれてたんだけどなぁ。歳かなぁ。中途半端頭に寝て起きてしてるから頭がもやもやする。」

神崎「どーせきついバイトでも始めたんだろ?」

優「いやぁ、工事バイト。けど、土木の石とか気を運んでた。」

神崎「何時から何時まで?」

優「0時から5時まで」

神崎「はぁ?」

優「ん?」

神崎「…お前さぁ、…はぁ。仮眠は?」

優「とったよ。」

神崎「何時間?」

優「2時間」

神崎「はぁ。…母さんがお前ならいつでも来てくれたらタダ飯食わせてやるから気軽に来いとさ。そんなんじゃ、お前もたねぇぞ。もうちょっと考えろ。」

優「こわーーいw」

神崎「人が本気で言ってんのにお前その顔煽ってんな?」

優「てへてへぱぱいや」

神崎「意味わかんねぇ。…そういえば、昼休みもりちゃんとこ行ったのか?」

優「あぁ。」

神崎「なんで呼ばれたんだ?」

優「……さぁねぇぇ。」

神崎「あ?行ったんだろ?」

優「俺にはわからん難しいいいいいことを言われたさ。」

神崎「?」



〜(回想)昼休み〜

優「ほんとにごめん!無断欠席はもうしないから!」

もりちゃん「それだけを怒るために呼び出したわけじゃない」

優「ほんとに怒ってる?」

もりちゃん「まぁ、ね。」

優「ごめん」

もりちゃん「何に怒ってるかもわかってないのに、簡単に謝罪するものではない。」

優「…。すみません。」

もりちゃん「…はぁ。なぜ、頼ろうとしないの?」

優「やだなぁ。みんなにはよく頼ってるじゃんいつも!」

もりちゃん「私は真剣に話している。1年から見てるんだ。分かるよだいたい。お前の頼ってるは、繕ってる。一線をひいて、距離を縮めようとしない。それが悪であるとは言わないが、最近はあんたの身がもたないと思ってね。」

優「…俺の勝手な事情で他人に迷惑はかけられない。」

もりちゃん「お前はどうなんだ?」

優「え?」

もりちゃん「…よく考えて。助けたいのに拒まれ続ける辛さを、守道はしってるの?」

優「…」

もりちゃん「他人に迷惑はかけられないというが、それは違和感しかないよ守道。生まれ落ちた瞬間からたくさんの人に迷惑をかけて人は成長する。30近い歳の私でさえ、たくさんの人に迷惑をかけながら生きている。守道、人はひとりでは生きていけないよ。人間はそこまで万能じゃない。その強さが私にあればと自分の無能さを何度も悔いた。でも、残念ながらそこまで人間は強くないし、社会だってひとりで生きていけるような構造になってない。

人様に迷惑をかけないように、努力をするところは守道のいいところだよ。誇ってすらいいと思うほどだ。そして、守道の場合なんなくこなしてしまう。尊敬するほどすごいと思ってる。

でも、相当な無理をしているはずだよ。現に今日は、その無理が隠せていない。いつもは完璧といっていいほど隠しているのに。その守道の無理を勘ぐって、守道に頼ってほしいという姿勢で話しかけている良き仲間もいっぱいいる。それを無下にするのは、”傲慢”だとも感じるよ。

ただ、守道は迷惑をかけたくないだけかもしれないけど。拒みすぎたら無下にしていると捉えられても仕方がない。

信頼とは、互いのできるできないを把握し、助け合うことでできるのだから。

……話が脱線した。本題は家庭訪問をしたいということだ。実のお兄さんがいたね?この前家を訪ねたが不在だった。でも、電気のメーターは回っていた。お兄さんはあなたの住んでいる家にはいないの?」

優「…いません。単身赴任で東京に出稼ぎに行っています。」

もりちゃん「…そう。お兄さんはいつ頃帰ってくるかしら?」

優「さぁ。忙しいみたいなんで。」

もりちゃん「守道はバイト週にどれぐらい入れてるの?」

優「ほぼ毎日」

もりちゃん「なんの仕事?」

優「いろいろ」

もりちゃん「…もう一度念を押して言っておくわ。無理をし続けて、誰も頼らずにいるつもりなら、自分だけでなく誰かも傷つけることになるからね。失ってから気づくのは遅いよ」

優「先生は、それを経験したんですか。」

もりちゃん「…そうだよ。だから、必死にあんたを説得してる。」

優「…俺には、難しいっす。失礼します。」

〜回想(昼休み)〜


………………………………

優「……。」

神崎「ぉーい!優?そんなに、こっぴどく怒られたのか?」

優「…あぁ。えぐられるくらいな。」

神崎「もりちゃんがそこまで怒るなんて。あんまり怒らないのにな。バイト入れて無理しすぎるからだ。頼ろうとしねぇしな。自業自得だ。」

優「説教はもうやめてくれ。神崎といい、もりちゃんといい、一言一言がいてぇんだよ。」

神崎「え?もうちょっとでかい声で言ってくれよ。野球部の掛け声で聞こえなかった。」

優「さぁ、俺帰るわ。仮眠十分に取らないと今日みたいな明日になる。」

神崎「そりゃ勘弁だわ。…無理しすぎるんじゃねぇぞ。じゃな。」

優「神崎。」

神崎「あ?」

優「いっつもわりぃな。」

神崎「は?」

優「じゃな。」

神崎「?」


胸に刺さる痛みを感じながら、旧校舎へと向かう。

日が照るグランドを走る野球部や、帰宅部たちで校舎はまだ賑わっていた。

旧校舎のグラウンドも今日はバレー部が使っているようだ。

旧校舎へと向かうには、まだ人が多いのでバレてしまう。

東高校の学校裏は山だ。学校裏の山道に繋がる方から遠回りをして旧校舎へと向かうことにした。

人影のない茂みは、少し気温が下がって涼しかった。

冷たい感触に、胸の痛みがさらに疼いたような気がした。























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歌姫と道化師 @honobono87

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