第4話 空回りキャラは愛される






 地下鉄を降り、バスに乗り込んだ私たちは、いつもとは違う雰囲気を敏感に感じ取っていた。


「やっぱりほら、効いてんじゃない?」

「うん、まぁそれならオールオッケーかな」


 普段ならこのバスの中、つまり月丘高校生が多く乗るバスの中では、みんなの私に対しての目がハートだったのだが。今日は目線を感じない。

 人に見られてないって、楽だなぁ。


「オッケーとは言えないけどね、どこの部活も入れないんじゃない?」

「え、私は部活入るつもりないよ?」

「そうなんだ」

「ピアノの習い事続けるから別にいいかなって。葉月ちゃんは?」

「私は〜バスケ部のマネージャーに決めてるよ」

「え、そうだったんだ」


 バスケ部と言えば…あのチャラそうな人の部活か。馴れ馴れしく肩叩いて来て嫌だったなー、昨日の情景思い出せば思い出すほどクソだなー。


 あぁ、なんだかどんよりしてきちゃった。心なしかバスの窓越しの空が暗い。


「てかさ、お互いちゃん付けで呼ぶのやめない?めんどくさいよね」

「あ、そだねー」



 バスを降りた後も、校門に入った後も、私たちの後ろに大名行列がはなかった。もちろん、校舎でも。



「逆にたったあれだけでこうなるとさ、嫌われるの早そうだよね」

「たしかに、情報回るの早すぎない?わたしは先輩にしか暴言吐いてないのにさ」

「あ、すみれ知らないっけ?すみれのファンクラブのグループラインあるんだよ、そこで流れたんじゃない?」


 まじかぁ、嫌だ。


「私さ、葉月以外に友達出来るかね?」

「さぁ〜!頑張れ頑張れ」

「頑張る頑張る〜!」



 まだ若干、私が歩くところはスペースが空くし、目線も多少感じるけど、全然楽だ。すごく歩きやすいし、過ごしやすい。


 平凡って幸せだな。



 クラスの教室に入ると、いきなり目の前に誰かが現れた。


「うぉう!!!何!?」


「すみれちゃん、大丈夫だった?昨日…」


 心配そうな顔でこちらを見てるのは、多分…

 この前のホームルームの時間に決まってた…


「委員長?」


「ごめんな、隠し通せなくて。あの後は無事に家に帰れた?」


 この声はもしかして?


「昨日、先輩にシラ切ってくれた人?」

「あぁーそうそう!棒読みでバレちゃったけどね」

「いや!私はあの棒読み感がいい感じだったと思うよ!」

「ん?え?ありがとう!」


「ってそうじゃなくて、無事帰れたのかい?」

「委員長はすみれのファンクラブのグループライン、入ってないんだ?」

「…え、そんなものあるの?」

「全校生徒のほとんどが入ってると思ってたわ」

「そんなに大規模なの?もう本当やだ」



 委員長は私をじっと見て、顎に手を置いた。



「うん、確かにすごく可愛いからわかるけど、芸能人でもないんだ、そういうのは良くないよな」



「……い、委員長、いい奴!」

「いやいや、ということはここにもそのライングループに入ってる人はいるな?」



 委員長が教室を見渡すと、みんなはなんとも言えない顔をしていた。



「今すぐ抜けよう、そのグループから」



 教室がざわついた。もちろん、私も驚いた。



「俺たちの学年、1学年は全員で320人居る。そしてクラスは8クラスに分かれるんだ。つまりこの1年3組のみんなは、0.125%の確率で40人集まった」


「わかりやすく言い換えると、そのわずかなパーセンテージで、俺たちは出会うことができた。その出会いをにするのか?」


 教卓に立った委員長は、さながら先生に見えた。


「ライングループの情報を信じるより、俺たち自身が接して得た情報を信じるべきだ。俺たちには出会う機会があり、仲良くなる機会もあるんだ、その方がよっぽどいいだろ?」




 教室にいる全員が、ポカーンとしつつも、委員長の変に真剣な眼差しに応えるしかなかった。





 \キーーンコーーンカーーンコーーン/






「袴田ぁ、教卓から降りなさい。そこは先生の場所だ、席に着け」


「あっ、すみません」




 その後、37人、ライングループから抜けたそうだ。










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恋する乙女はすみれの如く きりつぼあおい @aoi_0902

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