井蛙の一

春風月葉

井蛙の一

 ここは狭く小さな世界の一部でしかなくて、それでもここは私にとっての世界の全てで、外にはもっと広く大きな世界が広がっていることは、もう随分昔から知っていて、それでも私は外の世界を知ろうとは思わなくて。

 時々ここにやって来る友人がよく笑っていうのだ。

 お前は外のことを知らないままだから、いつまでたっても見識が狭いのだと。

 私は慣れた様子で彼の話を軽く聞き流し、いつものように青く澄んだ空を見上げていた。

 ここから見える空が一番美しいと私は思っている。

 しかし、彼の言うように一度外へ出てしまったらどうだろうか?

 もしも今より綺麗な空を知ってしまったら、私の一番は崩れてしまう。

 それはきっと、私にとって幸せとは言いがたいだろう。

 だが今の空以上に綺麗な空を見てみたくもあるのだ。

 だからこそ、私は何も知らないままこの井の中に居続けるのだろう。

 この生き方は幸せか?

 ……狭い世界では私のなき声がよく響いていた。

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井蛙の一 春風月葉 @HarukazeTsukiha

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