第6話

 ん?


 おお、目の前にあるのはいつもの景色じゃ。


 うむ、儂も元に戻っておる。


 しかし不思議な出来事じゃったわ。



 いや、もしかしたら夢だったのかもしれんの。

 そんな都合のいい事があるとは思えんし。



 お、いつの間にか暑い季節になっとるのう。

 前はやっと暖かくなった頃じゃったから、随分と寝ていたようじゃな。


 やれやれ、儂ももう年じゃのう。




 ん?

 おや、誰か来たようじゃな?


 ……え?

 ま、まさか?



「こんにちは。お久しぶりです」

「あの、はじめまして……じゃないですよね?」


 そこにおったのはあの小僧、いや光さんにあの青年。そして


「こんにちはおじいちゃん。会いに来たよ~」

 美紀ちゃんもおるではないか。


 おうおう、よう来てくれたの。

 ありがとうな……本当に。



 三人は儂やその周りを綺麗にした後、手を合わせてゆっくり語りかけて来た。

「ふふ、あの時のあれがきっかけで私達、こうなったんですよ」

 光さんと青年の左薬指には指輪があった。


 そうかそうか。よかったのう。


「あの、おじいさんは光さんのご先祖様だったんですよね?」

 青年がそう尋ねてきおった。

 ふむ、そう思うのか。

 

「ううん、ご先祖様とは違うわよ」

 光さんが首を横に振って言う。

「え、じゃあ誰?」

「誰って、目の前にいるじゃない」

 光さんが少し意地悪そうな笑みを浮かべておるわ。


 しかしさすがじゃな、気づいてくれとったか。


「目の前にいる? 僕にはお墓しか見えないけど」

「だからね、そのお墓よ」

「え、えええ!?」


 ふふ、そうじゃよ。


 儂は墓じゃ。


 ずっとここで皆の眠りを守っておる墓石じゃ。


「って、私も最初は遠いおじいさんか誰かだと思ったわ。でも『儂を綺麗にした』と聞いて『あ、そうだ。それは』とね」

「そうだったのか。でもまさかお墓に魂があるなんて」

「あるから来てくれたんじゃないの。ねえ、おじいさん?」


 まあ、儂もどうしてあんたらの所へ行けたのかわからんがの。


「ふふ。あ、あれ? 美紀は?」


 おや、そういえばいつの間に?

 

「あ、あそこにいるよ」

「え? あ」


 青年が指さした先は隣の墓じゃった。


 おうおう、あの時の母親と同じように、元気よくあちこちに挨拶しておるわい。

 


 何?

 また鼻が高くなっとるだろ、じゃと?

 

 ふん、ずっと自慢してやるわい。


 儂はこれからもずっとここにおるからのう。

 



 終

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ずっとここにおるからの 仁志隆生 @ryuseienbu

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