足りない部屋
春風月葉
足りない部屋
私は何に怯えているのだろう。
少し前まではこれが普通だったじゃないか。
一人の部屋、ポツリと座る私は孤独を感じていた。
ほんの半年前はこの部屋を狭く感じていたのに、今はとて広いように思えた。
全部彼の所為だ。
彼はいつの間にか私の心に居座って、だんだん大きな存在になって、ふっと幻のように消えてしまった。
それまで彼がいた空間が抜け落ちてしまった。
穴の空いた心を埋める術はない。
溜め息を吐く度に、また心に穴が開き、部屋に二酸化炭素が増える。
きっと私の孤独は癒えないのだろう。
私は今、怯えている。
怯える私を包み込んでくれる優しくて細いあの腕はもうない。
私は今、泣いている。
流れる涙を受け止めてくれる薄くて白いあの胸はもうない。
私は今…。
いや、彼はもういない。
帰ってきてよと呟いた言葉も二酸化炭素に変わる。
わかっているのに二人分の食事を用意して、二人分の布団を敷く。
わかっているから布団に入る。
見上げた天井には吐き出した感情の塊が見えた。
気持ちが悪くなって窓を開け、空気を入れ替えた。
古い空気が消え、新鮮な空気が入ってくる。
部屋は相変わらず広いままだった。
足りない部屋 春風月葉 @HarukazeTsukiha
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