第6話:戦い(お遊戯)と戦い(ガチ)

 闘技場に移動してから約5分後。俺は今ギルドマスターのケインさんと向き合っている。そう、これから対決することになったのだ。




 ちなみにケインさんの強さは、俺の危機管理能力が凄まじく反応し、それだけでなく周りの人もガヤガヤしながら苦笑いしているほどだ。




 はぁ。今すぐ逃げて殻に隠りたい。なぜ俺よりも圧倒的に強いケインさんと戦うことになったのか……。






 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「少しはマシな戦いをしろよぉ!ガキ!」


「はぁ。」


 完全にやる気を失い、早く宿に帰って鏡を見たいと思っている俺は適当に受け答えをする。早く開始してくれ。


「それではルールを説明します。模擬戦は相手が気絶するか、降参を認めた時に決着とします。相手を殺した場合は少しなりとも罪に囚われますので、しっかりと調節してください。武器は自分の好きな武器を使用して構いません。魔法の使用も可能です。なにか質問は御座いますか?」


「ねぇ。」「大丈夫です。」


「それでは構えてください。」


 その言葉を聞き腰を下げたガークは、大剣を頭の上に持ってきて剣先をこちらに向けるという独特な構えをした。


 俺はというと…棒立ちだ。それはもう素晴らしいくらいに。


「おいガキ。やる前からそれかよ。もう降参か?」


「いえ、構える必要もないので。」


「言わせておけばっ!!」


 あーやってしまった。怒らせちゃった。少しは冷静な相手の動きを見て、あわよくば剣術スキルを獲得しようと思ってたのに。これで俺が戦う手段は狼を倒した時に獲得した拳闘術しかなくなった。


「それでは。始めっ!」




 小さい受付嬢の合図を皮切りに、ガークは全力で突っ込んでくる。おいおい、Cランクが新人に対してガチでかかってきていいのかよ。


 もう俺のすぐ前まで迫ってきている。相手がガークだからか、不思議と怖くない。ガークの動きがスローに見えると言うのもあるのだろうが。


 真っ直ぐ突き出された剣先をスレスレで躱し、剣の腹を軽く押す。大剣に運動エネルギーが加えられ重心がぶれたのか一瞬ガークがバランスを崩す。直ぐに立て直そうとするが遅い。ガークの懐に潜り込んだ俺は、奴の顎に軽く左の拳を突き出す。




 しかし、流石はCランクと言ったところか。それなりの速さで繰り出された俺のパンチをもらう寸前、左手の掌で受け止めた。おかけで飛ばされはしたが、バランスを保っていたため転がることは無かった。




 そして再び2人の間に距離が生まれる。


「少しはまともなパンチが打てるみたいだな。でもよぉ、その剣は飾りなのか?」


 無理に笑顔を作ったガークが挑発してくる。“さっきまで”の俺だったら言い返す言葉がなかっただろう。


 そうさっきまでなら。


予想外にも、今の1合で俺は剣を振る腕が軽くなったのを感じた。恐らく剣術スキルを獲得したのだろう。そして、「武術の天才」の効果により、俺の剣術スキルは覚えた途端に最大限までレベルが上昇する。


 つまり俺は今、単純な剣術スキルにおいては誰にも負けないことになる。


 まぁわざわざガークに説明してやることでもないが。おかげで少しだけやる気が出てきた。




「ガークさんも思ったよりまともな剣さばきのようで。大丈夫です。次から“ちゃんと”剣を使いますから。」


「ふんっ。戯言は程々にしとけガキ。」


 この人はいちいちガキと言ってくるな。自分が高位の存在であるとでも主張したいのだろうか。よし、ぶっつb…現実を見せてやる!




「ではこちらから行かせていただきますっ!」


 言い終わると同時にガークに向けて飛び出す。「おわっ」あまりの速さに自分で少しびっくりする。が、飛び出して1秒たらずで俺はもう敵の目の前にいた。


「なっ」


 右手に剣が握られている感触に浸りながら、ガークが持つ剣の左側に向けて逆手で剣を振る。


 “カンッ!”


 といい音がなった瞬間ガークの剣は地面に落ち、回り込んだ俺は奴のうなじを掴みながらエッジを喉仏に当てた。




「しょ、勝者、ユヅキ!」


 小さな受付嬢が弱々しく声を上げる。


 誰が見ても圧倒的な試合。寧ろ、勝負にすらなっていなかっただろう。いつの間にか出来た人集りは新人の活躍に歓喜し、ガークは驚きのあまり口をパクパクさせていた。






「ハッハッハ。これは驚いた。職員達が言っていた“おかしいの新人君”は評価に見合うくらいに強いようだ。」


 それは唐突だった。


 できていた人だかりがパッと開けたかと思うと、そこには拍手をしながらゆっくりと歩いてくる50歳くらいで、ガタイがよく赤髪短髪の剣士がいた。周りには何人かの職員もいるようだ。




「お褒めいただきありがとうございます。所で、あなたは?」


 思っていたことを素直に口にする。


「あぁ、自己紹介を忘れていたね。私は王都グラハミストでギルドマスターをやっているケインだ。今日はたまたまローガリックに用事でね。そんな時、ここの職員達が騒がしくユヅキ君の事をトールに伝えに来たんだ。そこで、試合を見学させてもらったというわけだよ。」


 といい、トールさんに顔を向ける。トールさんの頭に反射した太陽光が眩しい。しかし、これまたイカついトールさんにそんなことは言えない。


「俺はここローガリックでギルドマスターをやっているトールだ。よろしくな、新人!」


 ギルドマスターだった。


 だか俺にはギルドマスター2人が試合にやってくるほど職員を騒がせた心当たりがない。そんな考えを感じ取ったのか、ケインさんが教えてくれた。


「職員達曰く、君のステータス値がおかしいという話だったんだ。それも、その若さで騎士団上位に入れるほどだとね。ちなみにギルド職員は皆鑑定スキルをもっている。そこで、ステータス詐称系の能力を持った者がいるのかと試合を見に来たんだが……。


 どうやら君のステータスは本物だったようだ。」


 口を大きく開けて笑うケインさんは嬉しそうにそういった。


 しかしなぁ、ステータスを見られていたなんて驚きだ。そういえば、登録の時に何人かの職員がこちらを見て驚いていたのって…。


まぁでも流石にこのステータスをもった17歳がいたら気になり確認しにくるだろう。




 ケインさんが言葉を続ける。


「今の試合で君のランクはCを保証しよう。そこで1つ提案なんだが、私と模擬戦をすれば、内容によっては君のギルド評価を上げてやろうと考えている。そうすれば早いうちにBランクも見えてくるだろう。どうだね?いい話だと思うんだが。」


 目には熱が入っており、強者のみが持つ独特のオーラを放ってくる。




 危機管理能力がビンビンに反応する俺はケインさんの提案を断ることが出来なかった。だって怖いんだもん。


「分かりました。宿も探さないと行けないので今からでもよろしいですか?」


 あくまで冷静を装う俺は、窓から顔を覗かせる傾きかけている太陽と自分の剣の様子を確認しながらそう答える。剣はまだ持ちそうだ。


「受けてくれるか!いいとも。元々無理を言ったお願いだ。よろしく頼むよ。」


 そう言って俺から距離をとり、軽く準備体操をしている。俺は急に決まった試合に不安を感じていた。


 ふと横から聞こえた声の方に目をやると、いつの間にか小さい受付嬢は元の位置に戻っていた。


「ルールは先程と同じでよろしいですか?」


「はい。」「あぁ。大丈夫だ。」


「それでは…」


 俺たちの様子を確認する。俺は今度こそしっかりと構える。西洋剣ではあるが、日本にいた頃体育の剣道で学んだ正眼の構えだ。


 一方ケインさんはガーク同様大剣のようだが、半身で腰を落とし、肩の上に剣を置くその構えに全くの隙が感じられない。


 この時点で俺は敗北を悟った。力量の差は剣を交えずとも、その構えと雰囲気、目で分かるものだ。しかし、負けず嫌いの俺のこころが体を奮い立たせる。


 テンションが一気に、レイドの世界に来てから最高潮までに上がる。


「始めっ!」


 その合図と共に二人同時に足を踏み出す。俺が来るとは思っていなかったのか、大剣では不利な距離まで詰まる。先程同様左から振りを繰り出す。大剣でそれを打ち落とそうとするが、これは囮。体と手首を捻り、下から剣を移動させ右肩を打つ。これも読まれていたのか体をひねったケインさんは難なく躱す。2つ目の囮も処理されてしまったが、本命は左手…パンチだ。


 体をひねって無理な体制をしているケインさんの首を狙い全力で腕を伸ばす。


 勝負は決まった。






 と、思われた。


 俺の左手はいつの間にか戻ってきていた大剣の腹に当たった。


 瞬間、体制を立て直したケインさんが左の足のつま先を俺の鳩尾に刺した。


 油断していた俺はろくにガードもできず飛ばされた。なんとか受け身をとりワンバウンドで立ち上がった俺に追撃が




 来なかった。


 その場で立ったまま動かないケインさんは大きく笑いながら言った。


「ユヅキ君!これは予想以上だ。私も気を抜いていたらやられていただろう。」


 嘘つけ。このじいさんに限ってそれは無い。今の俺では到底かなわない程の実力差があるのだ。もう当分戦いたくはない。


「まぁまぁ、これ以上やってももう意味が無いだろう。君の実力は大体わかった。それに、私も君との試合で手加減など出来そうにないからね。」


 今恐ろしいことを言った気がする。でもまぁ、これ以上試合を続けるのはこちらからも願い下げだ。骨が折れる。


「そうですね。僕もケインさんにはかないそうにありません。お手合わせいただきありがとうございました。」


「あぁ。それと君のランクは私の権限でBランクに上げることにしよう。君ほどの者がBランクと言うのも納得はできないが、経験も必要だ。少しずつこれからランクを上げていけばいい。」


 この言葉に周りがうるさいくらいに座喚く。あとから聞いた話だか、登録初日にBランクになるのは相当に稀なことで、それに加えケインさんから試合を終わらせることなど、ほとんどないそうだ。


「ありがとうございます。」


「それと、私は明日には王都に戻る。君がいつか来てくれることを待っているよ。さて、受付に戻ろう。」


 そう言いながらケインさんはトールさんや他の職員を連れ戻っていった。周りの人もそれを見てバラバラと散っていく。




 出遅れた俺は慌てて後を追った。途中、ガークが声をかけてきたが、声が小さくて聞こえにくかったので無視しておいた。

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俺、作者だけど、今自分の小説内にいます。 佐野 希 @mato756

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