オボレちゃんは沈めたい

六畳のえる

オボレちゃんは沈めたい

「気になる人が出来た、んだけど……」


 私の突然のカミングアウトに、火元ひのもとやかれが「ホントに!」と立ち上がる。熱で焦がしたかのような、チリチリの赤い髪がバフッと揺れた。



「オボちょん、この前から2ヶ月経ってないんじゃない? 恋多き女ね。でも協力するよ、燃えてきた!」

「分かった分かった、とりあえず座って」


 170近い身長だから見上げるのが疲れるし、男子の目を日々釘付けにしている大きなお尻が目の前にあると、羨望で自然と口が尖ってしまう。



 私立坂西はんざい学園、家庭科室でおしゃべりに興じる、家庭科部。部活と言ったって、高2で同じクラスの仲良し5人組で創設申請しただけなので、先輩もいなきゃ後輩もいない。


 もちろんみんな料理も裁縫もそれなりに好きだけど、こうして何も作らずに制服のままでまったり過ごしていることも多かったりする。


 私、水嵩みずかさおぼれが一応部長ってことになっている。特に面倒な仕事はないけどね。



「で、どんな人なの、ねえねえ!」


 電気を点けて目を爛々と輝かせる焼。夕方17時を回ったとはいえ、7月の暑さは窓を全開にしたくらいじゃ凌げない。


「んっと、サッカー部の比賀井ひがい先輩って知ってる? 3年生の」

「知ってるも何も超有名人じゃん……またオボちょんは倍率高いところを……」

 頭を抱えて「ぬおお」と呻く。相変わらず分かりやすいリアクションだ。



 火元ひのもとやかれ。クラスでも部活でも元気印。イベントや恋バナを見つけては燃えている、ムードメーカー。

 軽く水で濡らしたような黒髪ウェーブの私からすると、真っ赤なスパイラルパーマはとっても派手で目立つ。



「もっと倍率低いところ狙えば良いのに」

「ちょっと待って焼、何で私が負けること前提なのよ。沈めるわよ」

「あんまり自信満々でいかない方がいいよって忠告してるだけでしょ。燃やすよ?」

 気が合いすぎるのか、こんな軽口はいつものこと。すぐに2人でプッと噴き出す。


「でもホントに人気だよ、比賀井さん。シマちょんも知ってるよね?」

 向かいでずっと本を読んでいるしまりは、焼の質問に答えない。食い入るように、ミステリらしき文庫を捲っている。


「シマちょん? おーい、シマちょん! 生きてるかー!」

「…………えっ、あ、ごめん、焼ちゃん。ちょうどトリックのシーンだったから」

 ふいに顔をあげて、「で、何?」と聞き返す。完全に1人の世界だったわね……。



 部内で一番物静かな、繩巻なわまきしまり。細いポニーテールの茶髪は、少し縒れば縄のよう。いつも本を読んでいて、熱中のあまり呼吸してないんじゃないかと思うときがある。


 しかし、私は知っている! 男子はこういうおとなしめの子が好きだし、そんでもって私とそんなに背が変わらないのにそんなグレープフルーツみたいな胸を抱えてる時点で男子はギャップ萌えなんだ! 読書好きで巨乳、なんかズルい!



「比賀井さんなら知ってるよ。うちのクラスにも狙ってる子いた気がするけど」

「え、誰! 絞、教えて!」

 机を兼ねた調理実習台から身を乗り出し、彼女の胸に飛び込む勢いで顔を近づける。


「んっと…………忘れちゃった、ごめん」

「んもう! 使えないなあ」

「何よ、溺ちゃんは人の噂全部覚えてるっていうの? 絞めるわよ」

「はいはい、私が悪かったわ。沈めるわよ」

 そっかあ、そんなに人気者なんだ。



「溺ちゃん、好きになったきっかけは?」

「いや、好きというか、気になってるというか……ん、好きなのかな……その……私が帰るときに練習休憩で水飲んでる比賀井さんとすれ違って……カッコイイなって……」

「っかあーっ、甘い! 甘酸っぱいねオボちょん!」

「ステキっ。興奮して窒息しちゃいそう」


 自分のおでこをペチッと叩く焼と、両手で顔を覆う絞。アンタ達、完全に楽しんでるわね。


「まあでも、競争率高いってことは分かった。どうやってアプローチするかよね」

「やっぱり料理じゃない? 家庭科部なんだし、男を掴むにはまず胃袋を掴む!」

「料理かあ」



 ありきたりかもしれないけど、それが一番かな……と考えてるところで、風紀委員会に出席してた2人が部室に入ってきた。


「よおオボレ、何盛り上がってんだよ!」

「うわっ、さされ。一番聞かれたくなかったのに」

「そうそう、ロクなアドバイスが出なそう」

 私と焼の冗談に、彼女はニカッと歯を見せて笑う。

「んだとお? お前ら、どっちも刺すぞ」



 刃渡はわたりさされ。つり目で端正な顔と男っぽい口調で、同性からバレンタインにチョコ貰っちゃう系女子。ちなみに男子に一番モテるのは絞。ちぇっ、羨ましい……。


 さっぱりしたキャラクターで男友達も多いみたいだけど、彼らが刺の豊満なバスト・ヒップに興味津々なことは、傍から見てても分かる。

 でも、個人的に結構なチャームポイントだと思っているのは髪。固いグレーのミディアムロングは毛先がツンツンしていて、ヘタに触ると血が出ちゃいそう。



「溺ちゃん、好きな人が出来たんだって」

「また溺さんの恋バナなのです。よくそんなに飽きずに恋が出来るのです」

 もともと悪い目付きを更に悪くして、しびれが毒づく。鞄を隣の実習台に置いて座り、これで部員5人全員集合。


「痺も一度恋をすれば分かるわよ。それだけで毎日の学校がバラ色なんだから!」

「ふんっ、上から目線なのです。いつか痙攣させるのです」

「へへんっ、その前に沈めてやるわよ」



 毒入どくいりしびれ。可愛い顔立ちだけど、変な薬でも飲んでるのかと思うほど目付きが悪い。髪も真っ青なストレートで、全体的に不健康そう。普段静かなのは絞と変わらないけど、痺の方がネガティブでちょこちょこ毒を吐く。



「っていうか、刺も痺も、委員会終わったの? もっとかかるって言ってなかった?」

「んー、なんか話し合い長引きそうだから、予定あるって出てきた」

 頭の後ろで腕を組みながら、あっけらかんとする刺。


「大丈夫なの? 委員長怖いって言ってたけど、追いかけてこない?」

 痺が「問題ないのです」と、反対側の校舎を指差す。


「この校舎とさっきの校舎を繋ぐ唯一の通路は通れなくしておいたのです」

「昨日ここの固定電話の線も切っておいた。この部室には電話は繋がらない」

「なるほど、この部屋は校内の孤島ってわけね」

 絞が口元だけ笑って見せた。



「シビちょんもササちょんも、比賀井先輩って知ってるでしょ?」

 あのサッカー部の、と焼が訊くと、どちらも宙を見上げて思い出す仕草。


「私は聞いたことないのです」

「ああ、知ってるぞ。アタシがサッカー部の男子と話してるときに混ざってきたな。結構女子に人気なんだって?」

 ううむ、こりゃ本気でいかないと勝てそうにないわね。


「で、オボレはどうやって近づくつもりなんだ?」

「ううん……せっかくだから料理作ろうと思うんだけど、渡すきっかけがなあ……刺がサッカー部と話してるときに混ざろうかな」


 すぐに4人全員から一斉にブーイング。「他の男子がいる前で比賀井さんにだけ料理渡すって感じ悪すぎ」「大体オボレが混ざる意味が分からない」「真剣に考えないと絞めるわよ」と散々。


 焼が私の両肩をボンッと叩いた。


「オボちょん、ここは正面突破! 部活終わるの待って呼び出して『食べてください!』って渡すの」

「ええっ! そんなこと出来るかなあ」

 不安だ……気が沈む……。


「痺ちゃんも、刺ちゃんも、賛成?」


 茶髪のポニーテールを結び直した後、手のひらを上に向けて楽しげに尋ねる絞。痺は軽く溜息をついて答えた。


「ネタとして面白いから、乗ってみるのです」

「アタシも! 明日の部活は調理で決まりだな!」

 話がまとまったところで、作るレシピを考える。


「定番はやっぱり……はちみつ入りレモネード?」

「焼ちゃん、それはもう部活のマネージャーが作ってるって。絞めるわよ?」

「そうだよね、ごめんごめん」

 ってことはやっぱり料理よね、うん。



「栄養のあるもの……野菜……でも肉の方が好きだよねえ……」


 ブツブツ独り言を言いながら、候補を絞る。一瞬強くなった風がウェーブの髪を揺らして、首元がくすぐったい。


「比賀井さんが身を焦がす料理……」

「溺ちゃんが気になって息もできなくなる料理……」

「痺れちゃう料理……」

「心に刺さる料理……」

「比賀井先輩が私に溺れる料理……」


 全員でスマホに向き合い、レシピを検索。

 しばらくして、刺が画面を見せてきた。


「なあ、これどうだ? ロールキャベツ」

「おっ、いいねササちょん! 野菜と肉!」

「ボリュームもあるし、いいかも。刺ちゃんナイス!」

 URLを共有してもらい、材量を確認。


「じゃあ部長の私が食材を買ってくるから、明日みんなで作ろう!」

 エラそうに言ってみた私に、焼が「おい」とツッコむ。

「部長云々の前にオボちょんが買うに決まってるでしょ。焼くわよ」

「絞めるわよ」

「痙攣させるのです」

「刺すぞ」

 4人の見事な連携に、私は苦笑しながら手をひらひらさせる。


「はいはい、沈めるわよ」

 さて、比賀井先輩のために、帰りにスーパーに寄らなきゃ!




***




「よし、みんな準備できたわね! それじゃみんなでロールキャベツを作るわよ!」

「おーっ!」


 翌日放課後。全員エプロンを着て、材量の乗った調理実習台を囲んだ。

 部長の私が進行役。


「まずはスープから。刺、玉ねぎ薄切り、にんじん賽の目、トマトみじん切り、切ってもらっていい?」

「おう、任せとけ」


 グレーでトゲトゲの前髪をピンで留めて、刺が包丁を持つ。


「へへっ……やるしかないね……やるしか……」

 興奮に息が荒くなり、弓のように口元がくいっと緩む。



「お前が悪いんだ……お前がそんなに切りやすそうな体してるからさあ!」


 トントントントン……


 華麗な包丁捌き。さすが刺、5人の中で一番料理上手。しかも切ってると豊満な胸とお尻が揺れる! 何これ、同じ女子として羨望しかしない。沈めるわよ。



「この前、ブレーカーが落ちたときのさされさんの技もすごかったのです」

 青い髪を後ろに払いながらうっとりした表情を浮かべる痺に、焼も同調して頷いた。


「夜に調理してて真っ暗になったときね。手元の包丁が見つからないからって、胸ポケットに入れてたアイスピックを使うとは思わなったわ」

「へへっ、褒めすぎだよ。ほら、いっちょあがりだ」

 流れるような動作で、まな板からボウルに刻んだ野菜を移した。



「で、これを鶏ガラスープを加えながら煮込む、と」

「ワタシの出番ね!」


 焼が実習台横の板を外すと、2口コンロが現れた。IHになってる学校もあるらしいけど、坂西はんざい学園はまだガスコンロ。


「ふふっ、火力強めでいこうかしらね」

 ゴトクの内側、発火する部分にびしょ濡れの布を置く。


「ヤカレ、それ何だ?」

「ガソリン染み込ませてあるの」

「そりゃよく燃えそうだ」

 刺がケタケタと笑った。



「じゃあ、火を点けようか」


 不敵に笑い、つまみを回す。ゴウッと激しい音が響き、彼女のスパイラルパーマのように赤い炎が、唸りながら鍋にぶつかった。


「煮込まれるがいいさ、罪の業火に焼かれてね!」

 うんうん、これで鍋の方は大丈夫そうね。


「痺ちゃん、何してるの?」

 料理台の反対側で何やら水筒を準備している痺を、絞が興味深そうに覗き込んだ。


「ロールキャベツだけじゃ喉が渇いてしまうのです。お茶も用意してあげるのです」

「その氷は? なんかカプセルが入ってるけど」

「昨日からここの冷凍庫で準備しておいたのです」


 絞が指差した製氷皿には、病院でもらう薬のようなカプセルが中に入った氷が10個出来上がっていた。


「サプリメントなのです。ハードな運動の休息にぴったりのアルギニン、オルニチン、ビタミンB6、亜鉛、マグネシウムなんかを入れているのです。ポイントは溺さんが先に飲むこと」

「へ、私?」


 もともと悪い目付きを更に悪くし、青い髪を揺らしながらニタァと笑う。


「差し入れのときに『私も喉渇いちゃった』と言って一口飲んでほしいのです。その時は氷が溶けてないただのお茶ですから、相手もまさかサプリ入りとは思わないのです。その後、しばらく経って比賀井さんが飲んだときには、氷もカプセルも溶けて――」

「あえなくサプリ入りを飲んでしまう、ってわけね」

 驚いて目を見開くのが楽しみです、と2人でクククッと歯を見せる。



「さて、そろそろ煮詰まるわよ、オボちょん」

「オッケー、じゃあ私の出番ね。葉を何枚か取って、お湯に潜らせるわ。焼、沸かしておいて」

「任せておいて。さあて、今度は灯油でも染み込ませようかな!」


 ブラウスの袖を捲る焼にヤカンを渡しつつ、買ってきたキャベツ1玉をスーパーの袋から取り出す。


 ボウルに水を張って、洗う準備。人間の頭のようなキャベツを、ゴロンとボウルに入れる。



「……沈めるわ」


 バシャン、と水を跳ねさせながら、両手でキャベツを押さえ込む。抵抗できないように、強く、強く、力を入れた。


「浮かぶな……浮かぶな……っ! 二度と浮かんでくるな!」


 指が震えるほどありったけの力で、キャベツを押さえつける。

 泡も出ない。出るのは、私の口から微かに漏れる、歯ぎしりの音だけ。


 相手の力が抜けた気がして、そっと手を離す。もはや何の抵抗も示さず、ぷかあ、と浮かぶキャベツ。


「あとは葉を取って、と……」


 お湯にサッと通すと、鮮やかな緑色になった。比賀井先輩の喜ぶ顔が目に浮かぶ。


「よし、タネを作ろう。つなぎと挽肉――」

 刺がボウルでこねられた赤茶色の塊を見せながら、自慢げに顔を綻ばせる。


「オボレ、もう混ぜてあるぞ。指示が遅いっての、刺すぞ」

「ありがと。今度から作るときは一言言ってよね、沈めるわよ」

 キャベツを縛るかんぴょうも湯戻ししたから、と。


「絞、タネをキャベツでくるんで、これお願い」

「うん、分かった」


 首をパッパッと振り、縄のようなポニテを定位置に戻してから、絞が少し長めのかんぴょうを手に取る。細く切られた、白い紐のような食材。


「まずはタネを包んで……こうかな……」


 俵型になった挽肉をキャベツの葉の中央に置き、両サイドを畳んでからくるくると巻いていく。



 あーあ、いいなあ。物静かで巨乳なうえに料理ができるなんて、最高の男子人気属性じゃない。


「で、縛るのね」


 かんぴょうを両手で持ち、手早く蝶結び。引っ張ってもキャベツやタネがぐちゃぐちゃにならないようにしてからが、彼女の本領発揮。


「あああああああああああああっ!」


 渾身の力を入れて、蝶結びの結び目を握って引っ張る絞。

 最愛の恋人のかたきかと思うほどの力と叫び。もう二度と、取れそうにない。



「私のこと分かる? ねえ、分かる! そうよ、繩巻絞よ!」



 あーあ、いいなあ。物静かで巨乳なうえに料理上手。いいなあ。



「呼吸なんかさせない! させてやらない! アンタにその資格はない!」



 やがて、やり遂げた表情で手を離す。ぐったりとして動かない、ロールキャベツの原型。


「絞さんの調理は惚れ惚れするのです。痺れるのです」

「ふふっ、ありがと、痺ちゃん。溺ちゃん、分量的にあと10個くらい作れそう」

「分かった、全部作れたらスープに沈めよう!」


 こうして、5人でわいわい騒ぎながら調理は進んでいった。





「できた!」

 すぐに渡せるよう、タッパーに詰めたロールキャベツを囲んで、全員で拍手。


「試食、美味しかったよね? 変な味じゃないよね?」

 不安になる私の後ろ髪を、焼が撫でる。


「大丈夫だって、ワタシ達もさっき食べて、みんなで絶賛しただろ? それに、オボちょんの愛情が籠ってるから心配ない! 渡しにいこう!」

「そうなのです、溺さん。部活もそろそろ終わるはずなのです。この水筒と一緒に差し入れするのです」

「……ありがと。一緒に……来てくれる?」

 そのお願いに、絞と焼が肩を叩いてくれた。


「当たり前だろ」

「ここまで来たら最後までお付き合いするよ」

 うん、ああ。友達って、いいなあ。






「あ、ほら、あれでしょ? 比賀井さんって。今倉庫の方にカラーコーン片付けに行った」

「う、うん。そう。うわあ、緊張してきた」

 家庭科部一同、一列になって、倉庫の横まで忍び足で近づく。


「オボレ、倉庫から出ると他の大勢の部員と合流になるから、ここで渡した方がいいんじゃないか?」

「そうだね……確かに1人のときの方が……」

 しかし、私の期待とは裏腹に、倉庫から話し声が聞こえてきた。


「比賀井さん、今度の日曜、またアレ企画して下さいよ」

「え、まあいいけど。他のヤツにも声かけてみるかな」


 残念、他の男子と一緒か。でもせっかくのチャンスだし、やっぱりここで――



「でも最高でしたよねこの前のも! 比賀井さん、また3人くらい頭弱そうな女子入れてくださいよ!」

「そのつもりだぜ。俺が誘えば何人か来るだろうし」


「で、ジュースだとか言って酒呑ませて好き勝手しちゃうんだから、悪いですよねー、うちのサッカー部のエースも!」

「へっ、あんなん騙されるヤツが悪いんだよ。写真押さえてるからチクる勇気のあるヤツはいないだろうしな。あー、話してたらやる気出てきたぜ! 今度はスタイル良いヤツ集めんぞ!」



 全員で目を合わせる。


 ほぼ一斉に、口を開いた。


「焼くか」

「絞めるわ」

「痙攣なのです」

「刺す」

「…………沈めるわ」




***




「よっす、オボちょん」

「溺ちゃん、おはよう」

 翌朝、学校に一番近いコンビニを通ったところで、焼と絞に会う。


「今日、英語小テストだよね?」

「うわっ、最悪。イディオム覚えてないし!」

「焼ちゃん、3限だから休み時間にやれば大丈夫よ」

「テスト多すぎなんだよなー」


 先生の悪口に発展したおしゃべりに、後ろから痺と刺が加わる。


「よっ、オボレ! 何の話?」

「英語の小テストよ。刺はやった?」

「げっ! そんなこと言ってたっけ?」

 焼以外のみんなで溜息をつく。


「刺さんはいつも英語の授業寝すぎなのです」

「そうそう、刺は国・社・理・数・睡だもんね」

「うるさい、刺すぞ」

「寝る方が悪いのっ。沈めるわよ」



 家庭科部の仲良し5人組で笑いながら、正門を潜る。



 この学校の生徒が1人減っていることを知っているのは、多分まだ私達だけ。

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オボレちゃんは沈めたい 六畳のえる @rokujo_noel

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