エピローグ2 聖邪の近況


 ちるりゆうせいったこくびやくの激光は大陸の空をはしり、種族問わずその目にまたたいた。大陸に住まう者で、その光を目にしなかった者は少ない。


 それは、連合諸国からはなれて西方──エルフの国においてもそうだ。


 森の集落から外れ、清流が流れるほど近い場所で、一人の女性が空を見上げていた。


「あぁ──。そう。そうなのね。……アルヴィス」


 その人物は緑中において黒い聖衣を身にまとい、かたわらには中性的なふんを持った人物を引き連れている。


「イザナ様、あれは──あの光は。もしや、きようちようでしょうか?」


 従者らしきその人物もまた、空を見て静かなおどろきと不安を表情に乗せている。それに、イザナと呼ばれた女性は首をゆるった。


「いいえ。あの光は死んでも戦うことを止めない、困った死者のもの。心配はいらない」


 そのくちにはみがあり、従者はまゆを八の字に寄せた。


「ええとその、心配いらないとおつしやるにはまがまがしい感じを受けるのですが……? つうそれ、とうばつしなきゃならない系のやつではないですか?」


だいじよう。元気そうで安心したくらい」


 言ってから、イザナは再び空を見る。光はしずまりつつある。


(この三年、おと無かったのに。おそらくは、私のしゆつぽんけいと見たフブル先生の呼びかけ……。としの割に相変わらずおせっかいで、心配しようで、情の深いお方)


 けいかいを見せる従者のかたわら、イザナは『かれ』が世に出た理由を自分にいだす。それはかのじよにとって後ろめたさであり、同時に少しだけうれしい。


(もちろん先生は、かれを再び表の世界にむかえる機会を、元からはかってもいたのでしょうけれど。全く、かれにはひときわあまい……)


 しようかべたまま、かのじよひとみに少しだけのかなしさが乗った。


(アルヴィス……貴方あなたを呼び覚ませば──世界に放てば、結局こうやってけんを取る。いまごろは、やんでおられるのかもしれませんね、先生。


 …………そのことは、私も少しだけ、残念だけれど)


 そうやって『せいじやの神火』イザナはしばらく、空を見ていた。いとしの死者を、その中に探すように。




 了

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昔勇者で今は骨 佐伯庸介/電撃文庫 @dengekibunko

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