エピローグ

エピローグ 竜魂のゆくえ


「……で、どうやって降りたんだ?」


りよくの足場を横に出してって、連続で横っ飛びしながら落下速度ちょっとずつ落として、後はりよくの足場に着地して、飛び降りてもだいじようなくらい下にまた足場作って……のかえし」


「でたらめ過ぎるわあんた……はー泣いて損した……ぐずっ」


「うう……ちーん……でも良かったよお……」


りよく切れかけてよろいくずしながらさあ……。心底ヤバかった……。骨折はしてないが骨が折れた。おいハルベル、がいとうで鼻かむな」


 後に、第二次りゆうおうぼうえいせんと名付けられた戦いから数日。ひいこら言いつつ帰ってきたアルは(空中で結構流されたのだ)、大泣きしながらむかえたハルベルとミクトラ、レヴァにしがみつかれつつ歩いている。


「ええい、いー加減やめんか歩きづらい! つかれてんの!」


 ぽいぽいぺい、と三人を放ったのはフブル・タワワトどうさいしようしつ室だ。アルはじゆうたんしりもちをついた三人をたんそく混じりに見回してから、フブルに向き直る。


「んで、後処理は?」


「お主はいっつもいっつもわしに投げるのう……。ねらってんじゃなかろうな」


 あんしつつもうんざりした顔のフブルだ。


「残っておったワイバーンも、りゆうげきによってちようさんしよったわ。しばらく周辺町村の警備はいるが、とりあえずはこわれたかいどうやらがいへきの復旧作業中じゃ。人的がいは兵隊・ぼうけん者中心にしようレベルに留まった。ま、完勝に近いの。ざまあ。りゆうざまあ」


 意地の悪いみをかべるフブルさいしようである。そうしてから、表情を直す。


「──今回はお主のおかげで助かった、アルヴィス。そこな三人もな。重ね重ねになるが、この国のまつりごとを行う者として礼を言わせていただく」


 頭を下げた。三人むすめはあやややとあわてる。


「重ね重ね?」


「お主がおらん間にほうしようえつけんは済ませた。そーゆーのめんどうがるじゃろお主」


「よくぞんで。……ところで三人? レヴァ、何したの君」


「あんたやっぱあたしに厳しくない!? 商売人みんなりゆうこわがってなんもってるから、ちゆうからあたしがいへきの内側薬とか補給物資積んで回ったの! ぐるぐるしたの!」


「そーかそーかすごいすごい」


 ぎゃーぎゃー言うレヴァを骨指ででてなだめつつ、アルはフブルへどくを向けた。


ほうしようってことは……」


「うむ、ハルベルちゃんの功績大として、かのじよの望みが全面的に認められた。エンデ村はもちろんほう使つかい資格も飛び級ゲットじゃ。今は蠟燭キヤンドル級のぼうけん者で登録されとる」


「でもめっちゃおこられた……。一生分くらいおこられた……」


「当たり前じゃい。命知らずにもほどがあるわ」


 後をぐように、ミクトラが言う。


「私とレヴァはまあ、他の者たちに多少色が付いた程度さ。後は、貴方あなただ」


 アルが指骨でみずからを指し「おれ?」とけいついかしげた。


「ドラゴンスレイヤーが何言っとる。ぼうけん者アル。お主は聖火セイクリツド級に格上げというれんらくが組合から来とる。さらに、エイン王国めいしようごうあたえられる」


 めいとは、エイン王国において外国人と平民にあたえられる最高のしようごうだ。王国ではに準ずるあつかいを受けることが認められ、貴族にも例外的に意見が言える。


 当然、アンデッドにあたえられるのは異例中の異例だ。というか、王国史初である。


「あっそー」ただ、本骨の反応としてはこうだ。指骨ががい道をさまよった。


「軽!」


「だわな。元勇者だし。ま、このくんしよう付けておれば、不当なあつかいを受けることも減るじゃろ。とっとけとっとけ」


 フブルがくんしようをぽーいと投げ、アルがキャッチ。雑にもほどがある(つうの貴族が見たらあわくことは確実だ)が、この二者の間では仕方のないことだ。レア度が足りない。


「へいへい。略式でいのはがたいね。……んで、ドラゴンスレイヤーといえば」


 アルの存在しない視線が問いかけて、意図を一同が察した。ダイスだ。


「あれはのー……姉引き取ったらさっさと帰りよった。んで、『正体バラすな・っとけ』と。こうじゃ」


「さもありなん、だな」


 実際のところ、ダイスの正体など明かしても王国にとって利点は何もない。人を積極的に害する意志がないと分かった以上、放置がベストである。姉に危険がおよべば勝手に動く防衛装置のようなものだ。


「じゃがまあ、何も無しというのもの。つう訳でアルよ、お主こいつ持ってってくれんか」


 言ってフブルが机に置いたのはへいぶくろだ。かなり重い上、全て金貨である。


「……これどっから出てんの」


 フブルが「するどいの」とにやり。


「アルヴィス基金。名目上はドラゴン退治の補助。勇気ある行いであるゆえ、今はき勇者に代わりこれをさずける──という、御題目」


「最っ悪。ヤダ。他のやつに行かせてくれ」てるようにアルが言う。


「アルってダイス君のことになると子供っぽくなるよね」


「ワガママ言うでない。アレと対等に話せるのなんぞわしとお主くらいじゃろが」


「王国貴族としてしやくぜんとせん思いは私にもあるが、しんしようひつばつです……だぞ、アル」


「良く分かんないけどあげたらいいんじゃないのー? パルムックでしょ? あそこへんだよー。ろくな公共せつも無いし」


「ぐぐぐ……くそう、寄ってたかって」


 四人それぞれから説得を受け、アルがしぶしぶふくろを受け取った。


   ○


 そうして、パルムック村である。


「ありがどうございまずぅぅぅ~~~~~~! なんど、なんどお礼をいっでいいがぁぁぁあああ~~~~! 良がっだぁ生ぎでらじでぇ~~~~!」


「いや死んでるんですが。お姉さん。落ち着いて」


 アルが村に入るなり、顔中から液体を散らしてルーラットがこつばんへとすがりついてきただいである。おんおん泣いている。


(そーいえば、この人にダイス見つけてくれってお願いされてたんだった)


 そういう事情の上、りゆうたおされた後ダイスが帰ってきてアルはゆく不明である。ルーラットとしては気が気でなかったというものだ。アルがなんしていると、


《後で屋根へ来い》念話が飛んだ。


「ま……いいか」


 村人のなま暖かい視線を受けつつ、りゆう殺しの骨はつぶやいた。




「ほれ。おちん


「いらん。持って帰れ」


 屋根の上、月光と星空に照らされる中で、アルの予想通りの返事である。骨指がふくろらしつつ、


「いらないなら村に寄付でもしろよ。増やすなり製材所作るなり水車作るなり。ルーラットさんも楽になるだろ」


 これに、ダイスはちんもく。ややあって、目にも留まらぬ早さでふくろを引ったくる。


「安心しろ。フブルさんも秘密は守るってさ。悪さすんなよ」


「ちっ、あのふるだぬきめが。知ったことか……」悪態の後、気付いたようにダイスは問うてくる。「貴様、まだ王都に留まるのか」


「心配しなくてももう行くよ。ハルベルの資格も取れたし」


もりか。物好きなことをするものだ」


「うるさい。そもそもおれはイザナ探してんだよ。お前知らないか。知ってるだろイザナ」


 問いかけに、ダイスは人間としての年相応のきょとんとした顔を返した。


「イザナだよ。お前と戦った時にもいたろ。黒服の。変な角付けた。何で忘れてんだ」


「あぁ……アレか。なるほど」なつとく顔のダイス。「生前の貴様とつがいだったようだしな」


ちげぇよ!?」


 そうなのか、と意外な顔をする少年だ。


「とにかく、ちょっとしつそうしてさあ。心配はしてないが、探してる。心当たりないか」


 対象をにんしきして、ダイスは初めて思案を始めた。


「知るわけが……いや、そうか、やつか。前世で話したことがあるな……。一度、エルフの国へ行きたいと言っていた」


「本当か」がしゃ、と勢い付いてアルがく。


「そう聞いただけだ。いるかどうかの保証はせん」


 小規模の森部族ならばそこかしこに存在するが、国家規模、となれば大陸西方である。


「まーちっと遠いが、あんちゆうさくよりはよっぽどマシだ。いやだけど礼を言ってやる……ところで、お前の方はどうするつもりなんだ、三さい


 アルは立ち上がりつつ、問う。ダイスが白骨をいつしゆんだけ見上げ、視線を月へもどした。


「──さく中だ。人は中々せんたくが多い」


「今さら自分探しかよ」ややあきれ気味のアルだ。


「この転生、神の仕業ではあるだろうが。向こうのおもわくに乗ってやるつもりもない」


「それにゃ同感だ。……殺しといてなんだが、精々ルーラットさんのため元気にやれよ」


「余計な世話だ。貴様こそうっかりしようてんせぬよう気を付けることだ。次こそ、やつらやつらがすまいよ」


   ○


「そう言うわけで、西に向かう。一応最後にまた聞くけど、おれがイザナ連れ帰るまで、王都に残って勉強しててもいい。どうす──」


「行きます! 行く行く絶対行く! 置いてったら泣くからね!」


 食い気味に挙手してくるハルベル。アルはけんこうこつをすくめた。


 翌日の王都、中央門前である。アルの出立に、ランテクート夫妻は後数日、と別れをしんだが、王都のたいざいは数ヶ月におよんだ。あまり時間をにしてはいられないというアルの判断だ。レヴァやフブルとの別れも、早い時間に済ませている。


 ハルベルも、先日の学園で学友たちとの別れは済ませていた。ちなみにゲルダが泣き、ペリネは母親かというくらい心配してきた。笑って送り出したのはダステルくらいだ。


「その、アル……」


 おずおずとアルへ声をかけてくるのは、ランテクートきようが一行を引き留めるもう一つの理由──ミクトラだ。


「君はどうする? 少し長旅になるぜ」


「──無論、付いて行きたい。だが、その前に一つ……いいでしょうか、アルめい


 言われ慣れないしようごうに、アルがたじろぐ。


「な、なんでせうか」


「私を、貴方あなたの従士にしていただきたい」


「は?」


 ミクトラがひざまずき、骨の首が直角にコケた。何を言うのか、という感じである。


「従士って、領主様とか様に仕える……え? ミクトラ、アルに仕えるの?」


 ハルベルが両者を見比べる。あわてて手骨をるのはアルだ。


「いやいやいや。待ってくれ。君はおれの友人だろ?」


「そう思っていただけるのは本当にうれしい。私もそうありたい」ミクトラは歯をしばる。


「ですが、貴方あなたと対等に並び立つことを、私の未熟さが、私の心が認められないのです。貴方あなたの元で、貴方あなたの友と胸を張れる存在になりたいのです。これは私の心の弱さ。どうかお許し下さい」


めいに従士とか聞いたことが」


「前例はありませんが、問題はありません。です」


「だってミクトラ、君こそ貴族……」


「ミクトラ・クートはぼうけん者です。従士を務めるに問題はありません」


「従士のほうろくなんてはらえな……」


「お許しいただけるなら、みずからのぼうけん者として自らかせぎます。これはたましいの問題です」


 ずばずばはきはき、迷い無く答えるミクトラだ。


(く、クソ真面目め~……!)


 アルががいかかえる。よもやここまでこじらせていようとは。


「…………ちらっ」アルは指骨の間からミクトラを見る。


「………………………………………………………………………………」


 ガン見である。息も止めている。必死の目だ。それに、横で見ていたハルベルが先に根負けした。


「いいじゃん、何か変わることもあんま無さそーだし。アルがずばばーん! ってきたえて、友達にもどせばいいじゃない」


「君なあ、軽く言うけどさあ……」


 そのまましばらく、ハルベルとアルがああだこうだ言い合う。その内に、


「……うっ」


 ミクトラが軽く泣きかけていた。さらに、周囲になんだなんだと野次馬もきつつある。なにせ王都の中央門前だ。すごい目立つ。あわあわする人骨。


「あーもう分かった! 従士にでもなんでもする! でもおれはずっと友達だと思ってるからな! それでいいなら好きにしろ!」


 音を上げた。目にも止まらぬ速度で神聖けんをミクトラのかたに当て、あわてて立たせる。


「あ……ありがとうございます!」


「良かったねミクトラ! あたしは友達同士のまんまでこれからもよろしく!」


「ああ、くちえ感謝する、ハルベル……!」


 今度はアルがかがむ番であった。「なんでこうなった」とぶつぶつ言い、骨相を指骨でおおう。


   ○


「かっかっか。にぎやかでなにより」


 それを、王城より遠見のすいしようながめてやさしく笑う者がいる。フブルだ。


さびしくは、無さそうじゃの」


 西方ならばおう軍ともそうそう出会わない。おばあちゃんも多少は安心である。


「王国外ともなるとフォローも大変そうじゃが……まあ、いさ。お主のための苦労ならば、な」


 絶対に何かやらかすというなぞの確信を持ちながら、フブルはしつ机の引き出しを引いた。ほうによる姿絵。かつてのかれと仲間たち、四人が笑っている。


「いずれまた、このような──」


 どうさいしようは、そうして日々の雑務にもどる。

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