I am always watching over you
私は――最後まで我儘な子だったな。
周君を私のしたいように連れまわして、多少困らせたりして、そして何よりこれから叶わないこの「好き」という感情を言った。
正直私は最後に周君と両想いだった事を知れてよかったと思っている。一番の心残りであったことを解消したからね。
だけど――周君にこのまま叶わない恋はさせたくなかった。
一日でも早く私の事を忘れて、新しい恋をしてほしいと思った。
だから私は少しだけ魔法をかけたのだ。
「私の墓石にキスすることによって、私という『
周君への我儘と一緒にこの魔法をかけたのだ。
※
私は墓石の上に座り、私の生まれ育った町を眺めていた。
墓石の上にのるなんて本当は罰当たりだけど、私は幽霊だから関係ないよね。
そのままやることもなくぼーっとしていると遠くのほうで一台のタクシーが止まった。
――珍しいな、誰かが来るなんて。
珍しくくる人を見るためにタクシーを眺めていたら、私のよく知っている顔の人がタクシーから降りた。
あれ? もしかして周君?
私の予想は結果的に当たった。
周君がなんと私の誕生日の日にお墓詣りに来てくれたらしい。
あの日から数年が経ち、私の見ないうちに周君の顔つきが大人っぽい顔つきになっておりとってもかっこよくなっていた。
男前になったね周君。
どうやら周君は結婚するらしい。だからこの場所に来てあの『約束』を果たしに来てくれた。
周君は私の墓石の側面に手を添え、軽くキスをした。
これで私のかけた魔法は解かれ、やがて周君は私という『
――周君、おめでとう。ぜひ周君には元幼馴染である私が、周君たちを幸せになるように願うからね。
そして最後の我儘を叶えてくれてありがとう。
私は軽く微笑んで周君を見る。
これで私は未練を無くし、やがて成仏していく。
私が成仏する準備を始めたその時だった。
「なあ陽向、俺はお前を忘れたくないよ。だから少しだけ俺から今まで願いを聞いてきた褒美として少しだけ我儘を聞いてくれ」
そう言って周君はリュックの中から一冊の本を取り出していた。
「この本は俺とお前のあの特別な一日を書いたものなんだよね。拙い文章なんだけどネットで公開したらとある出版社の目に留まって本を出版してもらったんだ」
え⁉ 本⁉
私とのあの思い出が本になったの⁉
なんか恥ずかしいね。
「だから陽向、もし暇があったら読んでみてくれ」
周君は帰る準備を終えた後、私が眠る墓石に向かってそう言った。
私は赤らめた顔を慌てて隠し、周君のほうに振り向いた。今思うと私幽霊だから照れた顔は見られないのにな。何恥ずかしがっているんだろ、私。
周君には見えていないが、私は精一杯の笑顔で「うん」と言った。
さて、成仏する前にこの本を読もうかな。
私は周君が書いた、あの特別な一日を書いた本を開き、読み始めた。
周君はどんな気持ちでこの本を書いたのだろう。
色々な感情はあると思うが、少なからず負の感情も入り混じっていたに違いない。
だからこそ私は周君に幸せになってもらいたい。
例え私自身が成仏して、この世界から「夏海陽向」がなくなったとしても。
「周君、私はあなたを見守っていきます」
それが幽霊となった私ができる最大限の恩返しなのだから。
夏海陽向編 終わり
君は夏の夢物語 ーA ghost childhood friend and my summerー 二魚 煙 @taisakun
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