第9話ソレカラ

 その後、僕らはさっちゃんの操縦するヘリで彼女の隠れ家に戻ることになった。

離陸前にさっちゃんがヘリの点検をしている。

 それまで僕らは後部の貨物室で思い思いの過ごす。

 ヘリの後部には僕とパス、フジさんに姐さん。例の三人組。それとαとタスクさん、の上半身。修復の布でぐるぐる巻きなので、まるでミイラだ。

 αはタスクさんの現状を知り激高するかと思いきや、まるで魂でも抜けたかのように放心状態になってしまった。

 無理もない。この世界で唯一、頼っていた人が変わり果てた姿になってしまったのだから。

 僕が後部貨物室の座席に大人しく座っていると、αがやって来て隣の座席に腰掛けた。

「ホントに元に戻るんだよね?」

 αが不安そうに話しかけてくる。

「……ああ。その証拠にあの三人も元通りになってるだろ」

 体も元通りなるはずだ。だが、人格はどうだろうか。彼が今回の事態を引き起こしたのは蟲に汚染されたから、と姐さんは言っていた。修復され汚染も無くなったとき、タスクさんは以前の人格に戻るのだろう。さっちゃん曰く、気弱だが真面目な性格らしい。本来のタスクさんの姿を見てαは受け入れられるだろうか。

「そう……」

「ところでαはホントの名前はなんて言うの?」

「…………」

「覚えてないとか?」

「……カリナ」

 いささか不機嫌そうに答えるα。

「そう。カリナちゃんね」

「お兄さんにちゃん付けされたくない」

 ナイフを取り出してこっちに突きつけてきた。しおらしくなったと思ったが、本質は変わらないようだ……。気を付けよう。

「お兄さんの名前は?ホントの」

「まだ思い出せない。記憶は少しずつ戻ってきてはいるんだけどね」

 今も人とリカさんの記憶がフラッシュバックのように戻る時がある。前は記憶の齟齬に気持ち悪さを感じていたが、最近は慣れてきた。

「じゃあ、まだ自分がどこの誰か判らないわけだ」

「カリナちゃんと違ってね……判ったから、ナイフを降ろそうか」

 いちいちナイフを突きつけるのはやめて欲しい。

「だからだよね?」

「何が?」

「ロールバック・キーを壊したじゃん。あれって元の世界に未練も何も無いからだよね」

「…………」

 もう少し人の記憶が蘇っていたら躊躇っていたかもしれない。いや、そもそも壊せなかったと思う。

「ひょっとしたら、この先、壊したことを後悔するかもしれない」

「少なくともアタシは怒ってる。元の世界に戻るチャンスを失ったんだから」

「それは……悪かった。ごめん」

 僕はカリナに頭を下げた。彼女について思えば、僕はとんでもない事をしでかしてしまったのは事実だ。

「タスクさんが何をするつもりだったか知らないけど、壊れる前の世界に戻すことだけは約束してくれたよ。それでアタシは家族と元の生活に戻れるはずだった。でも兄さんが全て台無しにした」

 俯いて淡々と語るカリナだが、言葉の端々からトゲを感じる。以前のように強い口調で罵倒してこないのは、諦めからか。

「ごめん」

 再度、謝罪を口にするも、彼女にとっては何の意味にもならないことは僕自身が一番判っている。

「だから、約束して。この世界を必ず元通りに治すって」

「けどそれは……」

 僕がこの世界を修復し終わっても、半身が管理者となってしまった今、人の生活には戻れない。それは恐らくカリナも同じだろう。

「少なくとも、お父さんもお母さんもお兄ちゃんも、戻ってくる。そうでしょ?」

 すがり付くように必死に聞いてくるカリナ。その表情は今にも泣き出しそうだ。

「一応、あの騒乱で亡くなった人達の破片も全て回収して、別のとこで保管してるわ。ツギちゃんの修復とパスの起動が終われば、そのエリアで亡くなった人達も修復されるはずよ」

 姐さんがこちらにやってきた。

「ごめんなさいね。あなた達の話が聞こえたものだから」

 カリナの隣の座席に姐さんは腰を下ろす。長い脚を組むのが妙に様になっている。まぁ、オネエだしなぁ……。

「それで?ツギちゃんはどうするの?男なら責任取らなきゃ」

「言い方おかしくないですかね」

 確かに彼女を元の世界に戻すチャンスを奪ってしまった僕には、責任を取る必要がある。

「アタシの家族が元の世界で元通り生活できるようにしてくれるって、約束して」

「ああ、そうだね。約束するよ。ちゃんと責任は取る」

 新しい目標。今まで漠然とした気持ちで世界を修復していたけれど、これぐら明確な目標があった方が僕とってはいい。

 僕の言葉にカリナは初めて笑った。年相応の少女らしい柔らかい笑み。釣られてこちらの口元まで緩む。

「責任を取るとか、いかがわしい言葉が聞こえたんですけどー?」

 不機嫌そうな顔でパスがこちらにやって来た。例の和装姿の女性を伴って。

「随分と仲良さそうだね、ツギ君」

「いや、それはパスの方じゃ……」

 パスは和装姿の女性にべたべたとくっつかれている。猫がじゃれあっているようだとか、そんな生易しい表現では収まりそうにない。ナメクジが絡み合ってるような。

「だから言ったじゃないですか。男なんて若い女の子相手とあれば誰にでもいい顔して、すぐに言うこと聞いちゃうんですよ。特にツギさんの様な男性は」

 えらく丁寧に辛辣な物言いをする女性。

「その点、私ならばパスさんを愛して、愛して、愛し抜いて、全てを捧げる覚悟はすでに完了していますよ!」

 ああ、やっぱりソッチの趣味の人だったか。そして愛が重過ぎる。

「リィトは黙ってて」

「はい!」

 この忠犬ぶりである。過去に何があったのか知らないけど、リィトと呼ばれた女性はパスに尋常ならざる好意を抱いているようだ。

「で、何の話だっけ?」

「絡んできておいてそれはどうなのさ……」

 そこへカリナが口を挟む。

「世界を元に戻せないなら、ちゃんと治してって約束してただけ」

 口を尖らせてカリナが言うと、パスもさすがに気付いたのか神妙な面持ちになる。

「そっか。……うん、大丈夫、私とツギ君で必ず治してみせるから!約束する!」

 笑顔で親指を立ててみせるパス。

「別にアンタと約束するつもりはない」

「何でよ!」

 あっ、面倒なことになりそう。険悪な空気を察知して、僕はこっそりとフジさん達の方に向かおうとする。あちらでは男三人で何やら盛り上がっているようだ。ぜひ、混ぜてもらおう。

「どこいくのかしら、ツギちゃん」

 姐さんに目ざとく見咎められ、引き止められてしまった。

「まだ話は終わってないみたいよ」

 この人、絶対に今の状況を楽しんでるな。

 一刻も早くこの場を離れたいが、そうはいかないようだ。

「別にアタシは、お兄さんと約束できればそれでいいもん。ねぇ?」

 カリナに右の袖口を掴まれる。

「いやいや、ツギ君だけじゃダメなんだよ!?ツギ君も何とか言ってよ!」

 パスが左腕をばしばし叩いてくる。めっちゃ痛い。

「えぇ……」

 何だこのメンドくさい状況。僕がしどろもどろになっているとリィトさんがパスに抱きつく。

「やっぱりパスさんを幸せに出来るのは私しかいないようですね!ツギさんとのコンビ解消して、私と旅に出ましょう、そうしましょう!」

 もう収集が付かない。誰か助けて。

 

 隠れ家に戻ってくると、しばしの休息の後、庭でBBQをやった。

 こうして大勢で食事をするのは、この世界で目覚めてから初めての経験だ。大人組は早々にアルコールに溺れ、酷い様相を呈している。

「肉焼けたぞ、食え食え。ホルモンはまだ早い、そいつは後だ」

 あの時、チェーンソーを振り回してたヒゲのおっさんは、ビールジョッキ片手に鍋奉行ならぬ網奉行として網の番をしていた。食べ頃になった肉をみんなの皿に放り込んでくる。休日のお父さんのようだ。長髪の男性は黙々と食べている。というか、先程から手を止めずに同じペースで食べている。意外と大食漢なのだろうか。

 フジさんは縁側で日本酒を傾けていた。金髪の道着姿というだけで違和感があるのに、日本酒まで嗜むとただの日本好きの外国人にしか見えない。ただ、何だか眠そうだ。意外とお酒に弱いのかもしれない。

 網の傍ではリートさんが姐さんに恋愛相談をしていた。べろんべろんに酔っ払ったリートさんは、泣きながらパスへの愛を滔々と語っている。さすがの姐さんも辟易しているようだ。

 カリナはその横で大人しく肉だけを食べている。そして、隣で野菜を食べさせようとしているさっちゃん。中身的には娘と母なんだろうけど、背丈が近いので姉妹のように見える。まぁ、カリナがこの集団に馴染めているようで何よりだ。

 そして僕は。居間のちゃぶ台で肉をパスに食べさせられていた。

 体の傷がまだ完全には治っていないということで、僕は居間で座って食べているのだが、その介護役はパスがしてくれた。

「いや、右手は使えるんだけど」

 布で固定した左腕は全く動かないのだけれど、右手は普通に動かせる。布での修復も完了したので、痛みもない。こうして見ると、リカさんが行使していた治す力の凄さを改めて認識させられる。

「でも、片手だけじゃ食べにくいでしょ?ほら、今度はミノ。口開けて」

 めちゃくちゃ恥ずかしいし、食べにくい。誰もこちらを気にしていないのが幸いか。大人しく食べるしかなかった。

「それにしても。ホント、無茶するよね」

 ほんのりと頬が赤く染まったパスが箸を置いて、そんなことを言った。彼女もすでに缶ビールを二、三本開けていた。

「それはお互い様じゃないかな」

 顔を見合わせ笑い合う。

「でも、ホントに良かったの?元の世界に戻れるチャンスだったんだよ?」

「正直、ちょっと早まったかなって思ってる。でも」

「でも?」

「でもやっぱり世界よりパスの方が大事だったんだよ。もしあの時、タスクさんにロールバック・キーを渡してたら、やっぱり後悔してたと思うし」

「…………」

「僕が元の人に戻ったら、この世界のことを覚えてるかどうか知らないけどさ。あのまま、キーと権限をタスクさんに渡したらパスは酷いことになってたんだろ?」

「ど、どうかな?」

 パスは目を逸らし、頬を指で掻く。赤くなっているのはアルコールだけのせいではないのかもしれない。

「要はパスを犠牲にしてまで、元の世界に戻りたく無かったってことだよ」

「へ、へぇ、そーなんだー……ちょっとお肉取ってくる!」

 声が上ずっている。顔を真っ赤にしたパスはお皿を片手に、縁側から飛び出した。裸足で。ちょっとぶっちゃけ過ぎたか。自分も恥ずかしくなってきた。

「随分と成長したな」

「フジさん。起きてたんですか」

 縁側からフジさんが声を掛けてくる。先程まで柱にもたれかかってうつらうつらしてたのに。

「ちょっと寝てた……それはどうでもいいんだが。腹は決まったようだな」

「前にフジさんが言ってた言葉の意味がようやく理解出来ましたから」

「ん?」

「僕が人なのか管理者なのか、って奴ですよ」

「ああ」

 どちらでもないし、どちらでもある。どっちつかずで半端な存在。人の部分と管理者の部分をつなぎ合わせた不完全な存在。

「諦めとかそういうのじゃないんですけど、どっちでもいい。そう思えるようになりました。さっちゃんのアドバイスのおかげもありますけどね」

「そいつは諦めじゃなくて、覚悟とか信念とか、そういう奴だ。それを持ってる奴は強い」

 フジさんにそう言われ、つい照れくさくなって頭を掻いてしまう。でも成長を褒められるのは嬉しかった。

「腹をくくってしまえば、大抵のことはなんだってやれる。それにこの世界を治したいと思っているのはお前だけじゃない。世界中にいる管理者がお前の味方だ。だからいつでも頼ってくれ」

「ありがとうございます」

 僕はフジさんに深々と頭を下げる。フジさんも満足そうに笑っていた。

「そいうえば、ツギは酒は呑めないのか?」

「さぁ、呑んだことは……リカさんはあるみたいですけど」

 夢でリカさんがパスと呑んでいる光景は見たことがある。

「なら、いけるだろ」

 フジさんが徳利とお猪口を持ってくる。僕の前にお猪口を置くとお酒を注いでくれた。日本酒の香りが立ち上ってくる。匂いだけで酔いそうだ。

 少し口を付けると匂いでむせた。

「ゆっくりと少しづつ口に入れて、一息で呑むんだ」

「はぁ」

 再チャレンジ。言われたとおり、一気に飲み込むとふくよかな香りとさらりとした甘味が口の中に広がる。何だかお腹の中がぽかぽかしてきた。

「どうだ?」

「おいしい?かも?よく判らないですね」

 まだ子供舌ということで。

「呑んでるうちに味に慣れてくるさ。ということでもう一献」

 フジさんが何度もお猪口に日本酒を注いでくるので、その度に空にしなければならなかった。僕もフジさんのお酌をしたので、すぐに間に無くなってしまった。

「あー、だんだん美味しく感じてきたかも」

 頭がふわふわする。

「よし、お代わり持ってきてやろう」

 フジさんが徳利を手に立ち上がったところで、パスが戻ってきた。

「なんで怪我人に呑ませてんですか!」

 凄い剣幕でフジさんに突っかかる。

「ん?あーあれだ、体の中から消毒しようとだな……」

「アル中のおっさんみたいな言い訳しないでください」

「まぁまぁ、パスも呑むか?」

 フジさんが徳利を差し出す。

「これはご丁寧に……じゃなくて!」

 ノリ突っ込みというのを初めて見た気がする。というかこんなに愉快なフジさんを見たことがない。実は酔っているのだろうか。

 酔っているのは自分も同じで、頭の中がふわふわからグルグルに変わってきた。座っているのも辛い。

「顔真っ赤じゃん!大丈夫?」

 パスが僕の隣に座り、ふらふらしている体を支える。

「んー?うん。……何が大丈夫なんだっけ?」

 頭が上手く回らない。

「ぐでんぐでんじゃん!……どれだけ呑ませたんですか!」

「そんなに呑ませたつもりは無いんだがなぁ」

 パスとフジさんのやり取りを眺めていたが、次第にその会話も頭に入ってこなくなった。

「眠い」

「えっ?」

 僕はそれだけ言うとパタンと倒れこみ、意識を失うように眠りに就いた。後で聞いたところによると、パスの膝枕で眠っていたらしい。……どうせならちゃんと意識のあるときに膝枕したかった。

 

「終わったー?」

 パスの間の抜けた声が荒廃した街に響き渡る。

「ああ、もう終わるよ」

 僕は最後の一針を縫い終えて裁縫道具をポーチに片付ける。これで付近の修復は終了だ。

「パス、これでいくつの修復が終わったっけ?」

「三十八個かな」

「ちなみにあと幾つ治さなきゃいけないの?」

「聞かないほうがいいと思うよ」

「世界を治すぐらいだから、途方も無い数あるんだろうなぁ……」

 立ち上がって周囲を見渡す。相変わらずの白黒の世界。誰もいないし、建物は壊れまくっている。時の静止した世界。でも、まだ終わってない世界。

 僕はパスと共にビートルに乗り込む。運転はパスだ。ゆっくりと荒れた街中を走らせる。

「右目はどう?」

「痛みはもう無いんだけどね。まだぼんやりとしか見えないや」

 あれから一週間過ぎた。体の傷はほぼ塞がり、左腕も問題なく動く。目だけはまだ治らないけど。

 僕の傷が治るまでしばらくさっちゃんの家でお世話になっていた。他の三人の管理者達はそれぞれ元の仕事に戻るべく、打ち上げの次の日には旅立った。リィトさんだけはぐずりにぐずった挙句、パスを無理やり連れて行こうとしていたが。

 フジさんも一人、バイクで旅立った。再び蟲駆除とイレギュラーな管理者を探すそうだ。

 αはさっちゃんの家でお世話になっている。前の僕と同じように畑仕事をしながら大人しく過ごしているようだ。幸いな事にまだお仕置きはされていない。

 姐さんは調べることがあるからと、打ち上げの後すぐにどこかへ行ってしまった。見た目はアレだったけど、中身はかなりの常識人……いや、そうでもないか。でも、忙しそうだ。

 ちなみに姐さんは世界の静止を肩代わりしてくれていたらしいが、それもまたパスに戻ってきた。姐さん曰く、「あんなのまともに肩代わりしてたら、美容に影響がでる」とか言っていた。何のこっちゃ。

 ともかく、再びパスが世界を静止させているため、能力の大半をそこに取られてしまうことになった。あの時に見せた刀は使用することが出来なくなったわけだ。

 このエリア最後の穴に着いた。車から降りたパスは、早速ダッフルバッグからいつものアサルトライフルを取り出す。彼女は再び、銃を手にすることになってしまった。

 蟲達が穴の周辺をウロウロしている。数は少ない。いつものように手際良く蟲達を処理していく。パスはきっちりマガジンの弾を使い切って、全ての蟲を処理し終えた。

 僕も穴を塞ぐ作業にはすっかり慣れた。ポーチから布を取り出し、裁縫セットの針でちまちまと縫い付ける。

 穴はマンホールほどの大きさだったので、それほど時間を掛けずに縫い終わることができた。

「終わったネ。じゃあ」

 パスがいつものダッフルバッグからあの刀を取り出す。鞘の石突で地面を突く。

 足元から色彩が広がり、壊れた街並みが元の姿を取り戻していく。空は綺麗な青空で木々も緑の葉を付けている。これが僕らが取り戻す、正しい世界。

 いつになるか判らないけれど。

 僕らは腰を下ろして元の世界を眺めた。

「あのさ」

「なに?」

 隣に座るパスに尋ねる。

「一度、聞きたかったんだけどさ。僕で良かったの?パスのパートナーに」

「い、今更、何言ってんの!当たり前じゃん!」

 突然の質問に顔を真っ赤にするパス。

「や、そう言えばパスの口からハッキリ聞いた事なかったな、って思って」

 自分でも今更だとは思う。

「えー、ごほん」

 パスが正座でこちらに向き直る。僕も姿勢を正す。

「不束者ですが、今後もよろしくお願いします」

 彼女が深々と頭を下げた。

「こちらこそ至らぬ点があると思いますが、よろしくお願いします」

 僕も彼女と同じく深く頭を下げる。

 そして彼女と顔を見合わせ声を出して笑った。

「さて、そろそろ行こうか」

「ああ」

 僕らは立ち上がり、ビートルの元へ戻った。

「運転は僕がするよ」

「ぶつけないでよー」

 運転席に乗り込み、サイドミラーを見るとツギハギの顔が映っていた。人でも管理者でもない中途半端な存在。正直、どこまでやれるか自分でも自信があるわけじゃない。

 世界を治す。使命感とか義務とかそんな大層な思いは無いけれど、自分がそうしたい、と心の底から思っていた。それにカリナとの約束もある。

「辛くなったら言ってね。私もフォローするから。……だから、私が辛くなったらフォローしてよ」

 こういう彼女のはっきりとした物言いに惹かれたのかもしれない。

「勿論。これからもよろしく」

「こちらこそ」

 まだ、旅は始まったばかり。

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パッチワーカー 壊れた世界の中で 月甲有伸 @Gekko-3

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