遊星迎撃隊(破)

暗黒星雲

遊星迎撃隊

「発射1分前」


 無機質なAIがカウントダウンを始める。


「59、58、57」


 俺は今、ランスに乗り込んでいる。全長100mにもなる巨大な槍。こいつを飛ばして小惑星にぶち込むのが俺の仕事だ。


「56、55、54」


 戦艦シキシマの巨大なレールガンで発射されるランス。初速は毎秒100km。そこから多段ロケットで毎秒500kmに加速して目標まですっ飛んでいく。地上の感覚じゃとんでもないスピードだが、宇宙じゃ昼寝してるようなもんだ。


「53、52、51」


 こんな速度じゃ月まで10分、火星までは2~3日かかっちまう。

 たった光速の0.17%だ。


「秋山中尉、準備はよろしいか」


「何時でも来い」


「結構。健闘を祈る」


「了解」


 今の声は山崎艦長だ。女だてらにこのシキシマの親分だ。


「45、44、43」


 そんな速度じゃあ間に合わねえって事で、途中ワープする。異次元通って瞬間移動。ワープ前後のデリケートな操作が俺の仕事。他はほぼ自動だ。


「秋山君。落ち着いて。必ず帰ってね」


「ああ、わかってる」


 今の声は操舵士のアイリーン時山。ちょっと不細工だが気立ては優しい。


「39、38、37」


「秋山、ビビッてしくじっても構わないぜ。俺がケツ拭いてやる」


「うるせえ。黙ってろ。気が散る」


 俺が決めるからお前に出番はない。バックアップの宮地大尉。俺と同型の機体に乗って待機している。


「30、29、28」


「周囲に障害物はありません。進路クリア」


 電探からの報告だ。クリアじゃなかったらどうするんだ。全く


「20、19、18、17」


 発射の瞬間は緊張する。この加速Gは殺人的だ。


「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0」


「ランス発射」


 強烈なGがかかる。G吸収ゲル素材のシートに体が押し付けれられる。瞬間的に目が見えなくなる。


「プラズマロケット点火しました。速度110、120、130……」


 また強烈なGに押しつぶされる。しかし、最後の核に比べりゃまだ子供だましだ。


「速度180、190、200」


「核融合ブースト起動しました。加速Gにご注意ください」


 馬鹿野郎。これをどう注意しろっていうんだよ。


 加速度アラームが鳴り響く。耳が鳴り何も見えない。


「速度300、350、400、450、500……ブースト終了しました」


 強烈なGから解放され、視界が回復していく。

 一息つきたいところだがそうはいかない。残り約1億kmを跳躍すべくワープ航法に移行する。


「ワープ航法準備開始します。現在座標確認。目標確認。跳躍最適化確認。最終コース確認しました。承諾どうぞ」


 これだ。デリケートな操作。

 ワープ航法失敗の際の免責事項の承諾だ。

 俺は迷わず承諾をタッチする。


「ワープ航法開始30秒前、29、28」


 またカウントダウン。


「22、21、20」


 カウントダウンばかりで飽きてくる。


「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0、ワープ突入します」


 視界は虹色の光に包まれる。

 異次元の光は何かゆっくりなふんわりとした不思議な光だ。


 唐突に暗くなる。通常空間に出た。


「通常空間へ回帰しました。目標まであと37秒、36、35」


 光学カメラが小惑星を捉えた。球形ではないやや歪な形状だ。


「小惑星の重心を再計算します。特定しました。進路修正0.0012」


「了解」


 AIの指示通りに修正をかける。


「目標まで後10秒、9、8、7、6、5、4、3、2、1、命中しました」


 大きい衝撃を感じた。


 しかし、それ以降何も感じない。感じない。





「秋山中尉、秋山中尉」


 ゆさゆさと体をゆすられている。

 わかっている。わかっているとも。


 一旦離れてしまった霊体が元の体に戻っている。

 しかし、感覚が元に戻るまでは時間がかかるのだ。


 目を開くと目の前にアイリーンがいた。


「秋山中尉……達彦」


 俺の胸で涙を流している。


「帰ってきてくれた」


「ああ」


 艦長と軍医が入ってきた。


「中尉、成功だ。体調はどうか」


「ええ。まあまあです」


「義体はどうだったかね?」


「自然に扱えました」


 軍医が俺の診察を始める。上半身を脱がされ検査器具をあちこちに当てる。


「異常はないようだね。念のため48時間は安静にしておくように」


 軍医はアイリーンを見つめにやりと笑う。


「まあ、ほどほどにな」


 艦長と一緒に笑いながら部屋を出て行った。

 と途端にアイリーンは俺に抱きついて来る。

 俺は彼女を抱きしめキスをした。


 それは永遠にも思える至福の時だった。




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遊星迎撃隊(破) 暗黒星雲 @darknebula

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