NEW EDEN

安良巻祐介

 

 船食い女が浜のあたりを徘徊していると言うので、ここ半年くらいはずっと猟師の船が近寄らなくなってしまって、この島も随分と廃れた。あれはその前には長電話女と呼ばれていて、島を横断しながら通信機器を軒並み駄目にした。そもそもあのような女がなぜこの島に現れたのか、何が目的なのかよくわからない。女と呼んでいるのも便宜上で、本当は男か女かどころか、人間なのかさえも判然としない。ただあの恐ろしく長い胴体の形状と、鉄を次から次へと呑みこんで咀嚼してしまう奇怪な口腔部の第一印象からそういう風に呼称されてきただけだから、何か新種の巨大生物の可能性もある。しかし生憎と学者というものがいないから、詳しいことはわからないままだ。そうして、船が来ない船が出られないせいで島から逃れることも出来ずに、人々は家の中に閉じこもって、萎んだような顔と目で、茶色く萎びた果実ばかり食べている。勇気を出して何かを掴もうと望遠鏡で女を観察した者たちは、皆一様に吐き気を覚えて昏倒し、五日は起きてこられなかった。だから彼らでさえも、そのうち女のことを気にするのをやめた。うわ言もどきの報告で分かったのは、子供の書いた落書きのような女の姿態の詳細と、そこにペイントされた「NEW EDEN」という意図不明の白い文字くらいであった。新しい楽園? 島と外との連絡を断ち交通を潰し、人々をここに閉じ込めてしまったものに描かれている字としては何とも皮肉が効いている。乾いた笑いはヨミジカモメが小さく交差するニビ色の空に遠く空しく響いた。そうこうしているうちに、遠くに見える海岸線の色が心なしか紫がかって来て、浜の女は急いでまた何か姿を変えていくように思われた。

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NEW EDEN 安良巻祐介 @aramaki88

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