ある日、おばあちゃんがおじいちゃんを……

すみこうぴ

ある日、おばあちゃんがおじいちゃんを……

 僕は小さい頃、母方の実家でおじいちゃん、おばあちゃん、父、母、弟、妹と暮らしていた。

 僕はおばあちゃんにたいそう可愛がられ、母に叱られた時はいつもおばあちゃんの所に泣きながら逃げていった。夜、寝る時も背中を擦りながら寝かしてくれるおばあちゃんと一緒に寝ていた。所謂「おばあちゃんっ子」てやつです。


 そんなおばあちゃんは、僕が小学校に入学する前、ランドセルを買ってくれた後に前々から患っていた病気で亡くなってしまった。



 僕が小学4年の時に、今度は父方のおじいちゃんが怪我で身体が不自由になってしまう。田んぼや畑があるので僕ら家族は、父方の実家に引っ越すことになった。



 それから数年間、母方のおじいちゃんは一人で元気に暮らしていたが、僕が中学3年の時に病気を患ってしまう。それでも入院することもなく自宅での療養で済んだが、発作が起こると直ぐに病院に行かなくてはならない。

 僕の母は手芸教室をやっており、自宅と母方の実家と公民館で週2回づつ近所のおばさんやお姉さん達に手芸を教えている。その関係で週2回は病気のおじいちゃんの様子を看られるけど、それ以外の日が心配だった。


 たまたま僕が合格した高校がおじいちゃんの家の近くだったので僕は家を出て、またおじいちゃんと暮らすことになった。おじいちゃんは発作を起こすこともなく日々過ごしていた。


 それでも僕が高校3年の冬に、おじいちゃんは風邪を引いたのをきっかけに病状が悪化してしまい、とうとう入院することになってしまった。大学受験を控えた僕は、そのままおじいちゃんの家で一人暮らしになる。

 それから病状の変化に応じて入退院を繰り返していたが、2月に入院してからはなかなか退院できなかった。

 僕はお見舞いにも行けず、一人で受験勉強に集中していた。


 そして3月になったある日……。

 大雪が降るぐらいの寒い夜、僕は夜中の2時過ぎぐらいまで2階の部屋で、数日後に迫る大学受験の最後の追い込みをしていた。そろそろ眠たくなってきたので、僕はふかふかぽかぽかの毛布に包まって布団に入る。


 むちゃくちゃ疲れて眠たいのにその日はなかなか寝付けず、布団の中でゴロゴロしていたら、外に干してた洗濯物が風でカチャカチャ当たってる様な音が聞こえてきた。


「しもた。家の中に入れるの忘れてたわ!」


 そう思ったけど、雪も降ってるからもう駄目やろうし、布団からでるのも億劫やったので諦めた。

 それでウトウトしだした頃、僕の部屋の扉が開くのに気が付く。

 開いた扉からおじいちゃんがやってきて、僕の布団に入ってくる。


「健太、今日は寒いわ。一緒に寝かせてくれへんか」

「ああ、ええよ。僕の毛布はめっちゃ暖かいし大丈夫やで」

「おおきにな」


 そう言うとおじいちゃんは僕の方に背中を向けた。僕もおじいちゃんに背中を合わせ、おじいちゃんの温もりを感じながら寝た。


「昔、おばあちゃんとはよく一緒の布団で寝てたけど、おじいちゃんとは初めてやなぁ」


 そう言ったけど、おじいちゃんの返事は無かった。僕はそのまま眠りそうになり寝返りを打とうした時、身体が急に動かない様になってしまう。全身が緊張して固まっている。


「かっ、金縛りや!」


 噂には聞いていたけど、僕が金縛りに遭うのはこれが初めてだった。少しワクワクしていたが、足と腕が攣りそうで辛くなってくる。胸も押さえつけられてる様で苦しかった。


「何かが乗ってる!」


 胸が苦しいのは何かが僕に乗ってるからだった。恐る恐る目を開けると、布団の上には「おばあちゃん」が座っていた。間違いなくおばあちゃんだった。母の歳よりも若くして亡くなったおばあちゃんは、遺影と同じ顔でやさしく僕に話す。


「健ちゃん。勉強、がんばってますんか」

「うん。がんばってるで、おばあちゃん!」


 返事をすると、身体から力が抜けていくのが分かった。僕は何故か温かい気持ちになりそのまま眠ってしまった。



 翌朝、1階で物音がするので起きて下に行ってみる。母が来ていて、慌ただしく手芸教室の準備をしてる。僕は昨日の洗濯物を取り入れに行ってみるが、もう既に取り入れた後だった。


「あれ、昨日は家の中に干してたっけ? それか母さんが入れてくれたんかな」


 そう思いながら仏間を通って台所に行こうとしてハッとした。

 仏壇が開いており、電気の蝋燭が付いている。


「ああ、今日はおばあちゃんの命日か」


 僕は母に聞いてみる。


「洗濯物入れてくれた?」

「いいやぁ、入れてへんで」

「そうやんなぁ。やっぱり家の中に干してたんかなぁ」


 そうしたら昨日のカチャカチャ鳴ってた音はなんやろう。僕の部屋の下は仏間だから、もしかして……。


「母さん、仏壇開けたかぁ?」

「うーうん、開けてへんで。どないしたんや」

「そやかて仏壇開いて、電気も付いてるで」

「どれどれ」


 僕は母と仏間に行く。


「ほら」

「あれ、誰が開けたんやろ」

「上で寝てたら、今朝この部屋でカチャカチャ音がしとってん」

「えー! あっ、今日おばあちゃんの命日やし、自分で帰ってきたんやろか。みんな忘れてると思て、怒ってるんとちゃうかぁ」

「そんなアホな」


 母は冗談を言って僕を恐がらせようとしてると、その時は思っていた。

 でもよくよく思い出してみると、昨日の「夢」で僕はおばあちゃんと会っている。


「やっぱりおばあちゃんが来たんやで」

「なんでなん」

「そやかて、昨日おじいちゃんとおばあちゃんの夢見たわ」

「えっ、あれま……」


 その時は気にして無かったが、後々思い出してみると母の顔色は変わっていたと思う。



 2日後、僕は京都の叔母の家に行くために準備をしていた。明日、受験する大学が叔母の家の近所だから今晩泊めて貰う為だ。

 それで今まさに家を出ようとしてた時、居間の電話が鳴る。慌てて出てみると京都の叔母だった。


「健太?」

「うん」

「今なぁ、あんたのお母さんから連絡来たんやけど、今朝おじいちゃんが亡くなったんやて」

「ええっ! ほんま」

「うん。ほんであんた明日から受験やろ。私らは今からそっちへ行くけど、あんたは私の家に泊まって受験しいな。鍵開けとくし、こっちへおいでな」

「うん、分かった」

「お葬式とかは構へんから……」

「う、うん……。ほんなら後、よろしくです」

「受験がんばるんやで」

「はい……」


 やっぱりそうやったんや……。おばあちゃんがおじいちゃんを迎えにきたんや。


 僕は確信した。


 受話器を置いた後、僕は手に持っている荷物を下ろし、仏間へ向かう。

 僕は仏壇の前に正座し、手を合わせた。


「おはあちゃん。おじいちゃんを天国まで連れてったげて下さい。お願いします」


 おばあちゃんの遺影が微笑んだ様に思えた。


 おわり

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