基本レビューは完結したものにしか書かないんですが、本作だけは連載途中でも「レビューを書きたい!」を強く思い、こうしてキーボードを叩いています。
舞台は十九世紀末のイギリス。歯車機構やオートマタが存在するスチームパンクと人造霊魂や人外の化け物の名前が飛び交う世界で、特殊な機械(マギクラフト)と霊気を駆使する見習い人形師の少女・ドロッセルが、異形に襲われて辿り着いた屋敷の奥で死者の魂を基に造られた青年人形・ノエルと出会い主従関係を結ぶ――そこから物語が始まります。
メインとなる二人はそれぞれにある問題と事情を抱えています。
ドロッセルは人形師の礎を築いた天才でありながら国家転覆を謀った父親を持つ事から周囲に嫌悪の目を向けられ、また彼女自身も人形師の技を使う能力に欠陥を抱えているため満足に力を奮えず落ち零れ扱い。
一方ノエルはオートマタよりも高い能力を誇るレプリカではありますが、当初は廃棄処理のために休眠状態にさせられており、魂の摩耗から感情が希薄で記憶喪失という欠陥品。
昔からの強いコンプレックスに苛まれたり、人形故に心が無いと断言するこの二人は能力だったり心だったりとどこかしら何かが欠けてしまっています。
そんな二人が出会ってぎこちなく交流を深め、時にはすれ違いながらも徐々に表面上だけでなく心の底からお互いを大切なパートナーだと、貴方が必要なんだと傍にいる光景が滅茶苦茶燃えるし萌えるんです! こういう信頼関係を築く男女コンビを求めてた!
もちろんドロッセルとノエル以外のサブキャラも魅力的です。
己の美貌と才能に絶対的な自信を持つ友人思いの少女、不老の子供姿で深い見識を持つバックヤードの副局長、ドロッセルのパートナーの一匹である猫型オートマタ(この子の行動やノエルとの交流めっちゃ和みます)、炎を操る赤髪のレプリカ男、そして姿を消したドロッセルの父親――。それ以外にもⅡの『Epilogue+.』では更に意味深なキャラが登場し、ますます先が気になり目が離せません。
是非とも続きを読みたいです!
現実とは少し異なる、「異端者」によって発展したもう一つの19世紀ロンドン。その異端者の中でも「のけもの」にされる少女・ドロッセルは、誰からも認められない日々を終わらせようとがむしゃらに戦っていた。
そんな彼女に訪れた運命の出会い――というお話。
死者を基にしながら、生前の記憶は一切なく、感情表現も希薄なノエル(仮名)と、ドロッセルの関係は恋愛の気配などさらさら無し。強いて言えば主従関係なのですが、徐々に構築される信頼関係と、ノエルの正体が分かった後の展開が心地よい。
19世紀ロンドンという舞台はとかく魅力的で、かの仄暗い都市の空気も堪能できます。
ただ、短くまとまっていて読みやすいのですが、同時にもうちょっと尺が欲しいな、という物足りなさもあるのが難点。キャロルとの馴れ初め、名前だけ言及されている師匠のグレース、ヒラリーにパトリシア。そもそも父は……暴走の詳細は……ええいつまり続きはまだか!
というわけで、よろしくお願いしますよ(もみ手)
分類は伝奇。ファンタジー的な設定と展開ですが、内容は硬派ですね。で、まずとにかく文章がいい。それはもうとにかくいい。19世紀ロンドンの作品は定番の舞台で私もたくさん読みましたし私も書いたことがありますが、ここまでくっきりと鮮明な背景を描いた作品は限られているかと思います。夜、霧、血、などの黒と赤と深い青を感じさせる秀逸な描写です。そしてこのキャラクター構成、この展開。躍動感のあるアクションもカッコいいです。
しかしなによりこの作品の見どころは、メインキャラクターのドロッセルとノエルの距離感で、これがすごく上手く描かれていて、なんともいえないよさみがあります。エモい(語彙力
こういう舞台とキャラクターの調和が取れた作品がもっと高く評価されてほしいなあと思います。空き時間にスマホで流し読みするタイプの小説が流行なのでしょうが、こういう細部にまで行き届いた作品も、多くの人に広まってほしいですね。夜、自室で一人コーヒーを飲みながら読みたいタイプの作品です。
皆さんも是非。