セプトギア(番外編)

@stanford20_

EX:気になるあいつは厨二病


小学校の卒業式

あたしは隣のクラスの・・・前から気になっていた彼にさりげなーく声をかけた。



「あのー・・・」

「・・・なんだ女史?俺に話しかけるんじゃない・・・・・

いらん非日常に巻き込まれる事になる。キミは死ぬほど後悔するだろう。」



いや、ソッコーあたし後悔したから。話しかけた事後悔したから。




「・・・そうだ離れろ・・俺の妄想に付き合う必要はないぞ・・・」

「・・・・・そうする・・・」



・・・なんだこいつ。



想像とかけ離れたヤツで、正直がっかりした

見た目はカッコイイし・・もっと面白いヤツかと思ってたのに・・・





なんでこんなヤツが気になっていたんだか・・・








中学に入って、今度は同じクラスになった

ヤツはあたしの後ろの席にいる


相変わらず言動が意味不明だ。キモいとか通り越して・・・引く。




「はい」

「女史、なんだコレは?」

「なんだって・・テストよ。今から。」

「フ・・・俺の何をテストしようと言うのか・・・

これ以上試されるような覚えはないがな・・・フフフ・・・」

「・・・・・」



問答無用ではたいてやった。



・・・男だろうが女だろうが、もっと楽しいヤツはクラスにいる

なんでこいつが気になるんだろう。





「あんた、もっと真面目にしたらどうよ?」

「遠慮しよう。俺は目立つ事と己を制御する事が苦手でな」




俗に言う完璧超人。何でもできるクセにやらないのがこいつ。

何かにつけ「腕が疼く」だの「俺は狙われているから目立たない方が良い」とか

意味不明な妄想を言って逃れる


・・・全く、何がしたいんだか・・・









ある日。



「なぁ・・俺に不用意に関わってくれるな女史、

何度も言っているがキミも巻き込まれる事になるぞ」

「はいはいはいはいウザったい。席が近いと関わらざるを得ないのよ、OK?」

「知らんぞ、そろそろ最後の一週間が始まってしまうからな」




・・・なにそれ。




今更だけど、こういうのを厨二病って言うんだっけ?

こいつの病気は相当なモノらしいわ。

・・さすがのあたしもそろそろキレていいわよね?





・・などと思っていた矢先、「1日目」が始まった



最初に風が止まった


次に人間が止まった


そして色彩が、世界の全てがサイレント映画のように変貌していく



「なにこれ・・・」



朝起きると・・いつもの風景がモノクロになっていた

本来動いていた全てが直前の姿のまま、ぴくりとも動かない

あたしの家族も、通学路の人間も、飛んでいる鳥ですらも・・・


学校に駆け込んでみても差はなかった

何もかもが白と黒になっている



「なによこの夢!・・・お、おかしいんじゃないのあたし・・・」

「キミはおかしくはないぞ女史、「世界がおかしく」なったのだ」



気取った仕草で廊下を歩いてくるのは、あいつ。



「な、何よ!まさかあんたの仕業!?」

「ああそうだ。」



・・即答に唖然としてしまった。



「・・・だから言っただろう、最後の一週間が始まる。

俺が興味をもったせいでキミは巻き込まれたようだな。」

「は?あたしに興味・・・って」



今そんな事はどうでもいい



「最後の一週間って・・あんた何をするつもりなのよ!?」



ヤツはメガネを外しながら話を続ける



「正確には「昔の俺」が「するつもりだった」・・んだがな。」




こいつは昔から空想がちだったという

当時、幼稚園児のヤツの元に現れた「かみさま」と名乗る不審者曰く



「おもしろいことをかんがえるキミにちからをあげよう

いちにちすきなだけかんがえるんだ。

かんがえたことはきっとほんとうになるからね♪」



そう言って消えた、一瞬の出来事。

目的は今思ってもまったく不明。ただ・・幼年期の「妄想」は度を超して凄まじく、一日でとんでもない数を生み出した


ある日から妄想は現実となり・・・

これまでにこいつを時に楽しませ、時に苦しめてきたという




「そして最後の妄想が「最後の一週間」

・・・世界を破壊する怪獣が現れて世界を終わらせるというものだ」

「・・・・・・・・・マジなのね」



なんだか脱力してしまって、教室の壁にもたれかかる



「だけどあんた、なんでそんな妄想を・・・」

「厳密にはその続きがあるんだ、俺はその怪獣を倒してヒーローになる。」

「・・・・ハっ・・・ガキっぽい・・・」

「全くだ、だが俺はヒーローが好きで好きでたまらない性分でな」



ヤツは突然妙なポーズをとり、ジャンプした



「こうして自分がヒーローになる妄想ばかりしていたのだ」

「・・・・・ちょ・・・・・」



ライダーだっけ、なんだっけ。

そんな姿になり、普段とは明らかにテンションが異なるヤツがそこにいた



「さぁそういう事で行くぞ女史、こうなったらキミも一緒に世界を救うのだ!」

「は、はい!?あたしもやんの!?」





こうして、厨二病ヒーローとあたしの珍妙な一週間が始まった。






####################################




「・・・一週間って、結局何も起きてないじゃない・・・」



ヤツにつられて一週間、あたしは妙なサイドカーの隣に乗って日本中を旅してきただけだった。


誰も動かないのを良い事に食い歩き道中したり、タダであちこち観光してきたり。


・・・まー楽しかったけど、さ。




「油断はいけないな女史、最後の一日だからな・・・いよいよという所だよ。」



相変わらずバリバリのヒーローの格好をしたヤツが、サイドカーを運転しながら言う

・・・今更だけど中学生なのに運転していいわけ?ヒーローならOKってこと?




「油断も何も怪獣なんてどこにもいないし・・わっ!?」



モノクロの世界に、突然炎が巻き上がった

サイドカーは直前でブレーキをかけ、停止する



「お出ましのようだな」

「あ、アレが・・・・・」




デカイ



都庁ビルとか引っこ抜けそうなサイズの巨大怪獣


それがあたし達を見下ろしている




「俺はこの時のために数々の試練を超えてきた、

かつての妄想を打ち破り真のヒーローとなるためにな!」




ヤツはヒーローらしくものすごいジャンプをし、手にしたレーザーガンを撃つ

怪獣はひるんで体勢を崩し、ヤツが続けて放ったキックであっさり倒れてしまった



「わ、すごい」

「当然だよ女史、自分の妄想に負けてたまるものか」



言ったが早いか、怪獣はものすごいスピードで立ち上がった


空中でポーズを決めていたヤツは、あっという間に怪獣に殴られて吹き飛んだ



「って・・・ちょっとぉ!?」



駆け寄ってみると、ヤツはただの一発でボロボロになっていた

ヒーローの装備は砕けてしまい、ヘルメットも割れて素顔がのぞいている



「・・・・・そうか、

今の俺よりも当時の俺の方が妄想力で勝っていたという事か・・・!」

「はぁ!?」

「俺のヒーロースーツは妄想の力を具現化したにすぎない。」

「じ、自分の妄想に負けてどーすんのよ!?バカッ!!!

どうなるの!?あたし達どころか世界の終わりエンド!?」

「すまないが・・・そういう事になるな。」



ぷつっ



あたしの中で、何かがキレた



「バ・カ・言ってんじゃないわよォォォォォォォ!!!!」



瓦礫となっていた鉄骨を掴み、怪獣めがけてぶん投げる


がつんっ!と当たって怪獣がよろける



「女史・・?」

「あたしは!やりたい事が!たくさんあんのよ!!」



何か掴んだ

適当に投げる

当たる



「人並みの学生生活送って!高校行って!できれば大学出て!そっから専門の勉強して!!」



何か蹴った

当たる



「稼いで!結婚して!!子供作って!!楽しい主婦生活送って!!」



レーザーガンを拾った

投げる

当たる



「あんたとさ・・・!!あんたと結婚して・・・!!

死ぬほど幸せに生きてやるんだって決めてたのにさァァァァァァァ!!!!!」



何か掴んだ

投げた



「じょ・・しィ!?」



ヤツだった


当たる


怪獣が・・・倒れる




肩で息をしながら、あたしは吠えた


「ああ好きだよもうッ!!あんたが好きだからさぁぁぁぁぁ!!!

だからぁぁぁぁぁぁぁ!!!だからさぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」























「ッ!?」




はっ、と我に返る

目の前にはテストの解答用紙


・・・時間は・・・午後の最初の授業



「・・・・・・」



・・・何だ、夢か






「・・・・・!!!!!!!!!!」




あたしは恥ずかしくて、机に何度も頭を打ち付けていた











「最悪の夢だったわ・・・」

「おう、女史。」



珍しくヤツから声をかけてきた


・・・さっきの夢がリプレイされて、また猛烈に恥ずかしくなってきた


「な、ななななな何よっ!?」

「すぐに戻ってしまったので言い忘れたが・・・・・」




ヤツは初めて照れたような仕草を見せながら




「俺もキミの事は大好きだぞ」





とだけ、言った




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