やまずのにわかがやんだなら

えむ/ぺどろ

第1話

「雨だね」

「そうだな」

「土砂降りだね」

「土砂降りだな」

「寒いね」

「いや別に」

「えっ」

「え?」

「いまさ、寒いなって言い返す流れだったよね」

「なんだそれ。流れとか無いだろ。と言うか、」

「と言うか?」

「隠せ。見えてんだよさっきから」

「……えっち」

「えっ」

「え?」

「何で分かんないみたいな顔してんだよ」

「え……だって私の服透けちゃってるし」

「キメェ」

「は?」

「頭だ頭。その目立つ頭隠せボケ」

「禿げてないけど!?」

「誰がハゲっつったよ。ボケっつたんだよ」

「え、なに、そんなに酷く言わなくてもよくない!?」

「うるせえな。いいから隠せ。じゃないと、」

「じゃないと?」

「連れ戻されるだろ。あいつらに」

「…………うん」

「分かったら帽子かぶれ。サイズ調整は自分でしろよ」

「…………なんか汗臭い」

「丁度いいだろ。これでお前の匂いも紛れるわ」

「それじゃあ何だか私が臭いみたい」

「臭いだろ」

「えっ」

「え?」

「私って臭かったんだ」

「俺には分かんねえけどな。あいつらには匂うんだろ」

「ねえ」

「うん?」

「土砂降りだね」

「ザーザーだな」

「私、雨女だね」

「いや違うだろ」

「えっ」

「だってお前」

「また流れ壊した」

「だから流れってなんだよ流れって!」

「えっ」

「え?」

「それそれ」

「あーこれ」

「そうそう」

「くっだらねぇ」

「くっだらないねぇ」

「ああ、そういえば」

「なに?」

「これ」

「なに?」

「油揚げ」

「油揚げ?」

「好きだろ」

「好きだけど……」

「他になんか好きなもんあんの?」

「ハンバーグ、とか」

「普通かよ」

「アボカドとか」

「OLじゃねえか」

「悪いの?」

「いや別に」

「じゃあいいでしょ」

「嫌いなもんは?」

「うーん。あまりないけど」

「強いて挙げるなら?」

「騙されることかな」

「お前がそれ言うの」

「そ。ミイラ取りがミイラにみたいな」

「ウゼェ。あとは?」

「実はおいなりさんはあんまり好きじゃない……」

「あそうなんだ」

「うん」

「へーじゃあ得意なことは?」

「石にされること」

「(笑)」

「あと裏切られること」

「やめろ自虐的過ぎる」

「ウケた?」

「くっだらねぇ」

「くっだらないねぇ」

「雨やまないな」

「やまないねぇ」

「そういえばこの雨ってさ」

「うん?」

「やんだらどうなんの?」

「どうって……分かんない」

「分かんねえのかよ」

「……消えちゃったりしたらどうする?」

「そん時はそん時だ」

「そっか」

「お前ってさ、油揚げどんぐらい好き?」

「けっこう」

「じゃあ、はい」

「いや二個もいらな、」

「エキノコックスまで愛すから」

「えっ」

「なんだよ」

「あーまた流れ」


「壊すんだから……」

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