長命 三十と一夜の短篇

白川津 中々

第1話

 シンデレラは美人だから幸福になりました。

 突然魔女がやってきて、ドレスに馬車。ガラスの靴をくれましまが、それはシンデレラが星明かりのように煌めいていたからに他なりません。これが醜怪なる人相をした女であったら、魔女は彼女を救いませんでした。彼女の生は、鮮烈なる美形を持って産まれた瞬間から既に決まっていたのです。灰かぶりと呼ばれ虐げられていたシンデレラですが、不美人は彼女以上に虐げられ、彼女以上に惨めな思いをするのです。打ちひしがれた美女は薄幸の芸術となりえますが、不美人は虫の死骸にしかなりません。忌み嫌われて嬲られて、人知れずに哀れに命が潰えるだけなのです。


 私はシンデレラが嫌いです。美人だから、顔がいいからという理由だけで理不尽に幸福を手に入れたシンデレラが憎くて憎くて堪らないのです。彼女を虐めていた継母や義姉の方が遥かに共感ができ、自己を投影し易く思います。彼女達は、きっと来たる未来、シンデレラが意味もなく祝福されるのを知っていたに違いありません。そして、それが許せなかったのだと思います。彼女達は、自分達の行いが己の命さえ奪うと予感しながら、シンデレラを虐げ続けていたのです。それを不条理への叛骨といいましょうか、はたまた、破滅さえ厭わぬ意地通しといいましょうか……ともかくとして、抗えぬ宿命への細やかなる背信であったのでしょうが、いずれにせよ、彼女達も犠牲者である事には変わりなく、哀れな存在であるのは疑いようがありません。美貌という、何ものにも代え難い、不滅の宝玉が放つ閃光に焼き尽くされたのです。


 私はシンデレラが嫌いです。

 ただ美しいだけで全てを手に入れたあの女が忌々しく、憎く思います。


 そして私は私が嫌いです。

 ただ醜いというだけで全てが手に入らない私が忌々しく、憎く思います。



 美しくないというだけで醜女と蔑まれ疎まれる。そんな生を歩んできました。そして、これからもそんな道を歩む事でしょう。惨めさと悔しさしかない、小馬鹿にされ、慰みに利用されるだけの、つまらない人生を過ごし、死して終えるのです。


 私の元には、魔女は来てくれません。奇跡が起こるのは、決まって美女ばかりなのですから。

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長命 三十と一夜の短篇 白川津 中々 @taka1212384

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