迎えに来たよ

 弟とそのお嫁さんを見送った私は、一人この真っ白な部屋に取り残されていた。

 死神として私を縛るものはもうない。あるのは、大切な人との約束だけ

(あぁ…あの人は元気かな…?手紙でも書いてみよっかな…)





 僕には、もうこの世にいない大切な人がいた。彼女はいつもふらりと僕の前に現れ、いつも眩しい笑顔で僕を元気づけてくれた。

 でも…僕は眩しい彼女の笑顔だけしか見ていなかった。その笑顔の裏に隠された、彼女の苦痛を感じ取ってあげれなかった。


 あの日、あの花火の夜。彼女が僕に言った最後の言葉…


"私の分も、長生きしてね…あなたがおじいちゃんになったときに、迎えに行ってあげるから…いっぱい楽しい話聞かせてね!…さようなら○○君"


 僕はその言葉の意味を理解してあげられず、死のうとしていた彼女を引き止めてあげれなかった。

 あとから聞いた話だ。他校に通っていた彼女は、高校で、他の女子からひどいいじめを受けていたらしい。最初の方は、持ち前の明るさで気にしていなかったみたいだが、だんだんいじめが悪質になり、生きるのも苦痛になってしまったらしい。そんな彼女が心休めれたのは、他の高校に通っていた幼馴染の僕だけだったかもしれない…。



 成人して、社会人として働き始めた今も、ふとした瞬間に彼女のことを思い出す。そして、何故彼女を救ってあげられなかったのだろうかと言う後悔が、今も僕を苦しめる。


 仕事を終えて、クタクタになりながら家のポストを開けてみると、真っ白な便箋が入っていた。しかも送り主の名前が書いていなかった。少し気味が悪かったけど、取り上げず部屋に入って開封してみた。


○○君へ

 お元気ですか?私は今、死神として人々に死の宣告をする仕事をしています。本当は、あなたの近くで、あなたを見守っていたいのですが、死神の私にはできません。

 先日、弟とその花嫁(彼女)を見送りました。二人の幸せそうな姿を見て、久しぶりにあなたのことを思い出して、今、こうして手紙を書いています。何年ぶりかの死んだ女からの手紙、気味が悪かったですか?

今、健康に幸せに暮らしていますか?

 ○○君が、素敵な家庭を作って、死んだ時に、私に嬉しそうに自慢話をしてくれるのを待っています。

          あなたを愛す死神より


(○○ちゃん…)

 

 僕はこの手紙を読んだ途端、あの浜辺で彼女が待っているような気がした。だから、なんの確証もないのに、車に乗り込んで、彼女と最後に花火を見たあの浜辺に、車を走らせた。

  

 あの場所が見えてきた。波の音が静かな闇の中に響いていた。そして…

「○○君、来てしまったんだね…本当は、私から会いに行くつもりだったのに…」

「…ごめん○○ちゃん…ここに、君がいる気がしたんだ」

「ふっ、私があなたに会いに行こうとしていたってことは、もう分かってるのよね?」

「あぁ…なんとなく予感はしてたからね」

「そう…じゃ、改めていうね…○○君、君は明日、病気のために死ぬよ。それでね、明日答えを聞かないといけない大切な質問があるんだけど、いいかな?」

「うん、君の質問なら」

「ふぅ…じゃ、聞くね。"貴方はこの世界が好きですか?"…じゃあまた明日、答えを聞かせてね」

「…うん、また明日」

そう言って、あの頃のように僕たちは別れた。



 次の夜、僕は運良く、仕事が終わってこれから帰ろうとしたときに倒れて、そのまま死んだ。享年23歳だった。



 目を覚ますと、彼女が階段に座っていた。

「やっ!お目覚めかい?僕のお姫様!」

「今、目覚めたよ。僕のプリンス」

「……じゃ、昨日の質問の答え、教えてくれるかい?」

「ははっ、せっかくふざけてみたのに…まあ、良いや!昨日の答えはね…"この世界が好きです"だよ。君と出会えたからね。僕の プリンセス」

「…分かった。神様に伝えてくるからちょっと待っていて」

「あぁ、君をいつまでも待つよ。今度は僕がね!」

「…あまり調子に乗るな!…クスッ」



 そして、僕達は、二人で固く手を結び、天へと昇る階段を昇っていく、やっと再び巡り会えた幸福を感じながら、来世へと転生する。


 "もう二度と、僕達を引き裂く事はできない"

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貴方はこの世界が好きですか? ビターラビット @bitterrabbit

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