弐話 鬼憑き対策班
「はい、誠です」
「おぉ起きとったか、わしじゃ」
「あぁじい様か。どうしたの?」
通話の相手は
「うむ。実は今日、お主に来客がある。わしは知己の法事に顔を出しておるから、誠、お主が迎えよ」
「来客? ……うん、わかった。師匠は?」
「
師の名を聞き、数日前のよう無用な邪魔が入らないと胸を撫で下ろす。
「わかったよ」
「うむ。では頼んだぞ誠」
ガチャリと受話器を置く誠。
いそいそといつもの黒一色の着流しを身につけ、愛刀を手に私室を出た。
仏間に間仕切り変わりの
「誠さんにお客様です」
「わかりました。通して下さい」
若い僧はうやうやしげに客人を招く。
二人分の足音が規則的に床板を踏みつける。
居酒屋の
「はじめまして……」
無精髭を掻き、ボサボサの髪を振ると誠の正面に敷かれた座卓敷きに正座した。
もう一人分の座卓敷きを用意すると、今度は中年男性とは対照的に、厳かな雰囲気の女性が誠に礼をし正座する。
「はじめまして、竜泉寺で【対魔師】というものを生業にしている。
誠が頭を下げると、厳かな女性はキャミソールの上に着た黒色のジャケットの襟を正し、口を開いた。
「こちらこそはじめまして。私は東京高等検察庁所属、検事の備後 《びんご》
一礼をし、簡単な自己紹介を終えた女性──備後 由美子。
政府の代理であると伝えられ、内心困惑する誠に追い打ちをかけるよう中年男性が口を開いた。
「
「んんっ! 開口一番に失礼ですよ。
「おいおい備後くん……上司に対してコレは無いんじゃないか? オジサン泣いちまう……」
「ハンカチはお貸しします」
ガックリと肩を落とす男──
「え、えっと……犬神さん、どうして僕の名を御存知で?」
「ゴホンッ! それはだね。先に備後くんの挨拶通り、オジサンは政府の代理ってヤツだ」
「日本政府の……僕になんの御用でしょう」
誠の心中にある疑念が生まれた。
政府の代理人が公にされていない、忌むべき出自を明かされ、誠を名指ししている。
「態度が変わったな誠くん。察しの良さも家柄のお陰かな?」
すこし前のめりで誠を挑発する。
「班長! 今は取り調べではありません。いい加減口を謹んでください!」
備後は犬神をキッと睨むと、厳粛な口調でピシャリと言い放った。
年長である犬神も流石に軽口を叩いたと、軽く頭を下げると無精髭を撫でて閉口する。
「すみません。端的にお話させていただくと、今政府の抱える問題に対処してほしいのです」
「問題というと
「はい。もちろん誠くんを頼る以上、対魔師の領分に他なりません」
それを聞き誠は一層険しい面持ちで腕を組み、二人から目線を反らすと
「東京には陰陽師……安倍氏、土御門の宗家があります。悪鬼退散なら彼女達が適任ではないですか?」
数秒の間──誠の言う通り、本来なら
だが政府の代理人という二人は、咎人である誠の素性を知りながら近づいた。
「誠くんが疑念を抱くのも当然だ。俺たちは政府お抱えの陰陽師では無く、キミに依頼するのには理由がある──」
犬神は静かに立ち上がり格子から漏れる光に導かれるよう、森林がなびく中庭を覗く。
「──鬼が出た。だが政府はこの事実を認めようとせず……俺たち【対策班】を作ることで急場を凌ごうとしている」
「対策班……そこに僕が必要なんですか? 土御門家でなく、僕が……」
ニヒルな笑みを浮かべ、誠に立ち直った犬神。
「もちろんだ。目に目を、歯には歯を……鬼には鬼を──」
鬼憑―デーモンズ・ポゼッション― 佐々木 祐(タスク) @Tasuku
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