閑話2 二人の誕生日
りん、と響き渡った鈴の音を模した電子音にぴくりと体を震わせる。
白い毛布の中で身じろぎしながらベッドサイドの時計を見やれば、既に2時間は寝坊していることに気がついた。だが、別に今日くらいはいいだろう。今日は一年の始まりの日で、学院も休みなのだから。
一年の始まりの日、ということで今頃街は人で賑わっているのだろう。千翔や翡翠さんから聞いたところによれば、祝日にかこつけてショッピングモールなどではあらゆる催しごとが開催されているようだし、街に出れば退屈することは無いのだという。人混みが苦手な私からすれば、せっかくの休日に好き好んで街に飛び出していく連中の気が知れないのだが。
再び、りん、と響いた電子音に仕方なく私は毛布から顔を出す。2時間寝坊したとはいえ、来客にはまだ早い時間だ。もっとも、私の友人たちは皆常識から微妙に外れたところにいる人たちばかりなので、この時間に私を訪ねてきても不思議はないのだけれど。
薄手の白いワンピースの上から、カーディガンを羽織り、私室の入口へと向かう。髪型もろくに整えていないが、まあ、いいだろう。ドア付近に埋め込まれたパネルで訪問客を確認すれば、白いパーカーを羽織った合崎の姿が映り込んでいた。
新年早々、こいつの顔を見なければならないなんて。今年もろくな一年になりそうにもないな、と小さく溜息をつきながら、ドアを開錠する。
「……朝早くからいったい何の用だ、帝国の死神」
開口一番に嫌味を告げれば、「帝国の死神」こと合崎は、深い色の瞳を僅かに歪めてこちらを睨んでくる。合崎に慣れていない人ならば、これだけで震え上がってしまいそうだ。
「優しく誠実な『兄』に向かって随分な言いようだな」
「柊の振る舞いをよくよく参考にしてから『兄』を名乗ってくれないか。この世界のどこに妹に銃を向ける兄がいるんだ」
お互いに睨みあい、やがてほとんど時を同じくして溜息をつく。本当に、新年早々何をしているのだ私たちは。
「……何か用があるんだろう、入れ」
ここで嫌味の応酬を繰り返していても仕方がない。訪ねてきた合崎を追い返す道理もないので、私はおとなしく彼を部屋の中に招き入れることにした。
私の部屋は、ろくにものも置いていないせいで、散らかることも無い。着替えはいつも洗面所で済ませるので、合崎に見られて困るような代物もなかった。
とはいえ、今は寝間着同然の薄手のワンピース姿。このまま合崎と過ごすには多少心許ないので、クローゼットから厚手の白いワンピースを取り出し、合崎に告げる。
「私は支度をしてくるから、お前はじっとしていろ」
「お茶の一つも出さないなんて、相変わらず気の利かない『妹』だな」
「飲みたければ自分で用意しろ!」
なぜ、寝起きの頭でこんなに苛々させられているのだ、と不満に思いながらも、さっさと洗面所に向かい、着替えと洗面を済ませた。
合崎の手前、特に身だしなみを整える必要性も感じないので、亜麻色の髪は軽く梳かして下ろしたままにしておいた。綺麗に整え、愛想の良い笑みを浮かべれば、怜と見間違うくらいの姿にはなるのだろうが、試す気にもならない。
怜、その名前を意識しただけで、鏡の中の私に苦々しい表情が広がる。
双子に生まれてしまった以上、鏡を見る度に怜のことを思い出すのは仕方のないことなのかもしれないが、どこか心苦しいのは事実だった。
それに、それなりに時間が経ったとはいえ、怜のこと思い出せば、彼女に心酔していた真琴のことも思い出してしまうのだ。油断すれば真琴の最期のあの瞬間が蘇りそうで、その恐怖から逃れるように私は鏡から顔を逸らした。
再びリビングに戻れば、心地よいレモンティーの香りが漂っていた。ソファーの前のテーブルには柄の違うティーカップが二つ並んでいる。合崎とこうしてお茶をすること自体は珍しくないが、私の部屋で過ごすのは滅多にないことだった。
そのせいか、私の部屋には揃いの柄のティーカップが無いのだという事実に今更になって気づかされる。柊に言えば即日用意してくれるだろうが、なんだか合崎の来訪を待ちわびているようで癪なので、やはりこのままでいいかもしれない。
「寝起きだったのか?」
からかうような合崎の声に、私は小さく溜息をつきながら彼の隣に腰を下ろした。
「ああ、誰かさんが朝早くから訪ねて来るせいで起こされたんだ」
「朝早い? 憐にしては珍しいほど遅い時間じゃないか」
確かに、学院がある日はむしろ私の方が合崎を待つことの方が多いが、あれはやるべきことがあるからちゃんと起きているだけで、今日のように学院も柊の講義もない日は、ついだらだらと過ごしてしまいがちだ。合崎はそれを知らないのだろう。
「世間は祝日でお祭り騒ぎなんだ。私だって多少長く眠ることくらい許されるだろう」
目の前の巨大な端末の電源をつけて各放送局の番組をチェックしてみたところ、どこも賑やかな祝日の風景を流していた。あまりにも平穏で楽し気な光景を見ていると、この帝国が外界から隔絶されたスノードームの中にあることも、今この瞬間も「商品」として苦しんでいる子供たちが地下都市にいるであろうことも、何もかも嘘だったかのように思えてしまう。
そう、私の存在すらも、「次期軍師」なんて言う大層な身の上ではなくて、「兄」の隣で祝日を過ごす平凡な十代の少女のように思えてくるから不思議だ。
私も合崎も第一帝国学院の生徒なんかじゃなくて、人を殺したことも銃を握ったことも無い、平穏な日々を謳歌する十代だったら。
そうしたら、こうしてレモンティーを片手に談笑し、日常の些細なことを喜び合えるような、そんな優しい関係になったのだろうか。
そこまで考えて、ふ、と微笑んでしまう。それはそれでさぞかし素敵な毎日だろうが、何だか刺激が足りないと思うあたり、私もかなり毒されている。なんだかんだ言いながらも、銃を握って嫌味を言いながら、がむしゃらに生きていくこの日々は、私の性にあっているのかもしれない。
「何だ、いやに上機嫌だな」
レモンティーの甘さを楽しんでいると、隣に座った合崎が怪訝そうな眼差しを向けてくる。合崎の存在自体に苛立ちを覚えるのはいつものことで、案外この関係性も私は嫌いじゃないのかもしれないと思うと、どこかしてやられたような、それでいて幸せなような、よく分からない気持ちになる。
「いや、お前に銃を向ける日々もそう悪いものじゃないな、と思っていたところだ」
「……なぜ、俺は新年早々憐に殺意を抱かれているんだ?」
「まあ、仕方ないだろ。ほら、どうしたって存在が腹立たしいからな……」
「言ってくれるじゃないか……」
合崎の言葉尻にも苛立ちが滲み出たのを感じて、私はにやりと笑いながら彼の顔を見上げる。彼の深い色の瞳の奥を見つめれば、今日も今日とて不思議な魅力のある光が揺らめいているのが見て取れた。
「それで? こんな朝早くから私に何の用だったんだ? まさか、穏やかにお茶をしに来たというわけでもあるまい?」
「当たらずとも遠からずという感じだな……」
合崎はどこかはっきりとしない様子でそんなことを言ったかと思うと、白いパーカーのポケットから小さな紙袋を取り出された。紙袋には小さなロゴが刻まれているが、学院の紋章でも「白」のシンボルでもなく、繊細な線で描かれた複雑なものだった。
これは、どこかで見たことがある。そうだ、確か翡翠さんが経営する服飾店にも同じロゴが店内に飾られていた。
翡翠さんと合崎に全く関わりが無いというわけでないが、私的な用事で顔を合わせるほどの親しさだとは思えない。呆気に取られて合崎を見つめていると、彼はどこか気まずそうに私から視線を逸らしながら言い訳めいたことを呟き始めた。
「……あまり、思い出させたいわけじゃないが、あいつが――真琴が、言ってたんだ。憐は、誕生日がどんなものか知らない、と。人から祝われるべき日であることすら知らなかったんだ、と」
合崎の口から真琴の名が出てくるのはやはりどうしたって胸の奥が苦しくなる。彼が真琴の命を手にかけたのは、「次期軍師」として仕方のなかったことだと頭では分かっているのに、割り切れない自分の心が面倒で嫌だった。
「俺は、憐の誕生日すら知らない。憐がいつどうやって生まれて、孤児院に来るまでにどんな誕生日を過ごしてきたのかも、何も知らない」
そんなの、お互い様だ。私だって合崎の誕生日を知らない。お互いに天涯孤独の身の上なのだから、知る術がない。――もっとも、柊が私の血の繋がらない「兄」である分かった今では、彼に訊けば私の誕生日くらい簡単に教えてくれるのだろうけれど。
孤児院出身の子どもたちは皆、新年を迎える度に一つ年を取ることになっている。その方が管理も楽だったのだろう。非常に合理的で、帝国らしい制度だと思う。
当然、年を取ったところでそれを祝うような仕組みも孤児院には無かった。だからこそ、誕生日を祝う、という文化はあまりに遠い世界のことで、自分の誕生日すら知らないと真琴に言った日には彼女を驚かせてしまったんだっけ。真琴は、合崎と「恋人」を演じる日々の中で話題に困ってその話も合崎に話したのかもしれない。
「だから……祝うとしたら、制度上一つ年を取ることになる今日かと思って、千翔に相談したんだ。それで……あいつと一緒に選んだのがこれなんだが……」
合崎は、手に持っていた小さな紙袋を差し出した。私はそっと、彼の手からその小包を受け取る。
合崎が言い淀むなんて本当に珍しい。顔色一つ変えないのは相変わらずだが、目を合わせるとすぐに逸らしてしまうあたり、彼もそれなりに動揺しているらしい。
銃口を向けられても、どれだけ無惨な死体を目にしても、表情一つ変えないあの合崎が、私に贈り物をするだけでそんなにも戸惑うなんて。何だか私まで動揺してしまう。
「つまり、これは私への誕生日の贈り物、ということか?」
「まあ……そうなるな」
「……開けてもいいのか?」
「ああ」
翡翠さんのブランドのロゴが刻まれたテープを丁寧にはがしていくと、すぐに主役が姿を現した。淡い銀色の髪留めだ。
「……綺麗だな」
紙袋から完全に取り出して、手のひらの上に乗せてみる。銀の冷たい感触が、何だかくすぐったかった。軽く傾ければきらきらと照明を反射するその様も美しい。
派手ではないので、普段使いに良さそうだ。ちらりと合崎を見上げれば、彼は私と目を合わせないままにぽつりと呟いた。
「……千翔が言うには、憐の髪はかなり長くなってきたから、訓練の時に邪魔だろうと……。だから、髪を纏められるものがあれば、便利なはずだと言っていた」
確かに、音森との一件で一度は肩のあたりまで切りそろえた髪も、かなり伸びてきた。訓練の時に邪魔に思うこともある。そのあたりの気配りができるのは、流石は千翔といったところか。
「ちなみに、千翔にもそれの色違いのようなものを贈った。あいつはお揃いだと喜んでいたぞ」
千翔とお揃いと聞くと、余計にこの品が魅力的に思えてくるから不思議だ。思わず頬を綻ばせながら、合崎を見つめてしまう。
「……ありがとう、空兄様」
ごく自然に紡がれた「空兄様」という呼び名に、より戸惑ったのはどちらだっただろう。
お互い、どちらからともなく視線を逸らし、気まずいような気恥ずかしいような沈黙が訪れた。レモンティーから漂う湯気を眺めては、何とか気持ちを落ち着かせようとする。
「……早速、着けてみてもいいか?」
「ああ」
片手に髪留めを持ったまま、手で亜麻色の髪を梳きながらひとまとめにする。本当は櫛などで整えた方がいいのだろうが、今は試しに着けてみるだけだ。
だが、一つにまとめた経験が殆どないのでなかなかうまく行かない。柊がいれば、いとも簡単に綺麗にまとめ上げてくれるのだろうが、生憎彼はここにいない。さらさらと零れ落ちていく亜麻色の髪を何とか纏めようと奮闘していると、不意に私の手に合崎の手が触れた。
「見ていられないな」
「……合崎が代わりにやってくれるとでも?」
「まあ、憐よりはマシだろうな」
そう言って、合崎の長い指が私の髪を梳き始める。僅かに触れ合う瞬間があるのがくすぐったいような、もどかしいような感覚で、どんな表情をしていいのか分からなくなってしまった。合崎が背後に回ってくれていて本当に良かった。
合崎に触れられて嬉しい、と言えるような素直な感情ではないが、それでも心地よく思っている自分がいることが何だか悔しいのも事実だ。絶対に口になんてできないが、この時間が愛おしいような気がしてならない。
「……くすぐったいな」
「注文の多い次期軍師様だ」
軽く笑うような合崎の声はいつになく上機嫌で、思わず私も頬を緩める。
彼は、本当は私とこんな風に穏やかに過ごしたいのだろうか。銃を向け合うような殺伐とした仲では無く、「兄」と「妹」として、血なまぐさいことからは無縁の生活を送りたかったのだろうか。
終わりが見え、何も忘れられない私たちにとって、そんなのは夢のまた夢だと分かっているのに。合崎がそれを望んでいるのなら今だけは、その幻想に付き合ってやってもいいような気がしてきてしまうから、私も大概合崎に甘い。心が囚われている以上、これも仕方のないことなのだろうか。
「できた、どうだ?」
合崎が私の髪から手を離したのと同時に、軽く頭を横に振ってみる。後ろ手一つにまとめた髪がゆらゆらと揺れる感覚があった。首のあたりもやけに涼しい気がして、何だか落ち着かないが、慣れれば訓練の際などにはうってつけの髪型のような気がした。
「ありがとう、とても動きやすい。千翔とお揃いと思うと余計に嬉しいな」
「そう言うだろうと思った」
合崎は、そう言ってはっとするほど柔らかい表情で笑った。それは、確実に私の好きな「空兄様」の表情で、ずっと見ていたいと思うのに、心臓が落ち着かないせいで思わず目を逸らしてしまう。
何だか、妙な感情だ。「空兄様」のその表情を見ていると、次期軍師らしく冷静でいることを忘れてしまいそうになる。
「……わ、私と千翔に贈り物をしたのなら、合崎にも何か贈らなければいけないな」
合崎に言わせれば、制度上一つ年を取ることになる今日は、合崎にとっても「誕生日」なはずだ。千翔はもう何か贈ったのかもしれないが、二人の目論見をたった今知った私が、何か用意しているはずもない。合崎への贈り物を考えるなんて、かつてないほどの難題な気がしていたが、柊にも相談して悩むしかないだろう。
「別に何も要らない。憐が誕生日というものが何なのかを知ることが出来れば、それで目的は達成されたからな」
「それも何だか気が引けるが……」
「憐が俺に遠慮をするなんて珍しいこともあるんだな」
「お前は私を何だと思っているんだ……」
溜息交じりに合崎を睨めば、彼は余裕たっぷりの視線を私に向けてくる。いかにもいつもの合崎らしい表情に、条件反射的に苛立ちを覚えてしまった。やはり、先ほどまでの穏やかな時間は幻だったらしい。
「そうだな……物は要らないが、今日一日、俺を名前で呼ぶのはどうだ?」
「名前で?」
孤児院にいたころのように、「空兄様」と呼べということなのだろうか。自然に出てくる分には構わないが、意識してその呼び方をするとなると話が違ってくる。銃を向け合うような仲になった今、かつてのように純粋に彼を慕っているわけでもないのだし、何より気恥ずかしいというのが本音だった。
「……名前の呼び方というものは、人に強制するものではない。関係性を表すという意味でも重要なことだからな。だから、呼びたいように呼ぶべきだと思う」
「ああ、言った俺が悪かったよ。相変わらず手厳しい次期軍師様だ」
大げさな溜息をついて、レモンティーを口に運ぶ合崎の横顔を見て、私は、ふ、と頬を緩ませる。
「……空兄様」
合崎は一瞬驚いたように目を見開いたが、ティーカップを片手に持ったまま、視線だけを私に送ってきた。どこか満足げな笑みを含むようなその目はやっぱり腹立たしいが、嫌いになれない。もどかしい思いだ。
「どうやら憐は素直じゃないらしいな」
「何の話だ? 私ほど分かりやすい人間もいるまいに」
「ご冗談を。普段は仏頂面しか拝ませない奴が何言ってんだ」
「へえ? お前は私の笑った顔が見たいとでも?」
からかうように言えば、ティーカップを置いた合崎が僅かに私に向き直り、片手で私の頬をつねりながら笑みを深めた。
「まさか、憐なんて、一秒も欠落しない記憶に苦しんで喘いで泣いているくらいでちょうどいい」
「相変わらず、いい性格してるじゃないか……」
彼を睨み上げ上げながら、挑発するように私も笑みを深めれば、合崎の手が一つにまとめた私の髪に伸び、彼の長い指に亜麻色が絡んだ。その仕草は言葉とは裏腹に、まるで壊れ物に触れるかのような丁寧さで、腹立たしいようなくすぐったいような気持ちになる。
「誕生日おめでとう、一条。今年もせいぜい悩み苦しんでは、俺に及びもしない戦闘技術の訓練に励んでくれ」
相変わらずの上から目線で、合崎は端整な笑みを深める。この時ばかりは整った顔立ちも腹立たしくて仕方がない。拳銃で殴ってその鼻をへし折ってやりたいところだが、生憎手元にないので今日の所は見逃してやろう。
その代わりと言わんばかりに私もにこりと微笑んで、合崎のパーカーの胸元を掴み、僅かに引き寄せた。
「誕生日おめでとう、と私も返そうか、帝国の死神殿? 今年も終末を見る度に心を病んで、私に縋るお前の情けない姿を見るのが今から楽しみだよ」
お互い不自然なほどに笑みを深めては、そこに苛立ちを抑え込む。銃があれば軽く銃撃戦を展開していたかもしれない。実に私たちらしいやり取りで、こんな形でしか感情をやり取りできないなんて本当に救われない。
「好き」も「嫌い」も言葉に出来ず、もどかしい思いから相手を傷つけることしか出来ない私たちは、いつになったら満ち足りるのだろう。この一年こそは、僅かにでも報われる日が来ることを願いながらも、結局はその祈りさえ硝煙に掻き消えていくような気もして、ただただ苦笑いを零すしかない。
合崎も合崎で似たようなことを考えていたのか、どこか気の抜けたような微笑みを浮かべると、そっと私の頬を撫でた。合崎の手の心地よさに酔いしれながら、私も軽く目を伏せてふっと微笑む。
「……誕生日おめでとう、憐」
「……空兄様も、誕生日……おめでとう」
うん、と小さく頷きながら、合崎は二人の間に空いていた僅かな隙間を埋めた。私もそれに抗うことなく、そっと彼に寄りかかってみる。
二人の誕生日、か、悪くない響きだ。
僅かに触れた合崎の温もりにそっと目を閉じながら、私は小さく微笑んだ。変わらない憎しみも殺意も確かにあるだろうけれど、大丈夫、私たちはきっと、少しずつ前に進んでいる。
合崎の長い指が、そっと私の髪を梳く。その優しい感触に身を委ね、心地よいレモンティーの香りに包まれながら、私は確かな温もりを感じていたのだった。
スノードームを殺してくれ 染井由乃 @Yoshino02
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