悪食美食家の晩餐会

@takase_iori

第1話

私達は この世の中のいったい、どれだけの事を知っているのだろうか。

この世の中のすべてを知っている人なんているか。否、いないだろう。

それは、「未知なること」があるということがこの世の構成要素の1つであり、魅力の1つなのだから。

ほんの些細なことから重大で残忍なことまで。








2015年、2月。

雪解けの道を僕は歩いていた。

雪解けというのは、「道」がわかりやすい。人が歩いた部分だけがアスファルトを覗かせるからだ。

自分が道を進むのではなく、進んだ所が道になる。

なんてどうでもいい事を考えながら、白い吐息をもらしながら僕は歩き続ける。


30分くらい歩いただろうか。僕は立ち止まった。

30分か。物事を考えるには丁度良い時間。または、自転車なんかで通勤するにしても程よい時間な気がした。


目的地を正面に見据えて、僕は気を新たに引き締めて歩き出した。看板には「雪月警察署」の文字。

東京の端の端のそのまた端っこに位置する東京には似つかわしくない田舎町のような閑静な都市、雪月市。その市の大きな警察署、それが雪月警察署だった。




僕が本日付で着任する警察署だった。

ドラマに出てくるような大都会の犯罪対策の心臓、警視庁には程遠い。でも、僕には光り輝いていた。

やっと。やっと念願だった刑事として働ける警察署なのだ。光り輝いて見えないわけがないだろう。



長部彼方。25歳、男性。

B型、7月17日生まれ。

突起する事項はなし。それが僕の簡単なプロファイリングになるだろう。

小さい頃に交番の警察官に助けられたのをキッカケに、そして刑事ドラマの影響も相まって、警察官を目指した。

その街にいる人の笑顔を守る力となるのが僕の役目だ。そう思いながら配属先の交番勤務も頑張った。


仕事は誇りを持つだけではダメだと、色々な人に言われてきた。でも、僕は仕事が出来ないノンキャリアで、同僚から見れば落ちこぼれだった。それでも信念だけが僕の支えだった。

そんな時、1年経たずして異動を言い渡された。

左遷だと思っていた僕だったが、刑事課配属と聞いて心踊った。



少し物思いにふけっていたのか、まだ僕は建物の中には入らずに立ち止まっていた。玉の汗をかきながら…。




東京と言えど、格差は隠しきれないのか警察署内は綺麗とは言いがたかった。床は木造かギィギィと歩く度に軋む。まあ、そんな事は今の僕には関係のないことだった。正面の受付に今にもスキップでもしたくなる気持ちを押さえ込み、向かった。




「お、おはようございます!!」


受付の女性にはクスリと笑われてしまったが、構うものか。


「本日付で雪月警察署、刑事課に配属になりました、長部彼方です!よろしくお願いします!」


初日だからこそ第一印象が大事である。大袈裟なくらいのお辞儀であったが気にしない。そう言い聞かせる。


「刑事課はどちらに行けばいいでしょうか?」



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