第23話 勝利

 こちらのカノンは、結果的に合体魔法を成功させた。

 火と水の属性魔法を二つ同時に放つと、鏡面の手前で融合する。

 火と水では打ち消し合って効力が無くなるのではと思ったが、実際はその逆で水が一気に蒸発することによる爆風が発生したのだ。

 蒸気の爆発は、鏡面を荒々しく破砕してく。

 金属の敵には相性のいい属性魔法だったようだ。

 爆風が鏡かミラーら9分とミニットいう大量のTPを削り取っていった。

 怖ろしい威力だ。属性による相性を考えなくても、このダメージ量なら鏡像キラルのパーティーを一撃で一掃できる。

 攻撃は、タカシとカノンが主体となって行う。

 俺は鏡の『タカシ』の相手と、鏡の『カノン』の合体魔法の撃退。

 シオリは鏡の『俺』に金縛りを掛けてるため、自身は動けない。

 少し間をおいて、カノンの合体魔法3発目が再び襲い掛かってきた。

 シオリが動けないため魔法楯のシールドアイギスは掛けられない。ゆえに、この間カノンは『搾取』でエクスプロイト瀕死のタカシを回復させる。

 だが、どっちにしろ俺らパーティーが危うい状況にあるのは変わらない。魔法耐性のない俺には合体魔法の一撃で6分をミニットむしり取られるため、次の攻撃を受ければ残りTPは1分を切る。

 タカシが安全になっても、次は俺が吹っ飛ぶ。

 今度も風と水の属性の組み合わせなのは変わらないが、合成する魔法種が異なるのか大波に姿を変えて向かってきた。

 魔法探知レーダーの先端はある一方向を指し示す。

 明確な形の無い大波の魔法にも、コアがあることを示してる。

 俺は大波に向かって走り、長剣で斬り払う。

 魔法核をマジック・コア正確に捉えていれば、跳ね返せるはずであるが……?

 大波から水と風の魔法弾が弾き出され、それぞれ波と反対側に飛んで壁にぶち当たった。

 うまく、いったようだ。

 不定形の魔法でも、ちゃんと弾き返せる。

「みんな、マヒロが対魔法壁に進化したみたいよ。これで、合体魔法も気にせずに闘えるわね。」

 シオリが仲間メンバーたちに報告する。

「マヒロ君がいれば、我がパーティーも安泰っぽいですね。とっても頼もしい仲間ができて、よかったです。これからもマヒロ君にはみんなでぶら下がって、養ってもらいましょう。」

 カノンが他力本願なことを言い出した。

 仲間メンバー全員で俺にぶら下がるとか、どう考えても重量オーバーだ。

「上界の戦闘バトルは、シビアになってくからね。マヒロ君に守ってもらおう。ボクたちの稼ぎは、まさにマヒロ君の肩に掛かってるんだ。」

 タカシまで無責任な発言をしだした。しかも他人の事だからっていけしゃあしゃあと。

 こいつらが他人に寄りかかるのが大すきな連中なのは、人間のさがだから仕方ないのかもしれないが。

「あと、もう少しだ。たまたまうまく魔法を跳ね返せたが、こんな奇跡はいつまでも続かないぞ。最後まで、油断せずに全力で闘おう。」

 絶望的だった状況でも、だいぶ道は切り開かれた。

 進んでみれば、何とかなるものである。

 鏡はミラー間もなく、TPを全て失い消滅することとなった。


 戦闘バトル時間、16分30秒。

 俺たちは、四方の鏡をフォーサイドミラー倒した。

 SIMポイントを2000P獲得。

 時給に換算して、一人当たり約1820円(パーティー全体で7280円)。

 マイナス報酬ポイント0。

 失った時間TP平均34分。(死亡タイムまで6分)ミニット



「いやあ、一時はどうなることかと思ったねえ。まさか、こうして生きて帰ってこられるとは。」

 シムバーガー・アルカディア店で、タカシが巨大なチキンバーガーを食べながら感想を述べた。

「あれでも、上界でいちばん楽な部類のダンジョンなんでしょ? このゲームはまだまだ先がありそうね。飽きることがなさそうで、嬉しいわ。」

 シオリが両手いっぱいの牛バーガーを口に突っ込みながら、しゃべる。

「大丈夫ですよ、きっと。今日の戦闘バトルで、わたしたちはだいぶパワーアップしましたから。相手は強かったですけど、わたしたちと同じ顔と能力スペックをしてるだけに、学べることも多くありましたから。『学ぶ』と『真似る』は同じ語源から来てると言われるように、鏡のわたしたちがやってた戦法は模倣することで学びになります。実際そうすることで勝てたのですが、闘うことでお金を得るだけでなく結果的にわたしたち自身のレベルアップにも繋がったんじゃないでしょうか。」

 カノンが特大スイーツパフェを口に運びながら、言った。

 先の四方の鏡とフォーサイドミラー戦闘バトルを終え、すぐに俺たちは初級異世界の街アルカディアへと戻ってきた。

 そのまま上界でのゲーム攻略を続けることもできたが、体力というよりは精神面で大分削られたので、冒険を中断して下界へ下りてきたのだった。

 シムバーガーの店内へ入ると、仲間メンバーは安心したのかカウンターで大ボリュームのメニューを注文して、それからテーブル席で暴食いを始めた。

 俺の目の前のお盆には、なぜかこの店で最大のボリュームと価格をもつ『ゴージャス・ステーキ・バーガー』が置かれてる。今日、一番の活躍をした勇者にご馳走を振る舞うべきだというシオリの発言で、他の仲間メンバー三人から奢られる形で晩飯を共にすることになった。

 俺もそれなりに腹は空いてるが、一見ピザかと見紛うほどの大サイズ・ハンバーガーを胃に詰め込むことができるのか、甚だ疑問である。

『ステーキが挟まったパン』という見た目の食べ物に、ナイフで切れ目を入れながら俺は言う。

「こんな豪華な食事をご馳走になって、悪いな。今日はそんなに稼いでないから、食費でマイナスになってしまうだろうに。それにしてもめちゃくちゃ美味いな、これ。」

「気にすることはないのよ、マヒロ。キミがいなきゃ、どっちみちマイナス報酬ポイントを加算されてたんだから。パーティーを金銭的に救ってくれたお礼くらいはしなくちゃ。ビジネスにおいては、稼げるやつが優遇されてしかるべきだわ。」

 利益を上げるための努力に報いてくれるのは、ありがたいことだ。

 シオリの中では実力主義が当たり前の考え方としてあるので、結果を出した者が報われるという至極公平なもてなしをするのだ。

「まあ、俺だけの力ってわけでもないんだけどな。シオリが鏡像キラルの行動を真似することを考えなければ、完全勝利にはならなかっただろうし。カノンの合体魔法は、鏡をミラー早く壊すのに強力な武器になった。またタカシの攻守両面におけるサポートは、パーティーの戦い方に安定感を与えるのに不可欠なものだ。仲間メンバーのみんなで勝ち取った勝利だったんじゃないか。俺一人じゃ、成し遂げられなかった結果だ。」

 仲間メンバーそれぞれの貢献も評価されていいはずなので、先ほどの闘いを振り返って俺なりの分析を語る。

 友だち同士で馴れ合ってるのではなく、冷静に見てその通りの闘いをしたと思っている。

「キミは、謙虚だなあ。もっと、自分の成した貢献を誇ってもいいと言うのに。マヒロ君はボクの働きを高く評価してくれるけど、実際ボクなんてこのパーティーにぶら下がって利益を吸い上げてるだけの寄生虫だよ。みんなに養ってもらってるだけの、ただの穀潰しさ。」

 俺を謙虚というのなら、タカシは己れを限りなく卑下してると言えるレベルだろう。

 タカシの分身アバターの能力がなければ、シオリのトゥルパも有効に生かされない。決して、寄生虫の穀潰しなどとは思ってないが。というより、この男の場合マゾ気質の性格ゆえに、自分を虫のごとく下等に言い表すことが喜びにつながるのかもしれない。

「マヒロ君がいないと、パーティーは全滅していた可能性も高いですよ。鏡のパーティーが、トゥルパの魔法については非対称であることにいち早く気づき、対処できたのはマヒロ君のおかげですし。気付くのが少しでも遅れてたら、敵には『薬物』と『金縛り』ナルコレプシーの技がある以上、前衛の陣形を崩しつつ守りの手薄なシオリンに集中砲火する作戦に、早い段階で移行していたはずです。致命的な急所のある作戦とはいえ、こちら側の戦力をある程度減らした上でなら、どっちみち対抗するのも難しくなりますから。敵パーティーの急所が『シオリン』にあると気付けたのも、命運を分けるポイントでした。敵は『カノン』の合体魔法で攻勢をかけてきていたので、あそこはまさに時間との戦いでした。こちらの作戦を決めるのにもたもたしてしまったら、一気にTPを削られてマイナス報酬ポイントを加算されていたことでしょう。極めつけは、合体魔法の跳ね返し。『マヒロ』君の魔法道具アイテムを使った仕掛トリックけを見破り、完全勝利を収める要因となったこの技はスキル、今後の上界での戦闘バトルでも活用できるマヒロ君の第2の必殺技です。キミは確かにパーティーに必要な人材ですから、それなりの待遇を受けるのは当然と言えます。」

 働きに報いるのは、当然か。

 だとしたら、この世の中は未だほとんどが、当たり前のことを実現していない組織ばかりと言えそうだ。

 働いた分報いられるのは当然の権利だと主張できる人間が、この時代の日本にはどれだけいるのだろうか。

「そうか。そこまで言うならありがたく奢られておくけど、お前らもうちのパーティーの有用な人材であることに変わりはないんだ。そのうち、俺のほうが仲間メンバーに救われて、飯を奢ることもあるだろうな。その日に今日の分は返すことになるから、キミらのお財布の中身の増減については気にしないことにするよ。未来に奢るお金を、今日返してもらったと思えばいい。このパーティーなら、上界でもやっていけると信じられるからな。」

 今日の報酬額に等しい価値があるゴージャスなパンを、腹に収め終えるのはいつになるだろうか。

 ひたすら手と口を動かしながら、ついでに話を切り出す。

「みんな、お疲れのところ悪いが、食い終わったらさっそく今日の反省会と作戦会議だ。上界での戦闘バトルはシビアさも増すが、その分報酬額も増えていく。反面、マイナスを抱え込むリスクも格段に上がる。だがゲームである以上必ず攻略法はあるし、鏡のバトルでも分かったように、敵が途中でパワーアップしたりという理不尽も無い。どういうわけか、このシムゲームは矛盾や公正でないことを嫌う。無理ゲーだったり、不毛な長時間プレイを要求してくるようなコンテンツでは、決してないんだ。効率を追い求める工夫と、自分に得になる知識により、必ず攻略法を見つけられるゲームのはずだ。我がパーティーの今後の生存と収益のために、今日は上界戦闘バトルについて綿密に討議しておく必要があるだろう。まあ、ようするにやることは、今までと変わらない。戦闘バトルをしては、改善するために考える。それのくり返しだ。すごく基本的で当たり前の事しかしてないんだけどな。」

 俺が言うと、仲間メンバーがそれぞれ頷いて答えた。

「よしきた。反省会&作戦会議〈上界編〉、今回はじっくり話し合おうじゃないか。」

 とタカシ。

「そうですね。上界に来ても、わたしたちがやることは勝つことです。そのためによく戦略を練ることは、未来へのリスクの備えとなりますから。」

 とカノン。

「いつもそう言ってパーティー会議を始めるけど、最後にはだいたい直感で決めてるじゃない。まあ、みんなでわいわい勘の意見を出し合うのも、楽しそうだからいいけどね。あたしたちで上界に乗り込んで、異世界を制覇する計画をじっくりと練りましょうか。」

 とシオリ。

 そうやって会議を始めるも、結局は楽しく雑談だけして終わりという場合ケースも確かに多い。

 この日もそのパターンになる可能性は十分にある。

 大抵、人間は己れの欲求に勝てない生きものだからな。

 敵に常勝する計画を立てようとも、まず勝たねばならない相手は常に自分なのだ。

 自分と闘う。

 時間の渦に飲み込まれないための、最上の攻略法である。


 end

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Age Simulated Reality マサヒロ @furuya9713

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