私のわがまま
今日は日曜日。
お父さんはお仕事に行っちゃった。
きっとこの時期は忙しいんだろう。
「お母さん、公園に行きたい。」
「ごめんねユズ。今日はちょっとお母さん体調悪くて。」
「やだやだ!行きたいの!」
最近、お母さんはユズと遊んでくれない。
物凄くつまらない。
お父さんもいない日は一人でお絵かきや折り紙をして過ごす日々。
もう飽きていた。
「ユズ、おじいちゃんと行くか?」
リビングで湯呑に入ったお茶を飲みながら言った。
「・・・お母さんと行きたかった。」
「ユズ、ごめんね。」
お母さんはユズの前に来て手を握って謝る。
そんなのが欲しいんじゃない。
私はお母さんに構ってもらいたい一心だった。
おじいちゃんが嫌いな訳じゃない。
おじいちゃんの顔をチラッと見ると少し悲しそうな表情でこちらを見ていた。
ちょっと言い過ぎたと思った私は俯きながら言った。
「おじいちゃんと行く。」
「そうね、お母さんの分まで沢山遊んでおいでね。」
「でも、じゃあ今日の夕食は唐揚げやって欲しい。お母さんの唐揚げ食べたい。」
するとキッチンに立っていたおばあちゃんが、ひょっこり顔を出していった。
「ユズちゃん、今日も夕食はおばあちゃんが作るんだよ。
最近はお母さん作れないのユズも分かってるでしょう。」
「やだやだやだ!お母さんがいいの!」
「分かったわ。ユズ、今日はお母さんが唐揚げを作ってあげるね。」
お母さんは微笑みながらそう言った。
すごい嬉しかった。
お母さんが私のわがままを聞いてくれた事が。
最近はごめんねと言うばかりだったからだ。
「ありがとう!」
私も満面の笑みで返した。
その日の夕食の準備、お母さんは約束通り唐揚げの準備をしてくれていた。
だけど何度もトイレに行ったり来たりを繰り返していた。
本当に体調が悪いんだ。
ユズが我儘を言ったからお母さん無理してるんだ。
おばあちゃんが一緒に手伝いにキッチンに立っている。
ごめんなさいねと言うおばあちゃんの声が聞こえた。
「我儘な孫に育てのは私ね。
好きなものだけを渡して苦手なものはやらせなかったの。
それは間違いだったわ。」
おばあちゃんは世話焼きで私の身の回りのことは全てやっていてくれた。
例えばおやつの時間のプリン。
蓋を剥がしてスプーンを出すまでやってくれる。
私は今までスプーンがどこの位置にあるのかさえ知らなかった。
他にも、嫌いな野菜は一切食べてこなかった。
茄子やピーマンや玉ねぎ、それから緑の野菜は殆ど。
食べるご飯の量の倍の量のお菓子は食べていた。
おばあちゃんが作ったご飯に殆ど手をつけずにご馳走様といい冷凍庫からアイスを取って食べるのは当たり前の行動だった。
「いいえ、そんなこと。これからゆっくり出来ることが増えていけばいいじゃないですか。
それにあの子は優しいですよ。愛情たっぷり育てて頂いたおばあちゃんのお陰です。」
お母さんの声は優しく聞こえた。
私、優しい子なんかじゃないのに。
私の我儘でお母さん我慢しているのに。
居た堪れなくなりリビングのテレビに集中しているフリをするのをやめた。
ドアを開けてそのまま部屋に行った私は布団に潜って天井を見上げた。
あ、天井に小さいシミができてる。
この家はおじいちゃんが建てた物だから古いし当たり前か。
何個あるんだろう。
1、2、3、・・・
あれ、このシミは何だかハート型に見えて面白い。
こっちのシミは何に見えるかなぁ。
ガチャっとドアが開いた。
「ユズ?ご飯できたよ。」
「あ、やった!今行くね。」
あ、私お母さんとおばあちゃんの会話を聞いて部屋に来たんだった 。
まぁいいか。
リビングに入ると美味しそうな匂いがした。
ダイニングテーブルにはお父さんの姿もあった。
「あれ、いつ帰ってきたの?お帰り。」
「部屋の前で声かけたけど返事がなかったから寝てると思ったんだよ。」
お父さんの声には気づかなかった。
きっと部屋のシミを数えるのに夢中になっていたからだろう。
その日もみんなで食卓を囲んだ。
だけどお母さんだけはやっぱり食べなかった。
ここ2周間くらいお母さんはご飯を食べていない。
「今日も食べないの?」
「作ってたらお腹いっぱいになっちゃった。ユズ沢山食べていいからね。」
変だなーと思いつつも沢山の唐揚げを食べられる事に興奮。
今日も美味しいご飯が食べられた。
夜空に浮かぶ太陽 @H1N4K0
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