ベッドからの起き上がり方

宇陀川髄

第1話

17歳。夏。


私は目覚めると救急病棟のベッドの上にいた。


無機質な心電図の音。

胴の上の無数の管。

点滴。

看護師さんの呼びかける声。


なんて言ってるんだろう。

聞こえてはいるんだけどなにか別の生き物を見ているみたい。


体は拘束されているみたいで身動きが取れない。

それ以前に首を起こすことも困難なほど私の身体は言うことを聞かなかった。


何時間が経ったのだろう。

両親がやってきた。

私の身の回りの荷物を持っていて。

普通の病棟に移るのだという。


何かを言いたかったのだが、うまく口が回らなかった。


病室について私は自分のスマホの画面を見せてもらった。


当時の恋人、名前は仮にA男としておく。

A男から着信が数件入っていた。


まだぼんやりとした意識の中、私はここにいる意味を思い出した。


昨夜。

私は大量の抗鬱剤を摂取して倒れたのだ。







私には大切な恋人がいた。


名前は仮にA男とする。


A男は2歳年上で、付き合って1年半になる。

優しくて、頭が良くて、不器用だけど、ちゃんと人の痛みがわかる人だった。


私はもともと自分を曲げられない性分で人より少しばかり正義感が強かったんだと思う。


だから周囲からは浮きがちで、勘違いされて1人になることもあった。

でも私はそれでもよかった。


寂しくないとか辛く無いと言ったら嘘になるけど、その他大勢と同じになるよりはマシだと思った。


そんな中声をかけてくれたのが、A男だった。

「あまり、自分から1人になろうとしないで。」

「どんなに君が悪者にされたとしても俺が良い人でいて、君のそばにいたらきっと君もいい人って認識になって一緒に入れくれる人増えるかな。」

「俺はみんなの輪の中で笑ってる君も好きだよ。」


本当に幸せだった。


でもA男には心の弱い部分があった。

私は側にいようと思った。

「君のそれが義務感からくるものならいらない。」


私はA男が好き。それは理由になるかな?


義務感なんかじゃない。そんなんじゃ無い。


恩を感じてないわけじゃ無いけど、ちゃんと好き。


付き合って一年が経ってA男が言った一言を疑った。

私は元々、夢があってそれに向けた活動を1年近く続けていた。

その集大成とも言える行事が1ヶ月後に迫った時のことだった。


その行事をやめてほしいと言われた。


夢を捨ててほしいと


そのぐらいできないと愛を信じることができないと。


「俺は誰かと喋って、誰かに目視されて、誰かと笑ってる君が気持ち悪くて仕方がない。」

「俺はみんなから嫌われててみんなのことも嫌いで俺のことだけが好きなそんなお人形さんみたいな子が好きなんだ。」


少しずつエスカレートしていったA男の束縛で既にメッセージアプリの友達欄はA男と家族だけになっていた。


だからと言って夢を捨てたとしても行事だけは、責任があるから投げ出すことはできない。


そう告げた。


じゃあ辞めざるを得ない状況を作ればいい。


私は元々思春期外来と言われる病院に通っていた時期があってその時に怠けて飲み忘れていた抗うつ剤や睡眠導入剤を所持していた。


その存在は彼も知っていた。


「それを飲んで病院に運ばれればいい。」


その時の私はどうかしていました。

長い間1人でいた私の隙間をA男は埋めてくれたから再び1人だなんて耐えられない。


そう思って薬を飲んだのです。


頭がぐるぐるぐるぐるふらふらとからだにちからがはいらなくなってねむりました。


午後17時ごろの話。


翌日の12時ごろ私は目覚めました。

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ベッドからの起き上がり方 宇陀川髄 @zui_udagawa

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