総盟紀 -sohmeyki-

シャトレ~ゼ

1•1•1 遠い、遠い、再会

 "隕石"の落下地点にはプランキグケ一家が住んでいた。大宇宙の運命に1つの転換点が与えられたのは、この時であった。




 長い寒気が過ぎ去り、フェルン(Felwn)北端の古い丘陵地帯は涼しい風に吹かれていた。

 サバンナに生えたような美しい橙色をした草が、日の光に照らされて波打つように輝いている。

 斜面から谷に群がる木々は海老色や小麦色に染まり、ところどころ低木も見られた。


 惑星ソン(Sonn)の南半球を覆う大陸、その西の果てに位置するフェルンの丘陵風景に魅了されないものはいない。ここは訪問する人々に、出所のわからない、不思議なノスタルジアを感じさせる場所だった。


 ある昼前、そんな丘陵に響き渡ったのは、隕石が落下したような、大地を貫く鋭い爆発音であった。

 直径5メートルはあろうかという大きなクレーターが、プランキグケ一家の住まいから300mほど離れた丘の頂上を抉った。

「なんてこった」

 ウランダートとその妻クーリテニチェリは出来上がったクレーターの側でたたずみ、言葉を呑み込んでいた。

 "隕石"が落ちたのは紋碑トクイロ(立方体を3つ重ね、家紋をかたどった石碑)のすぐ近くだった。大量の土ぼこりがあたりに舞っていたが、幸い紋碑トクイロに損傷はない。

「落ちたらしいな、何かが」

 ウランダートは腰に手を当てた。

「観測所から何も連絡は来てないはずだけど…」

 クーリテニチェリも怪訝な目つきで眺める。宇宙からの飛来物であれば観測所が察知しないわけがない。観測機器の目を振り切る速度(遅くとも光速の30倍)で衝突したのであれば、この星はただでは済まなかったはずだ。何かが突然空から現れたと、その時はそう思うしかなかった。

 両親よりも先に現場に駆けつけていた三女のテーパッタリケオは、穴の縁から体を乗り出していた。

「リケ、あまり近づくな」

 ウランダートは少し歩み寄ると、穴の中央の若干土が崩れている部分に目をやった。そして何かの気配を感じたように呟いた。

「…人が埋まってるぞこりゃあ」

「人?」

 突拍子もない夫の言葉を、クーリテニチェリは一瞬疑いかけた。

 そのころ少し後方を走っていた長女のナーバリサムがようやく丘を駆け上がって合流した。

「何があったの?この穴は?」

「人が中にいるんだ、今すぐ掘り出す」

「人って…生きてるの?」

「たぶん、生きてる」

 ウランダートは数歩後ずさった。

 次の瞬間、クレーターの中央の土がふんだんに盛り上がり、外側からボロボロと崩れていった。

「おぉっ」

 リケは唸った。父が<ロシャネ>を発揮する場面は滅多にお目にかかれるものではない。


 たちまち土の塊から空洞が現れた。

 その空洞の中から出てきたのは、驚くべきことに、子どもであった。小さな子どもが、まるで空気のカプセルの中に入れられているかのようにうずくまっていたのである。

 子どもの体はクーリテニチェリの腕の中に渡った。

 見た目5歳くらいの面妖な見た目の子ども。紺色の髪は外側にカールし、身なりは風変わりではないものの、フェルンでは見慣れない姿だった。土の中に埋まっていたにもかかわらず、服には土ぼこりが一粒も付いていない。赤みがかった肌も、緑血のソン星人からは考えられないものだった。

 しかし何より不思議なのは、大きく見開いた瞳であった。深い、混濁としたそのインディゴブルーの瞳は、あたかも角膜の奥に小さな宇宙空間を閉じ込めているようで、北から照りつける太陽の光をまんべんなく吸い込んでいる。その冷たくも神秘的な眼差しが、四人の顔を順番に見上げた。

 短い沈黙が続いた。

「…どこから来たんだろう」

「さぁな。とりあえず家に連れて行ってくれ、俺はここを整地してるから」

 子供を連れた三人はすぐさま引き返していった。

 こうして、皆にとって大事な出会いが生まれた。

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