蛸饅頭

安良巻祐介

 

 星空を見上げながら歩いていると、足元不注意となり、何かにつまずいた。

 転びそうになるのをなんとか踏み止まって、打ち当たったものを見てみれば、あぐらをかいた小さな膨れ神の像である。

 これは罰当たりをしたと、倒れた神像を道の隅に動かしてまっすぐにし、懐より冷えた桃色の蛸饅頭を一つ取り出して、供えた。

 生憎と膨れ神の好む鳳凰餅ではないが、持ち合わせたのがこれだけしかなかったのだから仕方がない。

 ご勘弁を願おう、と心中で考えながら、土のついた青銅色の豊満顔を無邪気に綻ばせている神像に、安物の葛念珠を絡めた両手を合わせ、お唱文を唱えた。

 すると、意外や意外、オミヤゲモノのたぐいとばかり思っていたその膨れ神がムクムクと動きだし、供えた蛸饅頭を取ろうとその小さな手を伸ばしたではないか。

 私はそれを見るや、きえええっ、という気合いの一声と共に、思いきり右の踵を降り下ろした。

 目の前の蛸饅頭に気をとられていた膨れ神の脳天に、踵がまっすぐ突き刺さる。

 蛙の躙られた時のような声が響き、蛸饅頭は中身をぶちまけた。

 踵先の形に陥没した膨れ神の頭は、そのままぴくぴくと数回痙攣したのち、すぐに動かなくなった。

 私は葛念珠を常と逆に絡めてから、おせんべいのようになった神像へ向かって、ぷっと唾を吐いた。

 息もせず動かずにいるからこそありがたい神様なのに、それを自ら虫か獣のごとくに動き出すとはなんと浅ましい。

 とんだ時間の無駄をしたものだ、と頭上の星空へ呟いて、私は禹歩を踏みながらその場を立ち去った。

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蛸饅頭 安良巻祐介 @aramaki88

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