カクヨムからの書籍化を待ちわびた一作。
所謂チートを手にして豹変し、粋がり、子供じみた言動で成功し続けるおっさんに何度失望しただろう。
本作はそれらとは一線を画し、みっともなく、泥臭く、そして誰よりも必至で格好いい大人の意地に魅せられる物語だ。
34歳独身サラリーマン。趣味はカードゲームとアイドル。日々の生活に疲れ果て、ただ生きるだけで精一杯な中年の無益な人生。TVの向こうで輝く才能溢れた少女たちと冴えない中年。カードゲームと一人の少年により、互いの世界は交差し、超常の戦いが繰り広げられる。
敵は理不尽、手にする力は超常なれど不便極まりないカードゲーム。そして諦めぬ魂。勝利への道のりは遠くか細く、ダイスの神には見放され、健康診断に引っかかる中年の体力では逃げられすらしない。それでもなお、彼は足掻き続ける。生き残ろうとする。這いつくばり、見下され、恥ずかしく、情けなく、それでもなおカードを一枚ドローする。まだゲーム《人生》は詰んでいないから。
毎日毎日『疲れた』とか『死にたい』と思いながらの人生でも、報われない事ばかりの人生でも、それでも自分の幸せは自分しか掴み取れないから。
これは決して華麗でも格好良くもない、平凡な中年の物語。泥臭くて、諦めが悪い不格好な物語。
だからこそ、這いつくばり戦う姿に引き込まれるのだろう。
まず始めにこの物語は無双物ではない。それどころかこの主人公は無双される側の平凡な中年のサラリーマンで、変わった所をあえて挙げるなら趣味が20年近く続けているカードゲーム位だろう。そんな主人公がとある存在から強大な力を無理矢理押し付けられる。けれどもその能力は万能ではなく最強でもない、ついでに言えば発動すら自分の意思では出来ない。こんな現状なのに本当に容赦なく、理不尽な現実は襲い掛かって来る。
ある時は絶大な力を持つ魔法使い達。
神と見紛う程の力を持つ少女。
裁判物のパワハラを行う上司。
エロい絶世の美少年。
膨大な予算オーバーを平然と行うプロデューサー。
わざわざ呼び出して絡んだ上吸血鬼の群れの中で嘔吐する泥酔女。
周りに不条理を押し付ける双子等々。
襲い掛かる理不尽に必死に足掻き、または絆を結びながら前に進んで行く主人公。
彼の戦いに楽なものなど一つも無い。何時だって地べたを転がり這いつくばりボロボロの泥だらけになりながらも、どれだけ絶望的な状況になろうとも絶対に勝負は捨てず、その時に出来る最善を尽くし薄氷の勝利を掴む。その姿を是非ともご覧になって欲しい