第3話 女子会のはなし
就活と受験勉強って大きく違って、就活は運とか縁とかによるところが大きいから、根を詰めても仕方がないと思う。
勝手にそう思っている。
だから私はいかに気分転換するかを大切にしている。
元々、一人で行動することは得意なので、隙間時間で映画を見に行ったり、カラオケに行ったりと、受験生時代よりはずっと悠々自適に過ごしている。
でも受験生時代と違って、努力は必ず報われない……気がする。
努力は必ず報われるとか、努力は必ずしも報われるものではないとか、世の中で広く言われているけれど、果たしてどうなのだろうか。
努力ってなに?なにをもって努力と認定すれば良いの?
というのが今の私の心境だが。
でも自分で努力と言い切ろうとするレベルの時点で努力じゃない気がする。
自分では努力と思わずに努力できてしまう人には勝てない。
だから私はまだ、自分を、自分の努力を認めたくない。
それが就活においてだけではないから、なかなかに厄介なのだけど。
自己肯定感が低すぎる。
そんな私はあまりに長い間、人とプライベートで会話をしていなかったので(もちろんバイトはたまにしている)、今日は人と会うことにした。
最近、お一人様で行動しすぎていた。
16時に渋谷のツタヤの前で待ち合わせ。
幸い今日はベンチャー企業の面接帰りのため、スーツの着用の必要がなかった。
この面接が決まる前から今日会う約束をしていたけど、本当にタイミングが良かった。
スーツ着なきゃいけない日でも、会っていただろうけど。
相手はもちろん冬木さん
……ではない。
そんなはずがないだろうが。
そんなことできるなら、わざわざこんな小説にしないだろ。
こんな形で想いを昇華する必要ないだろ。
今日は、私のバイト先の他店舗で働いている、ナズナさんと会うのである。
私が他店舗へのヘルプで働きに行ったときに知り合って、仲良くなった。
ナズナさんは社会人。でもあまり上下関係のない付き合いをさせてもらっている。
アッシュ系の髪色がオシャレで、それでいて派手すぎないあたり、センスが良い。
おこがましくも、お互いに性格が近い気もして、とても気が合う。
予定より少し早めに着いたので、ツタヤの中をふらふらしてみた。
流行りのアイドルに、流行りのアーティスト……
アイドル多すぎない?
私彼氏いないからスキャンダルとかないし、アイドルに適性あるんでは?
などと、何にもならないような思考を巡らすこと数分。
個人的にアイドルといえば、ハロプロだと思う。
ハロプロまとめサイトを毎日のように見てしまうくらいには、ハロプロが好き。
でも最近、熱が冷めてしまったような気もする。
詳しい話はお近くのハロオタに聞いてほしい。
周りにハロオタがいない?そんなはずない、おそらく隠れているだけだよ。
話が逸れたけれど、
ナズナさんとの待ち合わせ時刻になるまでツタヤの中で時間を潰し、流行というものをインプットした。
時間の有効活用のつもりだ。
エンタメ系に関わっている企業を受けるときに、何かの役に立つかもしれないし。
普段からこれだけ、あれこれ考えてインプットしながら生きている私が内定をもらえない世の中は間違っているし、私は運がなさすぎる。
世の中にも自分にも呆れるばかりだ。
間も無く待ち合わせ時刻となり、
ツタヤの入り口の前でスマホをいじっていると、ナズナさんから連絡が入った。
「お待たせ〜!」
ナズナさんとは久しぶりに会ったが、見た目的に変わっていなかった。なんとなく安心した。
「お久しぶりです!何食べに行きます?相変わらず私たちノープランですね!笑」
そんなことを話しながら、センター街をフラフラ歩き、止まらない世間話。
お店が忙しいときの店長がムカつくだの、主任がセクハラ親父としか思えないだの……
普段、近しい人には言い難い愚痴をお互いに言い合った。
私はバイトとはいえ、同じチェーン店で働いているので、お互いに共感できることも多い。
共感はできるが、店舗は別なので良い具合の距離感があり、とても愚痴を言いやすい。
そういう関係って、世界のどこにでもあるよね。
海鮮系の居酒屋に入り、まだ夕方だというのに酒を飲む私たち。
飲むのはあまり得意ではないけど、お酒のせいで口を滑らしたことにできるのなら、なんでも言えるので良いなと思う。
ナズナさんは生ビール、私はレモンサワーを頼んだ。
ここの居酒屋はポテトが美味しいという話で盛り上がる。
ツルツルのポテトではなくて、粒々が付着したようなポテトの方が美味しいという話だ。
私はポテトにこだわりがないので、粒々だろうとツルツルだろうと、今まで意識したことがなかった。
新しい知見を得た気がする。
ご飯を食べながら仕事の愚痴をこぼしまくり、他愛ない話も尽きて来ると、一気に恋愛の話ばかりにる。
まあ他愛ない話は尽きないし、これまでのトークでも恋愛の話はちょこちょこ挟まってきて入るのだけど。
「ナズナさん、彼氏できました?」
「できてないね。この会話、この前会った時と同じだね」
「私もでーす!いぇーい」
お酒も入っているので、勢いもありハイタッチする。
「ナズナさん綺麗なのになんでだろう、周りがおかしいですよ」
「なんでだろうねー。自立しすぎているのかな、あたし。電球変えたりとか、テレビの配線とかも一人でできるし」
「すごい。あ、でも私もそういうのできる気がします。そんなことでいちいち人に頼ろうと思わないし」
「わかる。でもこの前、お風呂で髪を染めてたのね。そしたら後ろのほうの髪の毛に、薬剤が上手く塗れなくてさ。頑張って塗ったけど。こういうときかー!ってなった。彼氏いてほしいとき」
ナズナさんは精神的にも経済的にも、とても自立した人だ。
大人としての常識もあるし、休みなく働けるくらいタフだし、接客業やっているから持ち前のコミュニケーション力とか気配りもできる人だと思う。
「ナズナさん、仕事しすぎでは?休んでますか?」
「ああ、それはある」
「世の中、ちょっと頼りなくてワガママなくらいの女の子の方が彼氏いる気がするんですよね、なんなんですかね」
これはガチな話で、別に性格が悪いわけではないけどワガママで気の強いイメージのある子の方が彼氏いる率が高い。
大抵、ちょっと大人しすぎるけど優しそうな彼氏がいる。正直、羨ましい。
人間、自分の持っていないものを持っている人に惹かれることは少なくないよね。わかるわかる。
「まああたしはね、今更あの店舗の中で相手見つけるのとか厳しいわけ。近すぎて逆に無理というか、仕事だしさ」
ナズナさんはポテトにケチャップをつけながら言った。
「そんなことないと思いますけど……まあ、かっこいい後輩でも入って来ると良いですね。かっこいいっていうか、気の合う人」
「むしろそっちの店舗ではどうよ?かっこいい後輩入ってきた?」
こういう話題を聞かれると、真っ先に冬木さんの顔が頭に浮かぶ私の浮かれポンチ!
新しくかっこいい人入ってこないかな?って話だろうが!既存のメンバーの話はしていないのに。
「え、うちの店舗ですか?いやー普通の大学生か、社員のおじさんかって感じで極端で……」
なぜか、しどろもどろの私。
「あ、でもあたし、そっちの店舗で気になる人いるんだよね」
一瞬、心臓が跳ねた。
まあうちの店舗、ウエイターもキッチンもたくさん人いるし。
ナズナさんと私、男の好み合わないんだよなー。
「えー!ナズナさんが気になるって誰だろう、見当つかないかも」
本当に見当がつかない。
だって私、冬木さんのことしかそういう目で見たことないもん。
「あたし前、そっちの店舗にヘルプで行ったことあって。意外と数年前から知ってる人なんだけど」
「えー本当にわからないです、誰ですか?」
私たち同盟関係みたいなもんで、お互いの幸せを願っていますから。
冬木さん以外なら、協力しましょう。そうしましょう。
「意外とあたし冬木さん好きなんだよね」
ガッデム!!!!!!!!!!!!!!!!!!
就活中だけど、好きな人がいて集中できない 姫島 @harukakanata73
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