第四話 都会育ち、芋煮文化を知る
長かった夏が終わったのか肌寒いと感じることが増えたこの頃、直樹の家に行くと毎回同じ汁物が献立に出てくる。里芋と牛肉がこんにゃくやネギと一緒に醤油ベースで煮込まれているそれは、芋煮と言って山形の郷土料理だという。
「ここらへんだど芋煮は牛肉醤油だけっど、庄内や宮城だど味噌豚らしいがらなぁ。内陸でも米沢や最上だど具とか違うらしいず」
そう直樹はいつものように山形の地域ネタを饒舌に話していた。そのような光景もすっかり慣れた大輔に、大家である直樹の母がこう声をかけてきた。
「んだ、せっかくだがら大輔さんも、うちの地区の芋煮会さ参加してもらえばいいんでないが?」
それを聞いた直樹は、
「それはいいんじゃないが? 大輔さんもうちの地区の一員だべ? 地区会に顔出せば皆大輔さんのこと誤解しねくていいべ!」
と手を叩く。
話の見えない大輔は言い出しにくそうに、
「芋煮会ってなんです?」
と二人に尋ねた。直樹とその母は一瞬顔を見合わせて、
「んだ! 大輔さん山形の人じゃないがら、芋煮会の事
そう思い出したかのように直樹が大きな声を上げたのだった。
突然大きな声を上げたなお気に驚いた大輔は、都会にいた頃の癖で慌てて周囲を見回したが、直樹の家の周りに近所迷惑するような家は見当たらない。大輔のアパートも道路を挟んだ向かいだから、都会のマンションなどと比べると影響は微々たるものだろう。
さて芋煮会の話に戻るが、直樹が説明してくれたところによると、川原で芋煮を囲んで楽しむことを芋煮会というらしい。山形のスーパーには何処の系列店であろうとも「芋煮会セット」がある。中身は薪や大鍋のレンタル用品と芋煮人数分の材料のセットだ。シメにカレーうどんをするのが定番だが、変わり種ではインスタントラーメンや餅を入れたりすることもあるらしい。バーベキューを同時にしたり、多くの場合は酒が入って宴会になったりすることも多いようだ。
「一度来てみっど雰囲気はわかっから今度の日曜日! 朝早いがら忘れねで来てけろな!」
直樹が強引なのは毎度のことなので、大輔は半ば諦め気味に溜息を吐いたのだった。
都会育ちの山形暮らし! 降川雲 @fulukawa_1
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