午前3時のキャスター
@suzur_i
0、二十歳の夜
20歳の誕生日の夜、なかなか眠りにつけず時計の針は既に午前4時の方を指していた。
まだ少し肌寒い春の夜、中学生の時から来ている真っ黒なカーディガンを羽織ってコンビニに向かう。
桜は既に散っていて、コンクリートのうえで踏み潰されている。
コンビニにつくと何を買うわけでもなくフラフラしていたが、レジで眠そうにしている店員に声をかけた。
「キャスターって置いてますか?」
その店員は少し怪訝そうな顔をして
「キャスターは少し前にウィンストンって銘柄に変わりましたね。ウィンストンならありますよ」
「えっと…、じゃあウィンストンの一番軽いやつで」
勢いで聞いてしまったため、明らかにタバコを買うのが初めてですという受け答えをしてしまい、少し恥ずかしい気持ちになった。
「1mmですね、こちらでよろしいですか?年齢確認できるものをお願いします。」
一瞬、自分がまだ未成年のような気がして躊躇われたが、おもむろに学生証を見せると、店員はろくに確認もせずに学生証を返して来た。
「ありがとうございました。」
その言葉を背にしてコンビニから出ると、少し空が明るくなりだしていた。
勝手にとってきた親のライターでタバコに火をつけると、懐かしいようで少し懐かしくない甘い香りがした。
僕はこの5年間何も変わっていないのに、タバコの銘柄も、タバコの香りも、そしてきっとあの人も変わってしまっているんだ。
午前3時のキャスター @suzur_i
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