1.5 サークルを作ろう!

1.5




今日は幼馴染の騎士四人が帰ってくる。

傷を増やして帰ってくる姿を見ると、変わらず平和な日々を送る自分が憎くなる。

どうか無事に帰ってきて欲しいと願ってる最中、鐘が鳴らされた。

朝の5時に鳴らされる筈の鐘が昼近くに鳴らされる時はそう、四人が帰ってきたという事だ。

自分も含め村人は皆仕事を止めて4人を迎えに行く。

村が迎えた影は四人。四人だが、抱えられてる子を含め五人。

いつの間にできていたのやら。

そして、いつの間に失ってしまったのやら。


どちらも報告されず、帰ってこない男の代理として、その子とその妻が現れた。

めでたくもあり、悲しくもある。

どちらを選べばいいのかと混沌とする感情を一同は共感し、選択した答えは。


「おかえりなさい……と、いらっしゃい」


残された者を迎え、残したものを迎えることだった。


亡くなった1人は死地へ赴く前に結婚し子を残し、帰ることなく華々しく散った。

村はその子とその母親を受け入れ新しい民として迎え入れました。


三人は夜、青年を含む一部の村人に一人の最期を語り聞かせ、涙を浮かべながらも最期まで騎士であり続けた彼を語り続けました。


殆どの者が眠った深夜、青年も同じく寝ようと床に倒れたが、帰らぬ一人が頭から離れず眠れない。


彼は隊の中でも腕が良く、三人にも称賛されていた。腕だけで言えば、騎士団の中でも5本に入る程だったらしい。

だがそれが仇となったのか、彼の部隊が劣勢になった際彼は部隊を逃がすための殿を任された。

相手は騎士狩りと名乗る集団で、各々が騎士と同格の能力を持ち、さらにその数は部隊の2倍。

そんな集団を前に選ばれた十人は息をのみ、任務を遂行すべく覚悟を決めた。


鬼の如く戦うその者達は、優勢であった筈の敵を圧倒し撤退にまで追い込んだ。

後衛が放つ矢の雨に身を晒し、死体を傘とした者以外の半数が倒れたが、彼はそれでも膝を落とすことを知らずに剣を握り続け、敵味方共に恐れられた。

しかし顔を穿たれ出血が酷く、もう長くはもたないと感じた彼は地面に散らばる弓と矢を人い上げ、背を向けながら馬で敗走する敵大将を捉える。

最期の死に土産と言わんばかりに放たれた一矢は、風を裂き空間を貫き、ターゲットの脳幹を穿つ。


プツンと自分の中の何かが切れた音を最後に、彼は地に伏せ起き上がらなくなった。この出血だと治療しても間に合わないだろう。

十人いた殿は四人へと減り、無事帰還を果たした兵士はその時の事を後に語る。

そして次に語り継ぐのは語られた者。

いつかあの子に彼の話を語り聞かせる日が来るだろう。



「名前はなんと言うのですか?」


昨晩聞き忘れていた彼の子の名前を問うた。


「紫苑っていうの。不思議な名前でしょう………?」


「不思議……ですね、確かに。でもいい名前だと思います」


地面に書いてみせた名前は見たことの無い字だった。

紫苑、これでシオンと読むのか。


「これはですね、和国という私の母国へ二人で行った際に、とても綺麗だった花から貰った名前なんです」


「へぇー、僕も見てみたいです。その紫苑という花」


「ぜひぜひ見に行ってみてください」


女性は辛みを抑え笑ってみせた。

無理してるのがわかる。

思い出すだけでも泣けてしまうというのに。

この女性はとても強い方なのだろう。あいつによく似合った人だ。


「それじゃあ、僕も仕事があるのでこれで。じゃあなー紫苑」


人差し指を伸ばすと小さな手がそれを握り、紫苑は朝日のように優しくはにかむ。


女性の家は、以前彼が暮らしていた住居に決まった。青年が定期的に掃除や手入れをしていた為、本人が暮らしいてた時よりも綺麗になってる。

必要な家具は揃っており、生活に困ることなく女性はすぐにここの暮らしに馴染んだ。


紫苑もすくすく育ち、早くも三歳になった。

人の成長はこんなに早いものかと、何も無い自分は酷く痛感した。


「おにちゃん、これよんで」


紫苑が小さな体で支えていたのはかつて自分も幼かった時に何度も読んだ絵本、浦島太郎だ。


「いいぞぉー。紫苑は浦島が好きだなぁ……僕も昔は好きだったよ」


「うん!カメにいじめられている浦島太郎を子供たちが助けるところが好きなんだ!」


「んー、色々食い違ってるなぁ…………」


「僕も浦島太郎みたいに正義の味方になりたいんだ!」


男の子なら誰でも一度は夢見るヒーロー。

自分もかつて憧れたことが………………。

ないな。

特に欲はなく、あるとすれば生への欲と感謝。

危険な事はしたくないという逃避で、騎士を夢見た彼らを追わずに平和な村へ残った。


この子も成長したら騎士へなるのだろうか…………。


「おにちゃん……?」


「…………ああ、ごめんね。えーむかーしむかしある所に────」


朗読しながら青年はいるかも分からない神へ願った。

どうか神様、自分勝手な願いだけれども。

この子が大きくなって騎士になるかもしれない。

それでもどうか、どうかこの子は勇敢な父親の後を追わせないで下さい。


惨めに神に祈る青年の願いは届いたのか否かは定かではないが、紫苑が騎士になる日は来なかった。


神への願いには代償がいると言う言い伝えが我が国緋国にある。

青年の願いは、対価となる代償をもって叶えられ、望まぬ結末に青年は枯れた。




ーーーーーーーーーーー



「レッドパンダだな。今この場で始末する」


満身創痍のカラシミソの状態に目もくれず腰の剣を抜刀するマグネル。


どうするここで一戦交えるか。

いや、今の体じゃ隊長クラスを相手にすると骨が折れるどころか四肢がまた減る。


「…………。場所を変えない?怪我人とか邪魔じゃない?」


「ほう、何企んでるか知らんが自分から提案してくれるなら有難い」


ここは様子を見ながら相手の出を待つべきか、逃げるべきか。


相手は直径40cm程の短剣と刃渡り80cm位の剣。

二刀流を使うのか。捌くのが厄介になるな。


「…………ッ!」


人目から隠れた瞬間にマグネルは首を落とそうと剣を振った。

しかしカラシミソは紙一重で交わした刃閃を見送り、休む暇なく立て続けに振られた短剣を捌く。


レッドパンダの幹部ではないとはいえ、相当な手練だ。負傷していてもこうも捌かれるのは想定外。


「つーあ、カスリくらい与えれると思ったんだけどなー」


「見逃してよ。いいでしょ?別に一人くらい」


「アホか。一人だけでも厄介な連中を逃がしたら被害が増えるし、仕事も増えるわ。それにお前ほどの強者も満身創痍の時に仕留めないと後々めんどくさいんだよ」


吸血鬼は本来は魔法に特化した種族であり、ここまでの武闘派な吸血鬼は珍しい。

人間や妖魔たちと違って魔法を得意としてるためステータスは変わらず、現状身体能力では強化魔法をしない限り人間に劣る。


普通は魔法に頼る吸血鬼は近接を避けるが、こいつは近接にも備えてるどころか近接が得意のようだ。

一体どんな環境で育てられてきたものなのか。


しかし反撃してこない様子を見るに、やはり傷が深く余裕がないらしい。

始末するなら今しかない。


「……ッバッアブネ」


踊り狂う剣は一撃ずつが的確に急所を潰しに来てる。

短剣は小刻みに舞い、剣は避けた先に追撃し近づいても離れても危険な相手だ。

仕方ない、少し魔力を使うか。


「…………ッ」


剣を振り上げた状態で急に静止するマグネル。

動かない体を諦め脱力し、相手の出を待つのみとなった。


「なるほど、確かに強い。こんな状況でも、今の僕だと君に手出しは出来ないのか…………」


慣れない義手からは糸が出せず、出せたのは残った片手だけとなり拘束力が半減している。

近づけば簡単に糸を切られ反撃されるだろう。

離れても糸を切られ追いかけてくる。

拘束してもしなくても、近づいても離れても危険な相手。これほど戦いたくないと思うのはいつぶりだろうか。満身創痍だからこそ追い詰められているが、万全を期して戦ったらどうなっただろうか。


逃げる事ばかりを考えているカラシミソは隙だらけだ。とはいえ今拘束を解いて攻撃しても、また剣戟で追い詰め疲れる羽目になる。

動いても動かなくても状況が変わらない今は、相手を牽制し体力を回復することが最善策だろう。


「────」


「…………ッ!」


突如カラシミソの頭上に振り下ろされた短刀はすんでのところで避けられ虚しく空を斬る。

高所から切りつけたにも関わらず軽やかな着地を決め、間髪入れずに追撃として腰に携えた拳銃を二発発砲。

一発は義手にめり込み二発目は腹部を貫通し、カラシミソの傷をさらに増やした。


「んー、おかしいですねぇ。獣人でないと気づけないくらいに気配を最小限に抑えたのですが………。首、落とせませんでした」


「キユリ…………、何で……いや、言わなくていい」


「何でってぇ、上司部下関係なく手伝うのがウチのルールのひとつでしょう?それに、隊長の首取ってくれるなら私も加勢する気はなかったですよぉ?隊長の首を取ったテロリストの首を取ればぁ、間違いなく私は昇格出来るし。まぁでも、今回 も それが期待出来そうになかったので、いつも通り功績回収に来ました」


「言わなくていいって言ったのに…………」


分かっていた。

キユリが自らマグネルに関わる時はいつだってそうだ。

たまに追い詰めた敵をキユリが仕留め、功績を横取り。マグネルには補佐としてのポイントしか加算されない。

今回もそうなるだろう。


「まぁ…………そいつを仕留めれるならいいよ」


「本当ですか、ありがとうございます……!では明日から隊長として頑張りますね!!」


「おーっと、いったい君の頭の中ではどこまで話が一人歩きして行ったのかなぁ…………」


腕を振り上げ続けるのに疲れたマグネルは、拘束を力技であっさり解除しキユリの横に並んで剣を持ち上げる。


「手柄はやるから手伝ってくれ」


「ついでに階級譲ってくれるならもっとやる気出るけどなぁ」


「階級はやれんが、カミナ屋のコーヒーと菓子奢ってやるから頑張れ」


カミナ屋はキユリ行きつけのカフェだ。

師団長が若い頃から営業を始めた古株の店。

最近は若い世代に追いつけず廃れ、常連のキユリと一部の客しか来なくなった。

師団結成前の時にキユリ含む一部の初期メンバーで訪れた事がある。

その時たいそう気に入ったらしく、以来通い続けているそうだ。


「やったー!聞きましたよ!?」


戦闘中にうかうかしている二人の目を盗み、後ろに隠した片手で糸を張り圧倒的不利な現状から逃げる事だけを考え結界を創り出す。


第三者を警戒していて正解だった。

マグネルが抵抗を諦め牽制してくれたおかげで結界を張る余裕が出来、不意打ちを防げた。


だが、広範囲に結界を張るだけのマギは身体機能を補助する分から削ったマギの為、少し体が重く感じる。

二人の猛攻を防げるほどの余裕はもうない。

攻撃が始まれば逃げれないのなら、逃げるチャンスは今しかない。


結界に費やした糸を集め、残った糸を自分の義手に巻き付け二人の出を見計らう。


「カミナ屋の為なら……ちょっと頑張ろうかな」


キユリが短刀を構え、マグネルが長さの異なる剣を腰より高く持ち上げると、その場の空気が凍りついたかの様な緊張が一帯を駆ける。



時が止まり全てが静止した中最初に動いたのは、キユリだ。

いつの間にかマグネルにかけられていた増強魔法で瞬時にカラシミソのそばへ跳躍し、首に刃閃を見せつける。


呑気に話していたのは浮かれてるのではなく、魔法を展開する為の時間稼ぎだった。

開戦の合図は魔法を付与したと同時だろう。


予想外の不意打ちに反応が遅れたカラシミソだが、経験から身についた勘と反射神経が体を反らせ、肌を滑る刃が沈む前に避けさせた。


筋力の要らない義手で糸を引きキユリから離れると、そこを狙ってマグネルが剣先を向け空中のカラシミソの腹を穿つ。

しかし。


「────!」


確かに腹を貫いたのに手応えが全くない。

まるで皮の表面と裏だけを刺したかのような空洞の感覚


「残念ながら、今はそこにないんだよ」


糸が絡み剣が抜けなくなったマグネルの腹に義足がめり込む。


「…………カッ」


「やっと一発入った。…………ッー!」


「私は何発も入れてるけどね!」


射程からマグネルが外れた瞬間に背後から現れた弾丸がカラシミソの頬を掠め二発義足に入る、さらにその弾丸に気を取られた隙に壁を走ったキユリが短刀をかざす。


「暇くらいくれよ…………!」


全身の激痛を振り切り義手を持ち上げ、頭上の短刀を弾きながら糸を絡ませる。


「きゃ!」


力が入らないが微力でも糸を引くことで重力の仕事を補助出来る。

空中ではどうする事も出来ないキユリは、少し強引に感じる重力に流され落下した。


ようやく生まれた隙を逃さすカラシミソは、両手で天井に張った糸を引き戦線離脱を叶えた。


通った道で一人人間を攫い栄養補給をする事でカラシミソは逃げたにも関わらず勝利を収めた。


「あぁーあぁ………逃げちゃったよ…………次会ったらヤバそうだなぁ…………満身創痍であれだし…………」


「それはそうとぉ…………たぁーいちょ♡約束通りカミナ屋、お願いしますねぇー」


「ん?逃がしちまったんだから無しじゃないのか?」


「何を言ってるんですか。私はやる気が出るとしか言ってませんよ…………?」


「………………あ」


してやったと言わんばかりにニヤニヤを抑えずむしろぶつけてくるキユリ。


約束は約束だ、守らなければ信用を失う。


重なるミスに嘆息を付き、さらに疲労も重なりマグネルは肩を落とした。



ーーーーーーーーーー




始まりの街に着いたヒバナ御一行


「さあ、まずはギルドに加入…………の前に、ギルドに着いたら扉の前に立っては行けない。吹っ飛ばされる可能性大だからね!」


「それはお前だけだと思うのだが…………」


最近入ったばかりの新人が復習するかのようにギルドの入り方を教えてる。


「まずお金がいるんだけど、お金は持って…………ないよね」


肯定を示す無言が言い終わる前に返答をくれた。

さて、お金をどうやって手に入れるか。

アセム屋は獣人にかかればワンパンだろうが、先日自分らが全額もぎ取って行ったお陰で空っぽだろう。


「よし俺の奢りだ!金は沢山あるしな!」


「あ、ありがとう。でも本当に獣人でも大丈夫…………?」


「安心しろ、さっきこいつも言ったが、同じ獣人も一人働いてる。それに、怨なんて持ち合わせてないうちのギルドに他種族を悪く思うやつなんていないさ」


歩きながら悩みに悩み、ギルドの前に着くと勇気をだす。


「よし、それじゃいこ……くぁ!」


ドアノブに触れた瞬間案の定ヒバナは吹っ飛んだ。


「ちくしょう、何でいっつもいっつも俺ん時になんの!?」


扉の上からのしかかる倒木のような重量。

毎度毎度上に乗っかってくるこいつはブラウンと呼ばれているデブだ。

デブの癖に逃げ足は速く、気づけばあっという間にどこかへ行ってしまう。

だが今回は。


「逃がさねぇーよぉ」


扉からすり抜けたヒバナがブラウンの足首を掴む。

それによって生じた僅かな動揺はブラウンを拘束するのに十分だ。すかさず背後から伸びた手がブラウンの肩を掴み地面に叩き落とした。


「おるァ!」


荒々しい声を上げ巨体を拘束したのはマキモだ。

隙を見て拘束を解こうと考えるブラウンをガッチリ固定し、さらにその後ろからナタナが何やら禍々しい鎖を引きずりながらやってきた。

見るからに危ない色を纏う鎖はナタナの手から離れると、まるで生きてるかのようにブラウンの体に巻きつき自由を奪った。


「ありがとねヒバナ君、後で何かお礼しなきゃ。───さーて、この豚をどうやって捌いてやろうか…………」


「感情なくしておもちゃ屋に売ってみるのはどう?」


何やらえげつない事を口にしている二人だが、一体何をしたらここまで恨まれるのだろうか。

自分程の大罪人なら心当たりは沢山あるのだが、どう見ても大罪を犯したように見えない。


「あの、こいつ何したんすか」


「ん?ああ、コレ?」


馬乗りになるマキモは問われたヒバナの方を向くとブラウンに対する顔から一転し爽やかな笑顔になる。敵意はないという事なのだろうが、変化の差が返って不気味だ。


「私らから金をスったのよ」


「犯罪じゃねぇか警察に連れてけよ」


ここまでの恨みを買ってる以上犯罪だろうなと予測は出来たが、思ったより情けない犯罪だった。

ギルドに入ってるならクエストに行って稼げばいいものを。


「スっただけなら確かに警察に突き出せばいい。だけどね…………私らのスられたお金は、当時結構重要な資金だったの。さらにこいつはそれを返す気がない上に、金が入ったらすぐ娯楽に使って私達に遭遇する頃には無一文にするの」


爽やかな笑顔の裏に隠れた怒りがデカすぎて隠れきれてない。


「勿論警察に突き出さなかった訳では無いわよ。二回突き出したけれど、捕まる前に逃げられたわ。一度逃げられたらコレを捕まえるのは至難でね、獣人のこの子ですら捕まえられない程の逃げのプロなの」


追いかけては捕まえられなかった日々を振り返り、ようやく捕まえた事で募った怒りが一周回り溜め息となって大概に全て吐き出された。


「でも、いつか捕まるこの日の為にコレを買っておいて良かったわね」


「なんすかその禍々しい鎖は」


最初は逃げようと暴れていたブラウンだが、逃げれないと悟ったのか、それともこの鎖の効力なのか、いつの間にか大人しく鎮まっている。


「この鎖はね、ちょっと言い難い場所から取り寄せた鎖でね、抵抗すればするほど締め付けられる鎖なの。今まさにこの豚がベーコンになってるみたいにね」


「さて、私達はこいつの始末を始めるからこれで失礼するねー」


そう言って二人は鎖よりも禍々しいオーラを纏いながら鎖の尻尾を握り、超重量のデブを二人で引きずり建物の影へ消えていった。


「…………。とりあえず、まぁ、もう扉も安全でしょ」


ヒバナは直し忘れられた扉を代わりに立て直し、動作を確認した後獣人兄妹をギルドへ入れた。


相変わらず酒場のように賑わってはいるが、こいつらはギルドの一員なのだろうか。

依頼にも行かず飲んだくれるだけ。

以前一緒に飲んだ奴はまた酒を飲んでる。

本人から聞いた話では、そいつは結構前から所属してるらしい。

まぁ、今はそんな事どうでもいい。今じゃなくてもどうでもいい。


「…………、あ、そういえば……なぁ神太。俺は体内にマギがあったからいいけど、マギのない獣人はどこにデータを刻むんだ?」


「ああ、マギ体を満たしてないと言っても、完全にない訳では無い。絞ればマギが僅かに抽出され刻むに足りるマギが体内に出来る。それも染み込み今度は筋肉に間接的に刻まれる、以上だ。簡単に例えるなら、少量の水が入ったコップがあるとし、元から入ってた水がマギとする。獣人の体質はコップに対するスポンジの様なものでマギがあれば身が吸い取りコップは空っぽになる。だが、絞ると水が出てきちまう。その絞った水に新たな水を入れてまたスポンジに吸わせる。すると、元の水と共に新しい水を抵抗なくスポンジは受け入れちまうわけだ。つまり獣人もそういう事。一回出してもう一度吸わせる事で染みが簡単に付く。それと、絞ると言っても痛みはない」


「誰がどうやってその技術を発見したのか…………」


さしずめ人体実験だろう。

だが、それを公に広めたのは獣人や他種族との共存を求めたからだろう。


「とりあえずだな。受け付けに獣人ですって申し出ればいい。そうすれば専用の器具を持ってきてくれる。んじゃあとは任せたぞヒバナ。俺はさき帰って準備しとくわ」


「うぇへーい。皆一斉でもいっか。おねーさーん、加入申請を獣人三人いいかな。加入金は俺が出すよ」


「いらっしゃいませ!ではこちらに御名前と年齢を御記入下さい!」


文字が書けないらしい二人は長女のハバリに教えてもらい、時間をかけながらも何とか記入した。


「はい、お預かりします。では、こちらの機械に三秒ほど腕を入れていただければ加入手続きは完了します!」


受付のお姉さんの腕はまだ発光してる。

バフは一定時間なのだろうか。

それとも持続的なのだろうか。

使わない状況でも発光させてるのなら後者の方が濃厚だろう。


「出来ましたね!ではでは、ハバリさんソマリさんカガリさん、我がギルド角兎へようこそ!説明は…………ヒバナさんがなさいますか?」


「あーはい、後はこっちでやっときますありがとうございまーす」



────。

──。


さてさてあっさり加入した訳ですが、自分同様チュートリアルをさせるべきだろうか。


ヒバナは顎を掴みながら依頼書を眺め、よさげなネタを探す。

依頼を探してる少年の目にふと、あるポスターが目に入り思わず依頼書よりもそれを先に手に取ってしまう。


「サークル…………?」


紙に書いてある内容を要約すると。

サークルで依頼に参加すればサークルボーナスというものが入り、報酬金が増えるそうだ。

そして肝心のサークルというものは、簡単に言うとチームのようなもの。

月に一番稼いだサークルにはその月さらにボーナスが増えるそう。


この先他種族が増えていってもサークルなら安心して受けられるかもしれない。


「チュートリアル後にして先にこのサークルってのを作ってみようか」



────。

───。

─。




「────ってことで、サークルを作ろうか」


「サークル?あー、はいはい、名前どうするよ。変えれないから後悔しないような名前にしとけよ」


家に帰り、ひと足早く帰った神太郎に相談してみたが、あっさり受けいれられた。

三人の事は既に神太郎が手配していてくれたらしく、もうここの住人だ。住人が増えたせいか、少し女将の機嫌が良さげに見える。


庭の地面に描かれた魔法陣は色を持たず、今はまだただの落書きにしか見えない。


「くつろいでるってことはもう準備出来たのか」


「ああ、あとはこの布袋を魔法陣の中央に置けば発動する」


「さんきゅ。ほんじゃ、ちびっ子を寝かして依頼は明日行くか!」


ヒバナは拳を掌で包み気合を入れる。

それを合図に神太郎は魔法陣に布袋を投げ入れ発動させ、その上にヒバナを立たせる。


黒色に発光する魔法陣は禍々しく輝き、ヒバナを光の存在しない闇へ引きずり込んだ。



ーーーーーーーーーーーーーーー






何も無い。




光も影もない。

それなのに自分の姿はハッキリと見える世界。

平衡感覚を見失いそうな世界で足にかかる体重だけが正気を持たせてくれる。


深く深呼吸をし気持ちを整え正面を見ると、椅子に縛り付けられた血塗れの少年が一人こちらを睨んでいた。


「こんちゃ、さっきぶり……といっても時間感覚くるうよなこんなとこ」


椅子に座る少年は、先程水族館で神太郎が眠らせた吸血鬼だ。


「殺す」


「怖…………。そんな事より少しお話しようよ」


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2Die6Life @Kagika

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