鐘駒英仙

 目があった。ただジッと私をみつめる目が。

 暗闇のなかに、ふたつ、ふたつ。

 目が、あった。

 目は、ずっと、私をみつめていた。











 夢をみた。どこまでも続く暗闇のなかで、ふたつのおおきな目が、私をみつめている。それは、夢にしては鮮明で、いやにハッキリとしていた。夢をみたのはたったの一度きりだったが、その夢は、私のあたまの隅にいすわり、まぶたの裏にあの光景を焼きつける。私は、あの夢が、あの目が、恐ろしくて仕方がなかった。

 それから、妙な視線を感じるようになった。

 だれかにみられている。そう感じるたびに、私は、あの、恐ろしい夢をおもいだすのだ。

 物陰や、隙間の暗闇。いたるところに、その目を幻視した。どんなときでも否応なく感じる視線に、私は、いつも精神を尖らせた。最初は、夢のせいでおかしなことを考えているだけだとおもった。しかし、ときが経つにつれ、その視線はたしかに存在しているのだと、感じるようになった。なぜだかはわからない。だが、たしかに、なにかがみているという、脅迫めいた確信があったのだ。

 そんなことがどれくらい続いたころだっただろうか。私は、電車を待っていた。ホームには私以外だれもおらず、とてもしずかだった。ふと、反対側のホームにとまっている電車の下の、隙間が目についた。

 そこに、いた。あのときの目が、私をジッとみている。あのときの目が。目が。みられている。隙間の暗闇に、あの目がいる。じぶんを、ジッと監視している。

 あの夢が脳裏に浮かぶ。あの目は、なんのために、私をみている。どこにいても、逃げ場はない。みられている。ジッと。ジッと。逃げないと、隠れないと、どこへ、どこへ。


 ふと、電車の到着をしらせるメロディが聞こえた。ああ、そうだ。そこがあった。もうすぐ、こちらのホームにも電車がくる。


















 目があった。

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鐘駒英仙 @kadusa

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