第4話 あなたの軌跡を教えてください

一歩一歩、僕は確実な足取りで高台へと向かっていた。気が付くと僕はいつしか足跡を辿らず高台を目指していた。



あれだけどんよりとしていた雲の切れ間から青空が眺めることができた。

僕は高台に辿り着くと大きく息を吸った。冷たくて気持ちのいい空気がいつのまにか熱っていた僕の身体を冷やす。



僕はベンチに座って呼吸を整えながら高台からの景色を眺めて思わず、息を飲んだ。


“それは僕の軌跡だった。”


アパートを出て当てもなくただ歩いた道も足跡の主を探して歩いた道も高台から一望できたからだ。

それはとても誇らしいもののようで久しく忘れていた感動という衝動に駆られた。

僕はその感情以外のものを忘れてきてしまったかのようにずっと眺めていた。


「素敵な風景ですよね」


気が付くとベンチに座る僕の後ろに一人の女性が立っていた。


「特別な日に自分の軌跡を自分で観れる私のとっておきの場所なんです。どんなに辛いことも此処の風景を見ると思わず、忘れちゃうくらいに」


歩いて歩いてこの景色を見た時、僕も彼女と同じ様に思った。

彼女は僕に微笑みかけると隣、座ってもいいですかと聞いて僕の横に座って問いかけた。


「もし良かったらあなたの軌跡も教えて頂けませんか?」


「……僕は人に話せるほどの軌跡を歩いてこなかったんだ。今まで逃げてきて、自分からも逃げようとして」


「人の歩んできた軌跡に良いも悪いもないですよ。軌跡は今日まで生きていてくれたあなた自身なんですから」


彼女そう言って僕の手を雪が舞い落ちてきたかのように優しく握って僕は思わず、涙が溢れた。


今までの自分を自分すら否定してしまった自分自身を肯定してくれたようで僕は気持ちを抑えきれなくなって涙が頬を伝っていた。


一度溢れてしまった涙は止める方法を忘れてしまったかのように止めどなく溢れてきた。


いつ以来だろう。こんなに涙を流して泣くことなんて……。


「聞いてくれますか?こんなどうしようもない僕の軌跡を」


「教えて下さい。あなたの軌跡を」






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死ぬことにした真冬の軌跡 真白世界 @shino69

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