第5話

雅久さんを送り届け車を車庫に入れる。

助手席に置いてある物を持って家に入ると…


「待ってたよ…さぁそのぶつをこちらに渡すんだ。」


腰に手を当てニヤっと笑みを浮かべて手を出す彩葉様が玄関で立っていた。


「…お言葉が汚い彩葉様にはこのドーナツはあげられませんねぇ。」


彩葉様の横を通ると腕をがっと捕まれた。


「駄目、逃がさない。私のミスデー・ドーナツ!」


「ちょ…分かりましたから。離してください。痛いです。」


「檜山が悪い。俺も食べたいから早く。」


松は俺がミスデー・ドーナツを買って来る時だけ凄い直感が働く

そして彩葉様も…。


「私、紅茶入れるね」


先に行く彩葉様だが松が俺に耳打ちしてきた。


「主に作らせたら俺たち殺されるよ?」


お嬢様は頭脳は普通で容姿端麗ですが、料理に関しては

絶望的に酷い…。


「うん、俺がやるから。松は彩葉様をお願い。」


少し先にいる彩葉様を呼び止めドーナツの袋渡して先にキッチンに行った。






「ただいまー。」


お帰り…と帰ってくるわけではないのに毎回口に出してしまうこの言葉。

家には僕しかいないのに。

そのままベットに座り項垂うなだれた。

はーっとこぼした息につい手を口に当てる。


「やっぱりあの時、僕の名前言っておけば良かったかな。」


言ったところで彼女が思い出すとは思えない。

考えても仕方がないと思って風呂場に向かい浴槽にお湯を溜め制服を脱ぎシャワーを浴びる。

鏡に映る自分の姿に先祖である昔の自分の姿を重ね合わせていた。

昔の姿を思い出したって意味ないのに…

風呂の隅に置いたスマホを取り湯船に浸かる。

メールを開くと女の子からメッセージが結構来ていた。

これは全員クラスと同じ学年の子からだ。

入学式の日に女の子から連絡先を交換して欲しいと言われて交換したけど

別に興味無いし彼女達は僕の顔しか見ていない。

…明日が面倒くさい。

って言うか学校行っただけで入学式出てないや。

はぁ…とため息が出て湯船に顔を付け水中で

あああああ!!!と叫んで水面をブクブクとさせていた。






「主、お弁当忘れてます。」


「あっごめん、鞄に入れといて!」


今日は檜山が起こしてくれなかったから遅刻しそう。


「それは主が遅くまで夜更かししていたからですよ。それに檜山は何度も起こしに来てました。」


「もう!!こんな時まで心読まないでっ!!」


松が口の前で指をクロスさせばってんのマークを作った。


「彩葉様?慌てないでくさい。松が入れたお弁当で準備は終わりです。何をそんなに時間をかけているんですか。」


「えっ…いや…」


「友達できるかですか?」


松に的を突かれて何も言えなくなってしまった。


「大丈夫。学校に行きましょ。」


そう言われ鞄を持ち玄関の前まで行く。


「い、行ってきます。」


「行ってらっしゃいませ。松、彩葉様の事頼んだよ。」


松に私の事を頼み檜山はにこっと笑ってくれた。

意を決してドアを思い切り開けて―

バタン!!と大きな音をたてドアを閉めた。


「彩葉様…行かれないのですか?」


「ひ、人が…玄関前に…」


檜山と松が鋭い顔つきになる。

松が私の前に立ち檜山がドアを開ける。

ドアを開けても檜山の表情が緩まない…むしろ怖くなってる。


「どちら様ですか?」


「……」


檜山が後ろで何かサインを出してる。

松がそのサインの意味を理解したのか私に言ってきた。


「主、失礼します。」


急に足が地面から離れ身体が軽くなった。

それで…松の顔が近くって…


「ちょ、何して…」


「このまま学校に送ります。」


廊下を走り庭に出た所でへいを飛び越え家の外にでる。

歩道に入っても松は私を降ろそうとしない。


「あの時何か感じ取ったんですか。」


「感じ取ったと言うよりドアを開けたら怖い顔があって驚いたんだけど。檜山の方が何かを感じた気はする…それよりもう降ろして。」


「ですが遅刻してしまいますよ?」


「ここからなら走らなくても間に合うから。松は檜山の所に行って。」


地面に足が着き体の自由が戻った。

すると松の後ろから声がかかる。

松はその声に安堵し『お気を付けて』と言って檜山の所へ向かった。


「おはよ、彩葉。」


「もう呼び捨てだし。おはよう。」


「じゃあ、俺の事は下の名前で呼んで。それしか受け付けないからー。」


「何それ…下の名前でしか呼べないじゃん。」


あれ、これ友達と学校に行くのパターンだ。

でも私達って友達じゃない…『お友達になりましょう。』って私言って無い!

じゃあこの関係って何?

………。

あっ


「ただの知り合い。」


「何が?」


「別に何でもないよ。」


ふぅんと言ってそのまま歩いた。


「そう言えばなんで式神君に担がれてたの?」


「家を出る時にドアの前に人がいたんだけど、檜山が対応して私は松に担がれて学校に行こうとしてた。」


「担がれ登校…でも大丈夫でしょ。」


「なんでそう言えるのよ。分からないじゃん…こういう職業だからいつ妖に襲われるかもしれないでしょ。」


「そうだね。でもまた今日みたいな事があって事態が思ったよりも深刻だったら式神君は君の所に絶対戻ると思うよ。」


『それは私が主だからしょうがなくだよ』って言おうと思ったけど止めた。

式神…松にも感情があるから。


「学校着いたねー。」


「え、もう着いたの!」


いつの間に校舎の中に入っていた。

松に担がれていたのとふじ…雅久とお話ししながら歩いてたからかな。

下駄箱に靴を入れるとある事に気が付いてしまった。


「私、昨日の入学式に出てない…」


どうしよう…初日が大事なのに。

きっとグループができてしまっている…私の入る余地など…ない。


「高校生活終わった。」


「なんで下駄箱で敗北した顔してんの。」


「だって、入学式出てないし妖退治してたし、目が覚めたら部屋に居たんだもん。何でも最初が肝心じゃん。」


「それで、友達出来ないって自信なくした?」


「別に…」


「ふぅん?まぁいいや…これあげる。」


出されたのはスマホに表示されてるQRコード。


「僕がなってあげる彩葉の友達に」











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華を唄う ふわる @fuwaru

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