藤代雅久という者

第4話

手に乗っている石ころを眺めていた。

どこにでもありそうな石で特に妖力を感じる訳ではないけれど彼は…藤代さんは玉藻前を封印した時の物と言っていた。

それに…


「私の記憶の道を開く物か…。」


檜山が言っていた。

『昔に遂げられなかった事が強く心に残り記憶が引き継がれる』と。

晴明様はあの時代に心残りが無かったのか?

もしかして生粋の陰陽師だっからこそ心残りが無かったのかもしれない。

机の引き出しを開けて花柄の小さな巾着袋に石ころをしまい袋に紐を通して首にくくりつけようとした。


「あっ。」


首筋をなぞる細い指先に少し驚いてしまった。


「俺がやります。」


松の声が怒りを含んでる声だった気がした。


「藤代様はもう帰られたのですか?」


「うん。さっき帰ったよ。もう遅いから檜山が家まで送ってる」


「そうですか。」


紐を結び終えるとそのまま部屋を出ようとする姿に思わず袖を掴んでしまう。


「なんですか。」


「いや、その…怒ってる…よね?」


掴んでいた袖にそっと松の手が触れ私の手を松の両手が包み込んだ。


「どうして俺が怒っているか主は分かっていないでしょ?」


「うん…。」


「玉藻前と戦っている時、あの時避け無かったですよね。」


「それは…」


確かに再封印するために避け無かった。

封印が完成した時に私の命も消えて無くなるから。


「だから…避け無かったと?」


「っ…私の心読まないでよ。それにあの封印を厳重な物にする為に私の血が必要だったの。」


「ですが、致命傷になる傷をあの時負ったのですよ。再封印をすると主が言われた時…俺は気が気じゃなかったんです…。あの時俺が藤代様を呼びに行かなかったら貴女あなたは今ここにはいない。」


私の手を包む両手が震えてた。


「ごめん、松…。」


「式神は主が召喚すれば溢れるほどおります。ですが、俺の主は…貴女だけなのです。」


か細く掠れた声で話す松に私はただ謝る事しか出来なかった。





スマートフォンをいじりながら俺は檜山と話してた。


「ねぇ、その香り何?」


「これはネロリと言う香りです。不安な時や気分が沈んでる時に嗅ぐと気分が落ち着くそうです。今の貴方にはぴったりのアロマですかね。」


「えぇー、俺今そんな風に見えてるの?」


「まぁ、僕が生きている中で貴方のその顔は何度も見た事ありますから。」


まじかーと笑っている彼の顔を見て少し安心している自分がいた。

姿は違うけれど昔のように笑っている。


「あーでも、彩葉を担いで家に来た時はびっくりしたよ。檜山がまだ安倍家に仕えてるなんてさ。」


「私は安倍家に仕えてるのではなく。彩葉様に仕えているんです。」


「昔も変わらずお嬢様ー!お嬢様ー!って感じなのね。」


「なっ!そういう訳ではありません!!」


「ほらちゃんと前見て。車ぶつかるよ。」


雅久さんに言われながらもナビに従ってハンドル操作する。


「なぜ、あの時言わなかったんですか。」


「何を?」


「貴方の過去の姿の事ですよ。」


「石を渡したから…俺が誰であるかはすぐわかるんじゃない?」


「ですが、彩葉様は記憶を引き継いでいないんですよ?」


「…そうだね。」


でもあの時確かに聞いたんだ。

ベットで横たわる彼女の口から。

俺の昔の名前を呼んでくれたんだ。


「晴明…君は今どこにいるの…。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る