旅行記が好きです。ゴージャスなもの(著名な作家の豪遊記とか)から鄙びたものまで(つげ義春とか)。そして、未知の場所に人が赴いたとき、なにが気になったのか、なにを(意識せずに)見たのか、が個性です。作者が見た、少しだけズレた観光地。多分自分が鎌倉や下田へいっても同じような見方はしないのだろう。でも、行ってみたくなります。「鎌倉いった」「あ、俺も」そんな風に僕たちは話しているけれど、僕と彼の鎌倉は、きっと違う。行くことのできない場所を読む快楽。
妹尾河童先生なら駅のゴミ箱を蹴り飛ばして「二度と来るか!」と捨て台詞を吐いて帰ってしまいそうな生憎の天候。 妹尾河童先生なら、その町の温泉宿をくまなく回って「お前のどこが美人女将だ! このババァ!」と罵り回るしかやることが無さそうなくらい暇で見所のない観光名所。 そんな旅先で葛藤しながら、作者の頭の語彙を駆使してなんとか見所を伝えようとする姿をごらんあれ。