SS 2 今年の初夢は初めての……
中学校生活最後の大晦日。
といっても、いつもの大晦日と変わりなく、家族みんなで紅白を見ながら過ごし、年越しそばを食べて、普段の日よりもちょっとだけ遅い時間に眠りについた。
近所に友達がいる子は、中学生にもなれば誘い合って近くの神社に、年が明けた途端にお参りに行く子も多いみたいだけど、残念ながらソラにはそんな友達もなく。
でも、年が明けてからちゃんと着物を着て行く家族との初詣は十分に楽しいものだし、ソラはそれほど寂しいとは思っていない。
ただ、一緒に行く友達のいないソラを心配する両親達の為に、高校生になったら共に初詣にいけるような友達ができればいいなぁとは思っていたけれど。
友達、という単語に引き寄せられたように、眠りに落ちる直前のソラの脳裏に2つの顔が思い浮かぶ。
1人は高校見学で訪れた先で出会った軽音部の歌姫。
そしてもう1人は、幼い頃に仲良くしていた1つ年上の女の子。
2人とも年上だし、もし再会できたとしても先輩後輩という関係性で、友達という感じにはならないのかもしれないけど。
友達という単語で浮かぶ顔が2つだけでは寂しいから、自分の為にも両親達の為にも、来年はもっと思い浮かぶ顔が増えるように頑張ろう。
うとうとしながらそんなことを思い、ソラはゆっくりと眠りに落ちていった。
◆◇◆
ぱん、ぱん。
柏手を打つような、そんな音に促されて、ソラはゆっくりと目を開けた。
目の前にあるのは、賽銭箱とがらがら鳴らす太い紐。
それを見て思う。
あれ、私、いつの間にか神社にいる。さっき寝たところじゃなかったかなぁ、と。
「ソラ? お願い事、終わった??」
混乱する頭に、すぐ隣から響く声。
聞き覚えのあるその声に、ソラの混乱はさらに深まっていく。
「ソラ?」
ソラの名前を呼びながら、その人は顔をのぞき込んでくる。
その顔にももちろん見覚えがあって。
でも、見覚えはあっても名前を知らないので呼びかけられない。
困った顔でその人を見返すと、彼女は小首を傾げて、それからそっとソラの手を取った。
「このままここにいると後ろの人の邪魔になるから行こ?」
そう言ってソラの手を引き、歩き出す。
ソラは逆らうことなく、その手の導きに従った。
彼女はそのままソラを神社の横の日差しの柔らかな木々の間に誘い、そこで改めてソラに向き合った。
彼女は微笑み、ソラの頭に手を伸ばして頭を撫で、そのまま頬を撫でる。愛おしそうに、慈しむように。
「うわっ、ソラのほっぺ、冷たい。寒い?」
「へ、へーき」
「そ? なら良かった。ね、ソラはなにをお願いしたの?」
にこっと笑った彼女の問いかけに、ソラは答えられない。
だって、お願い事なんてしていなかったのだから。
困った顔で彼女を見上げると、冷たいソラの頬を暖めるように両手で挟んだまま、なぜか可笑しそうに笑った。
「そんなに困った顔、しなくていいよ。無理にでも聞きたい訳じゃないから。私はね、神様にお礼言っといた」
「おれい??」
「ん。ソラがうちの軽音部に入ってくれたこととか、ね。お願いは、これからもずーっとソラと仲良しでいられますように、って」
「え!! わ、私のこと?」
「そ。だって、それが一番うれしかったし、一番お願いしたいことだから」
「えっと、あの……あ、ありがとう?」
「お礼って!!」
響く楽しそうな笑い声。
その笑い声も笑顔も、すごく好きだなぁ、と思う。
そして願う。
神様どうか。どうかこの人とずっと仲良しでいられますように。
仲良く、なれますように、と。
そんなソラが可愛くて仕方がないというように見つめてくる瞳に息が止まる。
「ったく。でも、そこがソラの可愛いところでいいところよね」
「あ、の」
「……ほっぺ、熱くなってきたね?」
さっきまであんなに冷たかったのに、そう言う彼女の顔が近づいてくる。
そしてそのまま唇と唇が触れて。
ソラは目を見開き、そしてゆっくりと目を閉じた。
そのキスは、ママ達とする挨拶のキスよりも、もっとずっと甘い気がした。
「ソラ?」
頬を撫でる優しい手に促されるように目を開ける。
名前を呼ぶその声がさっきまでと違う気がするが、きっと気のせい……じゃなかった。
目を開けたその先にいたのはさっきまでと違う人。
凛々しい目元のその人は、幼い頃に仲の良かった年上の少女の面影を色濃く残していた。
名前は確か。
「かえ、ちゃん?」
「ん? そうだぞ。どうした?? 寝ぼけてるのか??」
そう言って柔らかく笑う幼友達は、小さい頃もかっこよくて可愛かったけど、今は更にかっこよくて綺麗な女の子に育っていた。
「えっと、今のキス……」
「ん。今年初めてのキスだな」
「ってことは、今までにもキス……」
「していたに決まってるだろう? ソラは私の恋人なんだから」
「恋、人?」
なんと、友達を通り越して恋人ができてしまった。いつの間にか。
でもイヤな感じはない。
ソラも小さな頃から彼女のことが大好きだった。それが恋心かどうかは別として。
「そう。恋人だ。大好きだぞ、ソ……」
「ちょっとまったぁぁ!!」
流されるように幼なじみの友人を恋人として受け入れようとしていたソラの耳に割り込んでくる、憧れの人の声。
そしてそのままむぎゅっと抱きしめられてソラの顔はその人の胸の中。
幸せといえば幸せな感触なのだが、正直息が苦しい。
「なに勝手なことを言ってるのよ!! ソラは私の恋人よ!!」
「いーや、ソラは私の恋人だ!!」
さらに反対側から幼なじみの友人に抱きしめられて背の小さなソラの顔は2人の胸に見事なまでに挟まれた。
そしてそのまま、壮絶な取り合いが始まる。
「私のよ!!」
「私のだ!!」
「や、やめてぇぇ。け、けんか、しないでぇぇ」
弱々しく仲裁の声をあげるが、ソラの取り合いに夢中な2人の耳には届かない。
どうしよう、止めなきゃ、と焦っている間にも2人の争いは少しずつヒートアップし、ソラの意識も徐々に混濁し、そして。
◆◇◆
はっ、として目を開けると、見事なまでに左右から身体を固定されていた。
ソラの大好きな、2人のママによって。
「うふふふふぅ~。そらぁ」
「んみゅぅぅ。可愛いなぁ、そらはぁ」
2人の寝言を聞きながらソラは微笑む。
きっと夜中に寝ているソラの様子を見に来てくれて、そのままついつい添い寝をしてしまったのだろう。
よくあることなので、驚きもせずにそう推測する。
それから、まだ記憶に鮮明な夢のことを思い出した。
今は覚えていても、きっといつの間にか曖昧な記憶になってしまうのであろう、今年の初夢のことを。
憧れの人と、仲良しだった幼友達と。
その2人と会えた幸せな夢だったなぁ、と思いながら、ソラはふと首を傾げる。
(あれ? でも、私がキスしたのはどっちと、だったんだろう??)
そんな疑問に。
だが、考えているそばから。
両脇のママ2人のぬくもりと寝息に誘われるように眠気が襲いかかってくる。
眠りに落ち掛けながら、でも、とソラは思う。
(でも私、どっちとのキスでも、イヤじゃないかも……)
そんな風に。
そしてそのままソラは2度目の眠りの中。
次に目が覚めた時には、初夢の記憶は見事なまでにどこかへいってしまっていたのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
昨年は全然続きが書けずにすみませんでした。
頑張りたいという気持ちはありつつも、中々手が回らなくて。
続きを書きたい気持ちはあるので、見捨てずにお付き合いいただけると嬉しいです。
今年こそは頑張ります!!
不器用なカノジョ 高嶺 蒼 @maru-maru
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