ジョーイ・クラムの憂鬱

 ジョーイはパルカを救出して地下鉄を脱出。

 その後突入してきたボイルド達によってハイジャックしていた『都市の弾丸』は制圧され、爆弾も解除された。






 マルドゥック・シティ、セントラル病院内。

 ジョーイはベッドサイドの椅子に座り、腕を組んで少女に笑いかけた。


「よう。何か食いたいもの、ある? 買ってきてやろうか」


 パルカは背中を向け、返事をしない。

 ジョーイは頭の後ろをかいて鼻から息を吐く=やれやれ。


「何ふて腐れてんだよ。命を拾ったんだ、もっと喜んでもいいんじゃねえか?」


 パルカの背中が強張った。感情を押し殺したような低い声を発する。


「……満足?」

「あ?」

「満足かって聞いてるの。弱い人間が必死にもがいて、それでも失敗して。そんな哀れな人間の命を救って、さぞいい気分なんだろうね」


 ジョーイは膝についた頬杖にあごを乗せた。


「ああ、満足だね。ほんの20年も生きちゃいねえガキが、自分を勝手に見切って死のうとしてるのを止められたんだ。最高に爽快さ」


 空気が変わった。殺気のような鋭い気配が部屋に漂う。


「――殺してやる」


 少女の決意をジョーイは鼻で笑って立ち上がった。

 部屋を後にしようとし、


「おお、いつでも殺しに来い。ただな、てめえみたいなちっぽけなガキに殺られる程、俺はヤワじゃねえぞ」


 自分の肩越しに蔑んだ目線を少女に送る。


「ロクに学校も行ってねえ、金もねえ。俺を殺りてえならもっと強くなれ。自爆テロなんてアホなやりかたじゃ俺は殺せない」


 ボケットに手を突っ込んで廊下を歩くジョーイの背中に、悲痛な怒号が突き刺さる。


「絶対に、殺してやる!」


 その声に驚いた顔の看護士とすれ違う際、ぐるりと目を回しておどける。

 肩をすくめて足早に立ち去った。

 知らず、言葉がこぼれる。


「俺みたいな死に損ないでも、何かになれた。お前にもできるはずだ」


 病院から外に出ると、ハザウェイが塀に寄りかかっていた。

 ジョーイは彼と肩を組んで、ビリヤードで一勝負しに街へ繰り出した。






 その後、パルカ・ランフォードの元に5万ドルが振り込まれた。

 地下鉄のテロ騒ぎの鎮圧に協力してくれたことへの謝礼とのことだった。

 嫌みったらしいその手紙にパルカは激昂し、怒りにまかせてその金を捨てようとして思い留まった。

 これは、ジョーイからの挑戦状だ。


 彼女はそれから猛勉強して大学に合格。高額な入学金はそのむかつく金で支払った。

 弁護士事務所に入り、都市の不正と戦い始めた。

 テロ組織の一員だったことで非難の目にさらされることもあったが、ただ一つの思いで乗り切った。

 街のどこかにいるジョーイを見返してやる。






 数年後、パルカはふと深夜のオフィスで窓から外を眺めた。

 小柄な金髪の青年が、少年みたいに笑っているような気がした。

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ジョーイ・クラムの憂鬱 わしわし麺 @uzimp5

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