エピローグ
今日もいつも通り、無事に何事もなく塾に生徒が来て帰っていった。帰りに車坂と後始末をしていると、車坂から話を切り出してきた。
「先ほどの続きですけど、伴坂も遠坂と同じように会長に消滅の判断が下されました。伴坂は瀧の事件の捜査の責任者だったのに、なかなか犯人を捕まえることができなかった。まあ、相手が神様では仕方のないことです。それが原因ではなく、遠坂の行動を止められなかった遠坂が事件を起こしていたのにすぐに捕まえることができなかったからです。その結果、たくさんの被害者を出してしまった。そのうえ、手柄欲しさにあなたを捕まえて、会長に差し出そうとした。」
そういえば、伴坂は私を捕まえようとしていたと九尾たちから聞いている。それと消滅と何か関係があるのだろうか。
「人間にむやみに接触しないこと、さらには危害を加えてはならない。死神のルールです。それに伴坂は違反した。けれど、それを認めることはできなかった。だから、伴坂は逃亡の道を選んだ。」
「それだったら、車坂先生もそのルールとやらに違反をしていると思うのですが、そこは大丈夫なのですか。」
むやみに接触しているのは車坂も同じである。人間の私に正体をばれているし、さらには死神の情報を話してしまっている。
「まあ、確かに私も違反といえば違反といえますけど、朔夜さん、あなたは例外です。何せ、体質が珍しいですから。僕は今回、あなたの監視を任されたといってもいい。」
「はあ。」
また訳の分からないことを言い出した。私のどこに監視する必要があるというのか。
「伴坂はあなたを捕まえようとしました。それはあなたに価値を見出したからです。特異体質といってもいい、あなたの不死身の体質は本当に珍しいのですよ。死神は死んだ人間が行っているが、残念ながら、私たちは本来人間との接触を極力避けて行動をしています。人間に私たちの力を悪用されないための措置です。」
しかしと車坂は話を続ける。
「あなたは生身の人間です。そして、不死身の身体を持っている。そこに会長は目をつけたというわけです。きっと、その辺の事情はおいおい分かってくると思いますよ。何せ、あなたの力は便利なものですから。」
説明をしてくれても、いまいち理解ができない。まだ何か起こるというわけか。これ以上、私の周りで面倒を起こさないでほしい。大学に入ってから、面倒事ばかりに巻き込まれている。
「ということで、私の話は以上です。そういえば、伴坂とともに事件を起こしていた人間はそのうち記憶を失うことになりますから、今回の事件について聞きだしたかったら、早めに話を聞きに行った方がいいですよ。死神はあくまで人間ではない存在です。それが今まで公にされなかった理由はわかりますか。それを良しとしなかったからです。普通の人間には死神と出会った記憶は消すことになっています。おそらく、数日中に早ければ今夜あたりにも、死神に関する記憶は消されると思います。」
では、話はこれくらいにして今日はもう遅いので帰りましょう、といって私に帰宅を促した。最後に車坂は私にあるアドバイスをしてきた。
「これは私個人のアドバイスですので、聞き流してもらっても構いません。あなたが居候させている神様ですけど、あまり信用をしない方がいいと思いますよ。できれば、居候自体もやめた方がいいと思いますけど、あなたにもいろいろ事情があると思いますので、強制はしませんけど。もしかしたら、あなたにとっての疫病神かもしれません。」
さらには驚くべきことをつけ加えた。帰りをうながしているのに補足が多いものだ。
「その神様の眷属になった二人のうち、片方がこの塾で働くそうですよ。彼には口止めされたのですが、この子はとてもいい子ですね。」
では本当にこれで話は終わりましょう。有無を言わせない様子で私を塾から追い出して、鍵を閉めてしまった。仕方なく、最後の発言に驚きながらも私は家に帰ることにした。
再び、私たちが住む街に平穏が戻ってきた。
「おはようございます。」
「おはよう、今日は男装なのね。でも、それはそれでかっこいいから許す。」
「おはようございます。朔夜さん。」
今日も私は西園寺さんを忘れないためにコスプレをする。今日は新選組の浅葱色の羽織を着ることにした。新選組の隊士のイメージしている。ジャスミンも男装をしていた。ただし、私とは違い、新選組の幕末の軍服を着ていた。ジャスミンも男装しているようだ。綾崎さんは普通の私服で、一緒にいて、周りの目が気にならないか心配になってしまう。
最近は綾崎さんも私たちと行動を共にすることになった。
「だって、駒沢先生のお気に入りなんて、すごいことなんですよ。あの先生は人間に興味がないみたいで、今まで他人に興味を持ったことがないようなんですよ、それが朔夜さんには熱心に話しかけている。朔夜さんのそばにいれば、何がそんなに先生の興味を引けるかわかるかもしれません。」
綾崎さんは駒沢先生に好意を抱いているようだった。私は苦手だが、好きな人は好きらしい。人のタイプはそれぞれなので気にしないことにした。
死神事件は完全に決着がついたようだった。ハロウィン以降、生気を吸われて倒れる人はいなくなったようだ。ニュースでも取り上げられていない。犯人は遠坂と綾崎さんのお兄さんの玲音だが、彼らは警察に捕まってはいないので、迷宮事件として捜査はいまだに続いているようだ。しかし、もう被害者が出ることはないと思うので、犯人は永久にわからずじまいだろう。
遠坂が起こしていた事件が終わりを告げたと同時に、塾の生徒たちが言っていた死神を姿を現さなくなったようだ。そちらの犯人はわからずじまいだが、ハロウィン以降現れなくなったというので、こちらももしかしたら本物の死神によるものなのかもしれない。
綾崎さんのお兄さんは車坂の言う通りに、死神に関する記憶を失ってしまった。その時に能力までなくなることはないと思うのだが、何者かによって能力を奪われてしまったようだ。綾崎さんから、お兄さんがここ一カ月程度の記憶がないことを相談されたのでわかったことだ。念のためにもう一度お兄さんと話がしたいと頼み込むと、不審がられたが話をさせてくれた。
完全に死神についての記憶がなくなっていた。さらにこの時に能力のことも聞いてみたが、それも忘れているようだった。試しに私が言霊の能力を使って聞いてみても同じ反応だった。本当に能力がなくなってしまったようだ。
誰が能力を奪ってしまったのかはわからないが、おそらく九尾か死神のどちらかのような気がする。どちらもやりそうである。
車坂はそのまま今でも塾で講師をしている。ここに居て人間と関わっていていいのかと何度も聞いているのだが、あなたの監視係りに任命されているので問題ありませんの一点張りだったので、大丈夫なのだろう。
遠坂は消滅させられたと車坂は言っていたが、伴坂はいまだに行方をくらませているようだ。しかし、この町からはすでに離れているようなので、被害は受けないだろう。
ジャスミンの友達の田中さんは無事に退院して、もう大学に来れるぐらいに回復している。結局、あの時私に何を伝えたかったのはわからずじまいだった。退院後に話を聞いてみたのだが、やはり他の被害者同様、その時の記憶がなくなっているようだった。しかし、無事で何よりである。
最後に九尾たちである。九尾と翼君は私の家にいまだに居候を続けている。しかし、狼貴君は私の家から離れていってしまった。九尾の近くにいなくてもいいのかと尋ねたが、九尾は別に最終的に戻ってくればいいといっていた。九尾の眷属で、その主がいいといっているのだから別に構わないのだろう。
春に引き続き、面倒な事件に巻き込まれたが、またいつも通りの日常を取り戻すことができた。今後これ以上面倒な事件が起こらないことを祈るばかりである。
とはいえ、九尾がいる限り、それは無理のような気がする。そもそも、私の日常を最初に壊してきたのは九尾である。その後も九尾には振り回されてばかりである。いっそのこと、九尾たちを追い出せば、きっと事件も何事もなく日常を送ることができるだろう。それをしない限り、私に普通の日常は戻ってこないことはわかっている。
普通を取り戻したい私と、九尾たちと居る非日常を楽しみたい私が頭の中で常に葛藤を続けている。しかし、今のところ、後者の方が勝っているようで九尾たちを追い出せないでいる。
とはいえ、私の人生は今まで通り、普通の人とは時間の流れが違っている。今後の長い人生を考えると、多少の非日常ものちには楽しい思い出となるので、それはそれで楽しんだ方がいいのかもしれない。
死神は退屈を持て余す 折原さゆみ @orihara192
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます