死神たちのその後

 死神たちはその後、どうなったのか。まずは車坂だが、彼は実は死神事件には直接関与していないらしい。なぜか、いまだに塾で講師をしているし、私に普通に話しかけてくる。


 塾のバイトがある日に今回の事件について何か知っていることはないかと問いかけたところ、隠すことなく素直に話してくれた。


「塾で働き始めたのは、犯人を探し出すためでした。」


 車坂も他の死神同様、瀧が起こした事件の捜査をするためにこの町に派遣されたようだ。しかし、彼は意外にも真剣に犯人捜しを行った。人間から情報を収集するためにわざわざ人間と同じ生活をするまでの徹底ぶりである。塾の講師をしていたのは、自分の生活費を稼ぐためでもあったようだ。なぜ、塾の講師かというと、それにはきちんと理由があった。


 瀧が塾の講師だからということだった。塾で働くことによって、同じ業界から犯人の情報を聞き出すという目的があった。意外にも車坂は塾講師の仕事が気に入ったようで、途中から自分の本来の目的を忘れて塾の仕事に打ち込むようになったらしい。それを上司の伴坂に怒られたり、人間と親しくするのに反対な死神たちに追いかけられたりで大変な思いをしていたらしい。


「猫の姿で追われてけがをしていたのは、その死神たちから逃げていたからということですか。」


「まあ、そういうことになりますねえ。」


 猫の姿で追われていたのはと親しくするのに反対な死神たちに追われてのことだった。傷を負っていたのは、たまたま逃げるときに塀から落ちて、木の枝に引っかかってできた傷のようだ。


 犯人が瀧だということと、神様である九尾が関係していたことは死神たちの間で広がったようだ。間違ってはいないので、止める必要もない。ただし、九尾と分かった時点で、神様を捕まえることまではできなかったようだ。死神も神様もどちらも人外の存在で、どちらが優位な立場か人間にはわからないが、どうやら神様の方が上の地位にあるようだ。


 

 

「犯人が人間でそれに関与していたのが、神様だとは思いませんでした。神様とはいろいろありまして、捕まえようにも難しい状況となりました。そこに今回の遠坂の問題行動が発覚しました。現在、死神たちは後始末に奔走していることでしょう。」


 九尾は結局、数日たてばすべてが解決するといって、その後死神たちの間で何が行われたのか何も話してくれなかった。だから、死神である車坂に聞くよりほかはなかった。


「ああ、遠坂なら、今回の件であまりにも人間に危害を加えてしまったので、消滅させられました。」


 あまりにも軽く言ってのけた言葉にすぐには理解ができなかった。消滅とは死んだということか。なぜ、自分の仲間である死神の生死を簡単に言葉にできるのか。


「消滅とはいったい……。」


「言葉の通りですよ、そもそも、死神は人間と違って、死という概念はありません。必要となくなれば、つまり不要と判断されれば、同じ死神によって消滅させられるというものなのですよ。生まれるときも同じです。人間や他の生き物とは違って、生殖行動というものはしません。なぜ、人間の姿に酷似していると思いますか。」


 突然の新たな情報に戸惑うばかりである。私の戸惑いを見て、車坂は自分で回答を答えてくれた。


「人間には難しい質問でしたね。理由は簡単です。実は死神は死んだ人間が行っているのですよ。だからこそ、姿かたちが人間と同じなのです。簡単な理由でしょう。」



 それではまるで、幽霊と一緒ではないのか。かたや死んだ人間の未練を残してこの世にさまよっているもの、もう一方で死神と名乗って、時にはもとは自分と同じ幽霊の魂を浄化しているということなのだろうか。ますます訳が分からなくなってきた。


「混乱するのも無理はありません。しかし、それが事実であることは変わりありません。かくいう私も200年くらい前までは人間をしていたのですから。」


 理解が追い付かない私は、必死に理解しようと質問をしてみる。


「死神になるのはどんな人々なのですか。幽霊はこの世に未練を残した魂といわれていますが、あなたたちも未練があるからこの世に残っているのですか。」


「幽霊とは違いますよ。私たちは同じ死神たちによって選ばれるのです。死神たちが魂の回収中に良いと思った人間の魂を見つけて、それが死神になるのに適していたら死神になる儀式を行います。まあ、一番偉い地位にいる死神協会の会長である死神に許可をもらい、それが認められないと儀式はできずに死神にはなれませんけどね。消滅の時はその逆です。会長がいらないと思えば、すぐにでも消滅させられてしまいます。」


「その会長とはいったい何者ですか。神様か何かですか。」


「そうですね。そのようなものでしょうか。何せ、私は魂の時点で一度会ったきりで、今後会うのも消滅の儀式を行われるときになるでしょうから、実態はわかりません。ほとんどの死神がわかっていないと思いますよ。」




 車坂の言葉通りなら、会長の意志によって消滅させられたということだ。つまり、死神の生死は会長に握られているということになる。そんないつ死ぬかわからないのに死神をしていて不安はないのだろうか。


「そんな顔をしないでください。私は死神に慣れて幸せですよ。何せ、死んだときにはどうしても未練がありまして、幽霊になってでも残っていようと思っていたのですから、死神にならないかという誘いはうれしいものでした。」


「車坂先生の言い分はわかりました。遠坂は実質死んだということになると思いますが、その認識であっていますか。それと、伴坂の様子も知りたいです。」


「ああ、あなたは本当に知りたいことが多いですね。あまり度が過ぎた好奇心でいらない厄介ごとを引き寄せないか心配ですね。」





「こんにちは。」


 生徒たちが来る時間になってしまったようだ。この話はここで中断になった。まだまだ聞きたいことが山ほどある。塾の終わりに話してくれるだろうか。



「車坂先生はハロウィンのニュースは見た。」


「見ましたよ。なんだか物騒な事件でしたねえ。そういえば、朔夜先生は事件の大学に通っていたんですよね。その後大学は大変だったでしょう。」


 生徒の質問に車坂は私に答えるように仕向けてきた。


「確かに次の日は、報道陣がたくさん来ましたが、大して被害は出なかったようなので、すぐにいなくなりましたよ。数日ですっかりいつも通りになりました。」


「ふうん。死神はもうこの町にはいないのかな。」


 生徒の一人が残念そうにつぶやく。そのつぶやきに私はそっとアドバイスをしてあげることにした。


「きっと、まだこの町にいると思うよ。そう思ったら面白いでしょう。もちろん、今回の事件を起こした悪い死神はいないに越したことはないけど、他にもいい死神もいると思うからね。先生は身近なところにいると思っているよ。」


 ちらと車坂を見ると、無表情を装って入るが、視線が宙をさまよっている。生徒は納得したようなしていないような微妙な表情をしていたが、私はそれ以上の質問を認めず、勉強をするように伝えた。

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