夢寐(ねむり)

――上邪(上や)――……


我欲與君相知(我 君と相ひ知り)、

長命無絶衰(とこしなへに絶え衰ふること無からしめんと欲す)……


ああ、天よ。

わたくしはあなた様と出逢い、

あなた様への想いが、

この命ある限り、永遠に変わらぬことを誓うのでございます……


 * * *


白に、大地が眠る。

全ての音は雪に融けて、

深く、深く、

染み入ってゆく。

春を告げるという花信風かしんふうの往来も、この地には、絶えて久しい。

深々と続く雪渓の他には何もないこの地に、訪れる者も無い。

凍てついた大地に耳を押し当てて、彼女は息をつく。


――あなた様は、この一面の白の、何処にいらっしゃるのでございましょう。


雪が溶ければ、逢える。


けれども、この雪が溶けてしまえば、

あなた様は去って、見向きもなさりますまい。

 

春が訪れれば、逢える。


けれども、この雪が溶けてしまえば、

わたくしもまた、忽ち溶けて消えてしまうでしょう。



斯くして、また其のひとは呟く。

「……上邪……」

呟くような叫びはまた、悠久の白に落ちて――――誰の耳にも、届かない。



上邪(上や)。

我欲與君相知(我 君と相ひ知り)、

長命無絶衰(とこしなへに絶え衰ふること無からしめんと欲す)。


山無陵(山にをか無く)、

江水為竭(江水 為にき)、

冬雷震震(冬雷 震震として)

夏雨雪(夏に雪 り)、

天地合(天地 合せば)、

乃敢與君絶(すなはち 敢へて 君と絶たん)。


ああ、天よ。

わたくしはあなた様と出逢い、

あなた様への想いが、この命ある限り、永遠に変わらぬことを誓うのでございます。

高山が平地となり、

大江の水が涸れ、

冬に雷鳴が轟き 夏に雪が降り、

天と地が一つとなる、

その時こそ、あなた様とお別れいたしましょう……

 

 「上邪」~短簫鐃歌十八曲より

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縷々と @xiaoye0104

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