第12話

いやさぁ、昨日社長から電話あったじゃん、夜中に。

そんで、一応カノのとこ言ったわけ。

んで、インターホンならして「カノ、いるー?」って声かけたらさ、中からドタドタドタ!って音するもんだから、「あ、コレ結構ヤバいか?」って思ってたら、ドアが小ぃーさく開いて、中からカノが目だけ出してこっち見てんの。

んで、「どしたん」ってその隙間から声かけたさ、したら黙ったまんま顎クイってやって「中に入れ」ってやってんのね!

あたし、そこだけでもうヤバくって笑いこらえるのに必死だったのに、あの子さ、普段ドアにチェーンなんか掛けてないの、なのにあたしがインターホン鳴らしたから慌ててチェーン掛けてドア開けてんのよ、なんかそれっぽくするためにわざわざ、ね、傑作でしょ?ごめん、ちょっと思い出したら笑いが…………ハァ、はぁーあ、ハァ、ごめんね、そんで、ドア開けてカノ見たら、手にね、ほら服にシュッシュって吹きかけるヤツ、アレをピストル代わりに持っててさぁ、家に丁度良さそうなもんが無かったんだろうね、その努力もあたしのツボ付いてきて……



喋っている本人は昨日の興奮未だ冷めやらぬと言った感じで一番楽しそうに笑っており、天子はその様子を苦々しく見ていた


「私が死にかけていた時に、アンタらはずいぶん楽しいそうだったんだねぇ」


「アンタらなんて言ったらカノが可哀そうだよ、楽しんでたのはあたしだけで、カノは真剣だったんだし」


そう言って幸子はふたたび笑い始めた。




美奈子が起床する15分前。




昨日の事もあり、天子は幸子と歌音子に事務所へ寄るよう連絡を入れた。

一応の用心の為、2人を学校まで送迎するためである。


一部がまるでVシネマの撮影現場のようになった事務所。

傷だらけのデスクの椅子に座り2人がやって来るのを待っている間、天子はうたた寝をこいていた。


昨夜、というより結局朝方まで眠れず一夜が明けてしまった。

これから学生2人の送迎もあるというのに困ったものだ。

そんな自身の睡魔を戒める思考すら、果たして夢なのかどうかすら曖昧になり始めた時だった。



事務所のドアが勢いよく開け放たれる。



それまで半分夢見ごごちだった天子は飛び起きた。

昨日に続いて何事だ!?

天子は瞬時に身構える。


「こりゃあ何事じゃあ!ささらもさらになっとるじゃいないの⁉︎おぉ⁉︎」


剣呑としたセリフにしては可愛らしい声質の怒声と共によく見知った少女、歌音子が入ってきた。


そしてその後ろ、呆然とする天子と肩を怒らす歌音子を交互に見ながら口を押さえて入室する幸子。



歌音子のアレはなんなんだ?



天子は幸子の傍まですっ飛んでいくと、ずっと肩を震わせている幸子に状況を説明するように耳打ちをした。


突然である、昨日まで普通に喋っていた少女が急に極道の様にオラついた喋り方を始めたとあっては心配にもなる。


今も一人で、「誰がシケ張っとたんじゃあ⁉︎」「どこの組の三下が鉄砲玉買ってだたんかのう、おぉん⁉︎?」など1人鼻息荒く興奮している。


幸子は昨日の夜の出来事をよじれそうな腸の痛みと吐き出される笑福の呻吟に耐えながら話し始めた。


笑いながら話す幸子の話を咀嚼して解釈するに、どうやら極道が出てくるようなゲームを一晩やっていたようで、それにすっかり感化されてしまったらしい。


歌音子の年齢から察するに思春期特有のアレだろうと天子も察したが、よりにもよってと言う感じである。


本来であれば、昨日の事について現場にいなかった2人に対して状況を簡単にでも説明しようかと考えていた天子だったが、そもそも説明したところでどこまで理解出来るか怪しい幸子と、理解できない言動ばかり繰り返している歌音子である。


天子は説明を諦め、「この有様を見りゃ、大体わかんだろ」と言って説明を投げた。



その後、美奈子が起きて歌音子と初顔合わせも終わり、時計は朝の8時を指していた。


「やっべ!この時間は車混むんだよ!」


美奈子を含めた3人は天子に羊の様に追い立てられながら事務所を出ると、黒塗りのバンに乗った。


美奈子も同乗したのは、まず第一に美奈子一人にならない為、そして送迎が終わった後に天子の外回りの仕事を手伝うためである。


美奈子は取るものとりあえずと言った具合に事務所から出させられた。

格好は昨日のまま、埃っぽく何処か煤けており天子のだろうと思われる血まで付いている。

おまけにシャワーすら浴びていない。

せめて着替えだけでもと思ったが、天子にとってはその時間も惜しかった様である。



「……臭わないかな?」



助手席へと座った美奈子は黒い横髪を鼻に当て、神経質に何かを掘り起こすかのようにその臭いを嗅ぐ。


「二人の送迎終わったら、今のアンタよか臭いとこにだって行くんだ、大丈夫だよ」


「てか、この後美容院行って色当てて貰ったら?あたし以外黒髪ばっかで仲間外れだし、シャンプーもしてもらえるよ?」


「ジギリかけるちゅうんは仁義通すのと同じよ、勲章とおなじじゃけぇ恥ずかしがるこたぁない」



三者三様の、それぞれに思い思いで身勝手なフォローを聞いて、美奈子は開けた口の塞ぎ方を忘れた様な表情を三人に向ける。


そんな美奈子の表情を汲み取ることも無く車は発信した。

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魔道の少女(おんな)たち @Dasaidance

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