-Pieris japonica-
水谷 愉徒
プロローグ 「夜、空の下で」
「おはよう、起きてるかな?」
まだ変声期を過ぎていない幼い男の子の声が暗闇に1人響く。
「ええ、目は覚めているわ。けれどまだ起床の時間では無いわね?」
無愛想な暗闇が返事を返す。
辺りには一切の照明が無く、上を見上げると空一杯の星が視界に飛び込んで来る。
「星が綺麗だね……」
ロマンチックな言葉を少年の声が喋る。
「私はそう思わないわね」
やはり、帰って来るのは無愛想な女の声のみだ。
「そりゃ残念」
少し残念そうな声色で少年が言う。
「でも、この世界は美しいと思うわ」
「そうかい?」
「だって、今までたくさんの国を見て回って来た私が言うんだもの。間違いなんて無いわ。もちろん異論だって無いわよ?」
無風だった空間にそよ風が吹き込む。
「いつに無く自信げだね、君のそんな所が好きだよ」
「褒めたって何にも出ないわよ? 出すつもりも無いし」
2人が会話を進めている間に雲は晴れ月が顔を覗かせ、月明かりが草原に横たわる2人の男女を照らし出した。
闇が晴れた中2人は静かに少しの間空を見ていた。
「そろそろ眠りたいのだけれど?」
仏頂面で紫色の長髪の可憐な女性が隣の少年に話しかける。
が、隣に寝転ぶ少年の返事はない。
「聞いているの?返事くらいしなさいよ、蹴るわよ?」
そう言って女性は少年の背中を蹴っ飛ばす。
「いったいなぁ、もう蹴られてるよ。」
少年は蹴られた背中を癒すように撫でる。
「そろそろ眠らないと明日の朝起きれないからね、寝ようか」
「なに私の台詞盗ってるのよ、明日の朝の食事は抜きね」
頰を膨らませた女性は少年に背中を向けて目を瞑った。
「あはは、そりゃ手厳しいや……」
少年が頭を掻く。
「おやすみ、スパー」
寝転びながら軽く手を振って少年はすぐに眠りについた。
その後、スパーと呼ばれた女性が耳をすませて聞こえるか分からないくらいの声量で、
「おやすみなさい、ラーク」
と、返事をしていた。
月が隠れ、辺りは暗闇に包まれた。
周囲に静寂が訪れた。
-Pieris japonica- 水谷 愉徒 @zanki_gdp2l
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