青く光る森に囲まれた島


料理というのは錬金術的なものであって、そして食べるということは遊びである、というのが一つの答えだと思うのよ。


それらしいことをそれらしく言ってみるのがわたくしの趣味なの、覚えていて。


可愛くて美人なわたくしが言うと、まるで真理のように聞こえるでしょう?


ちょっと、いかにもめんどくさそうに記録しないでくださる。顔の皮が伸びきっていてよ。


まあいいわ。

そう、料理は錬金術。これは本当なのよ。


たとえば挽いた肉に塩。

肉だけでは挽いた肉はぱさぱさと散らばるばかりだわ。でも塩を入れると粘りが出て固まるのよ。


偶然美味しくなるというわけではないの。挽いた肉に塩を入れて、こねると固まる。

いつでも、どこででも、誰がやっても、そうなのよ。

当たり前のようで、でも不思議な出来事、決まり事ではなくて?

誰が決めたのか、世界というものは塩で肉が固まるように出来ているのよ。


なのによ。

なんなのあの訳の分からない食材は。


森で採れるそうよ。朝の光のささないうちに摘み取らなければいけないそうなの。


そうでなければ雲散霧消してしまうと言うのだからますます気味が悪いったら。

夢がある食材とも言えるですって? あら、あなたでもそういうことを言うのね。

そう、夢がいっぱい、詰まっているそうなのよね。冗談ではなくて。


夢つなぎの花と呼ばれるそうよ。食べられる花の類ね。

瓜というものの花に似ているかもしれないわ、蛍の袋花や、ほおづきという極東の島の花とも似ているかも。

袋のように咲いて、手のひらくらいの大きさになって、葉脈のような筋はあるけど全体的には花びらは薄くて柔らかいわ。


それを摘むの、そうすると、花の袋のなかに飴玉のようなものが入っていて、それは心の奥底で真に食べたいと思っているものの味になっているのですって。


馬鹿にしている。世界の理を馬鹿にしているわ。摘む人によってどんな味にでもなるなんて。


まあ本当は島のおチビさんたちの占いの一種で、花の蜜の甘いという味をいろんなものに例えただけだろうと考えて行ったのよ。

そうしたら実際、うちの音楽船乗りたちだけの間でもさまざまな味がしたという報告があるじゃないの、困ったわ。


どんな味がしたかですって、そうねえ、

水煙草の味や、チョコレエト、鳥の香草焼きの軟骨のところ、練乳かけの堅焼きパン、岩翔羊のミルクシチュー、花茶、おかしなところでは毛布の味なんてのもあったわね。


わたくし?


わたくしを聞くのね、報告だから仕方ないのだけど。


アーリア鳥の卵焼きよ。


馬鹿にしている。


月の御方に捧げる記録に下品なことばを使いすぎたわ、いけないわね、月の御方に輝ける陽の慈愛が降り注ぎますように。

ねえ、あなたがそんな顔をする必要はないわ、おそらく、花の成分の何かが作用して、舌の上に幼少時に慣れ親しんだ味を再現するのではないかしらね。


もう絶対に食べることは無いと思っていたものだわ、だから良かったのよ。


ねえ、そんな顔をしないのよ。


次は思い切り辛い食べ物がある島がいいわね。ええ、どんなに辛くてもよろしくてよ。わたくしの髪が赤くなるくらいの辛さにして頂戴。



笑った?



そう、ではまた来るわね。それまでお元気で。




明るい水多く巡る年

6の月17日

ルセより報告

コハク、記す

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とある音楽船の記録〜異世界食紀行〜 花ほたる @kagimori123

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