こんらんぐ! ~人工言語同好会へようこそ!~

左と右《さとみぎ》

第1話『人工言語同好会』


県立第六高校———

県内でも有数の伝統ある高校に1人の女子がやってきた


両サイドに桜並木が花吹雪をまき散らす坂道

丘の一番下は保育園、その上に小学校、その上に中学校…と昇って行った先に

この高校は存在する。(無論その上には広いキャンパスを持つ大学が建っている)


そこを受験し、合格して今年はれて新入生としてこの高校に入学した彼女…


その名は 言ノことのは 創琉つくる

…ただいま校内の散策中であった


「うぅ~ん… 何にしよう…部活…、帰宅部はヤだしなぁ~…

 でも運動系はニガテだし…文系で…おもしろそうなのは…???」


と、創琉つくるは階段を登りつつ、校門で生徒会が配布していた、

各部活動や同好会の活動場所や活動内容を記したパンフレットを手に閲覧ながら

なんとなくフラっと最上階へと足を運んだ…、


「…あれ? なにココ…???」


普通、階段の最上階の先には屋上へと昇る階段がある。

この学校にも無論屋上は在り、

他の階段は散策中に屋上に続いている事は知っていた…が


この階段だけは踊り場のあたりに謎の部屋があって

屋上へは行けない構造になっていた…。


謎の部屋の扉には意味不明な文字がいくつか書かれていて全然読めない…。

明らかに怪しい…。


「えっ…ナニココ…部活…???」


奇異なモノを目にし、顔をこわばらせながら手に持ったパンフレットを確認する…

さしずめ宇宙人交信同好会とか魔術研究部…なんていうような

怪しい部活動に違いない…


「ん…??? 『人工言語同好会』…???」


(オープニングテーマソング)

「it's conlang!」

作詞:サトリ㌠

唄:人工言語同好会部員一同


扉開けて♪窓も開けて♪

その先に待ってる私たちの

it's conlang~♪

(前奏)

真っ白なノート♪新しい季節の始まり♪

階段上った先に待ってる

不思議な言語コトバの数々♪


何を言ってるかワカらない♪

けれどこんなにDOKI♪DOKI♪

そこにLOVEがつまっているから♪


ツラい時も♪悲しい時も♪

一緒に創ってきた

この言葉たちがいるから―——♪


さぁ——みんなで♪


走り出そう未知のコトバの先へと♪

ならべた音つむいださきに♪

キラキラひかる

宝石箱~♪

それが♪(それが♪)それが♪(それが♪)

私たちの

it's conlang~♪


[提供]

(創琉つくる)この番組は…御覧のスポンサーの提供でお送り致します!


(CMに入る)


(CM明け)


「…えっ…ナニ…???『人工言語』って…???」


今まで15年と8か月を過ごしてきた彼女にとって

今まで聞いた事の無い単語だった。


「なんだろ…??? 検索すれば出るかな…???」


「あっもしかして見学者さんか?」


ポンッと不意に、突然うしろから肩を叩かれた。

「ひゃいっ!?」

驚いて振り返ってみると一人の女が立っていた。

身長は小柄で創琉つくるよりも小さい感じだが、

しっかりしてそうな印象がした。

制服のリボンの色で2年生だと分かる。

金髪にツインテールにポニーテールと、やや混雑した髪型に

八重歯が口から時折顔を出す。

ツリ目で元気そうな感じ、胸は…希少価値がありそうな量だった。


「あっワリィわりぃ…! 驚かせちゃったか?」

「あっいえいえ…先輩…そんな大丈夫です…!」

「おっと、名乗っておいた方がいいかな…?

 アタシは修來しゅうらい ゆめ、あんたは?」

「あ…わ…私は…言ノ葉ことのは 創琉つくるって言います…」


一見活発そうながら

意外と礼儀正しくマジメそうな印象だ。

しっかり者の印象がある。


「あっ…さっき『見学者』って言ってましたけど…もしかして…?」


「あっ分かった…? ソコ、実はウチの同好会なんだよねぇ~…。

 見た目ブキミで軽くヒくでしょ?」


「い…いえいえ…! そんな…!」

と、言ったものの…

実際…確かに怪しい…、一瞬見学をためらうような外観だった…。


「まっ、見た目はアレだけどさ、活動内容は全然そんな事ないと思うし、

 健全な感じだからさ…!

 ホラ、ドラゴンフルーツみたいに見た目はアレだけど

 以外に美味しいみたいな感じで…!!」

「あ…はぁ…。」


そう言われると、あの外観も…「客引きの為にわざと目立つ感じにした」感じに

見えなくもない…と思えて来た。


「あの…そういえば…『人工言語』って何ですk…」

「まぁまぁ! ココは口で説明するより見た方が早いと思うんだよ…!

 言うより見た方が理解しやすいからさ…!

 さっさと階段上がっちゃって上がっちゃって…!」


と、ゆめ先輩は創琉つくるの背中をグイグイ押しだした。

「わっちょ…ッ!?」

言われるがまま階段を登らざるを得ない創琉つくる…。


「(だ…ダイジョブ…だろう…

  だって部屋の窓から日差しが漏れてるし…

  怪しい部活だったら…あんな明るそうな部屋で

  活動とかしてるワケないし…)」


何の根拠もない理由を自分に言い聞かせて

一段、また一段と階段を登る…。

階段の段数は…何の因果かちょうど…13段…。

そのフラグに気付かずに創琉つくるは13段目を登り切り

部室のドアに握り拳を当てて…ドアの前へとたどり着いた…、


と、その時————!!!


「いらっしゃ~~~~いッ!!!」

「えっギャッ!??」

突然!

内側から扉が開き

内部から複数の手が彼女の体を掴んで引きずり込んだ!!!

さながら某”鋼〇錬金術師”の心理の扉から出てくる

あの黒い無数の手の如くに…!!!

その衝撃で彼女は

部室の床に尻餅をついた…!


「んな…!? なにするんですかイキナリ…?!!」


「いやぁ~、こうでもしないと~…

 入部希望者がすぐ逃げちゃうんだよねぇ~♪」


まるでくノ一のように素早く室内に進入し、ドアを閉めたゆめ

尻餅をついた創琉つくるに手を差し伸べて

創琉つくるが立ち上がる手助けをする…。


「改めて! 我が『人工言語同好会』へようこそ! ココがその部室内だぜ~。」


その部室は踊り場ほどの広さしかない空間だったが、

それにしては意外と広く感じられた。

会議室などにある折り畳み式のテーブルが2つ平行に置かれ、

そこにそれぞれ4人ずつが向かい合って座れば

計8人は座れる構造となっている。

その更に奥には古そうながらも、施錠できる棚があり

中には何十冊かの資料と思われる書籍や紙の束が見えた…


「そんで、そこの一番奥に座ってる彼女が…本同好会の会長!

 左右政院そうじょういん 美咲みさき先輩ね!」


その棚とテーブルの間、

琴葉ことはのいるドア付近から一番遠い窓際の席に

部長と紹介された先輩の女性は座っていた。


一見根暗そうな印象の彼女は

黒髪を結う事もなく腰のあたりまで伸ばしていた。

頭にカチューシャをしているが

それの意味もなく前髪は目を隠すように垂れていた。

目つきはジトッとしていて目の下にはクマが見えた。

こちらを見て微笑もうとしているのか

ニヤッっとした口はますます怪しさを演出させていた。


「あッ…ど…、どうも…。ウフヒッ」


何故笑ったのか分からないがそれがますます不気味さに輪をかけた。

手元はノートパソコンの操作で激しく動いている。

猫背なのにその状態で立ち上がりもせずに会釈をすると、

パソコンに顔が付きそうになった。


「あ…ハイ…どうも…、(あっコレ…ヤバイ部活だ…!!!)」


そう直感的に思った…が、

ドアはしっかりとゆめが死守している!

先程言っていた、入部希望者が逃げてしまわない様に…といっていた対策だろう。


「…そしてこっちが…、とは言っても、

 今日はまだ1人しか来ていないけど…部員の1人の

 角鹿つのじか テトちゃん!」


部長から一番遠い窓際の席、

ちょうど創琉つくるの真横の方の窓際に座っていた彼女は、

無愛想そうに何も言葉を発さずに会釈だけをした。

無口で無表情そうな印象だ。


青くも見える黒髪は胸のあたりまで伸ばしたストレートで

前髪はパッツンと切りそろえられていた。

一見眠そうにも見える目つき、小さめであまり大きく開かなそうな口、

しかし手はかなり素早くスマホをフリックしてる。

それに合わせて目線も高速で移動していた。

こちらも部長に負けず劣らず不気味さを漂わせている…。


「テトちゃんは基本無口だから。」

「あ…はぁ…。」


会話の間が持たない…!

なにか質問でもしてこの混乱した頭のモヤを少しでも晴らしたかった。

とりあえず質問したい事は山ほどあったが、

何から切り出したら良いかわからなかった。


「…えぇ~っと…、その…

 このお二人は…何を…してるんですか…???」


と、会長の目が瞬時に輝き出した…!!!


「『辞書編集』に決まってるでしょ!?」


突然立ち上がり目を見開いて凝視してきた!

やはりコワイ!

横ではテトが「激しく同意」とでも言いたげに

コクコクと首を上下に小刻みに動かす!

「『辞書編集』はねぇ…『人工言語』を作る上では重要な作業なんだよ…!?」


そんなことも知らないの?

みたいな雰囲気で首を傾げつつ凝視する会長。

テトはそれに合わせ首を激しく上下に動かす!

この瞬間琴葉ことはの中で、

この2人は完全に『変人』であると認識された。


「ちょっと会長! ソレじゃあこの娘がヒいちゃうでしょっての!

 ゴメンねぇ創琉つくるさん。ウチの部長『人工言語』の事となると、

 ああなっちゃうんだよねぇ…。」


先程から説明してくれてるゆめだけが

比較的マトモにみえる…。

でも出来ればこんな一見変人っぽそうな集まりの同好会、

ご遠慮願いたい気持ちでいっぱいだった。


「あっ…あの…、私…たまたま寄っただけ…なんで…、

 このあたりで…おいとま…」

「待ったぁ!!!」

「ひっ!??」


会長が勢い良く突進してきて琴葉ことはの手を掴んだ!

恐怖で顔が一瞬青ざめる琴葉ことは…。


「逃がすかぁ…!!!

 先輩方が卒業し…! 会員が抜けてしまった今…!

 会員の数は今たったの4人…!

 アナタが入ってくれれば…5人…!!

 校則で決まってる部活動等の活動条件…最低人数に達する…!!!」


思いの外握力が強い…! 振りほどこうとしても…離れない…!


「やっ…ヤメて下さい…!!! こういうのパワハラですよ…!??」

「っるせー! 放してなるモノかぁ…!! 入れぇ…、入れぇえええ…!!!」


怖ろしい形相だ…!

同好会活動のためとはいえ…、人はここまで恐ろしくなれるものなのか…!?


「い…っイヤです…! 放してください…!!

 そもそも…私…『人工言語』とか…今聞いたばかりで…!!

 なんの事か…さっぱりですし…!!!」

「大丈夫よぉ~…慣れればスっっっゴイ楽しいし

 病みつきになって一日中その事しか考えられなくなるわぁ~~~♡

 だから入りなさい~~~♡」


今度は悦に浸ったような顔をしだした…!

コイツ…間違いなくヤバい…イッちまった野郎の顔だ…!


「お願い…♡

 幽霊部員…幽霊部員でもいいから…ね…♡」

「ヤですよバカ!! 一日中頭から離れなくなるなんてマッピラゴメンですよ…!!!

 ゆめ先輩も見てないで助けてくd…」


ガシッ…と、両肩を後ろからホールドされた。

その人物は…間違いなく…ゆめ先輩だった…。


「せ…先輩…?」

「ごめんねぇ~…、ウチも…廃部だけは避けたいんだぁ~。

 ここはこのアタシを助けると思って…ね?」


しまった…!

一見マトモそうに見えたから…油断してた…!!!

思えばゆめ先輩も…この部長やテト先輩と…同じ…!!!

同好会のメンバー…!!!

同じ穴のムジナ…!!!

創琉つくるは後悔した…が! 遅すぎた…!


「OKゆめちゃんそのままそのまま!

 しっかり抑えててねぇ~~~~ッ!!

 テトちゃんソコの朱肉取って朱肉!!

 この娘の親指に朱肉付けて!!」


テトが無言で…しかし意外と強い握力で…!

創琉つくるの右手を掴んで…創琉つくるの親指に朱肉を

これでもかと塗りたくる…!!

その間…会長は入部届けを取り出し…必要事項に記入をしていた…!


「どうせサインはしてくれないだろうからぁ~…

 アタシが書いてあげちゃうねぇ~グヒョフッ…!

 アタシこう見えて…他人が書いたっぽい字を書くの…得意なんだぁ~…。」

「そんなの得意で一体何の役に立つんですか!!?」

「よし出来たわ! テトちゃんテトちゃん!

 その娘の手こっちに向けて…!! 捺印なついん捺印なついん…ッ!!」

「ソレを言うなら拇印ぼいんですよ…って!!

 アァ゛―――――――――ッ!!!」


そうこうドタバタしてる間に…親指の拇印が『入部届け』に

キレイに押されてしまった…!!!


「っしゃあぁ———ッ! テトちゃんその書類持って

 急っそいで職員室行って行って! 早く早くッ!!!」

「ア゛―――――ッ待っ…?!!」


テトはまるで韋駄天の如く職員室へとまっしぐらに階段を駆け下りて行った…!!!

創琉つくるは依然…ゆめにホールドされている…!


「…ふぅ、行ったか…。」


会長の目配せで、ようやくホールドを解除したいわい

創琉つくるはドサッとその場にひざまずいた。


「はぁ~…。ゴメンねぇ~、創琉つくるさん。

 ウチもギリギリでさ…、ゴメンね…本当…!!」

「あ…あぁ…、」


創琉つくるが理解出来ないほどの急なドタバタで…

あっという間に変な同好会の会員にさせられてしまった…!

あまりに急すぎて…涙も出ない…!!


「な…なんか…よくわかんないけど…、なんか…ショック…!!!」


創琉つくるの奇妙な部活動は、まだまだコレからである…。





〖アイキャッチ〗 こ・ん・ら・ん・ぐ!


(CMに入る)


(CM明け)


「ねぇ〜〜〜〜〜聞いてよ〜〜〜〜〜亜文あや〜〜〜〜〜ッ!!!」


「なぁにぃ〜? お姉ちゃん〜?」


帰宅した創琉つくるは玄関に倒れ込んだ。

茶髪でまだ幼さの残る中学2年生

創琉つくるの妹、亜文あやである。


今日は母が遅い日なのか

エプロンを着けている。


「どぉしたのお姉ちゃん? 何かあったの?」


「聞いてよ亜文あや〜〜〜〜〜ッ!!!

今日変な部活入っちょったよぉ〜〜〜〜〜ッ!!!」


「変な部活…?」


「そうなんだよぉ〜〜〜〜〜ッ!!!

『人工言語同好会』とかいう…変な部活??? 同好会??? に

入っちゃってさぁ〜〜〜〜〜ッ!!!」


「人工…言語…?」


「うう…ッ どうしよぉ… せめて部活のかけ持ちとかできるかな…?」


「…もぉお姉ちゃんグダグダ言ってないで!

晩ごはん作るの手伝ってよ!

すぐに手を洗って!

荷物を部屋に置いてきて着替えて!」


「ヒドいよ亜文あや〜〜〜冷たい〜〜〜ッ!」


「早くしないとお父さんもお母さんも帰って来ちゃうよ!?」


「うう…はぁい…」


創琉つくるは二階へと荷物と着替えてをしに行った。

亜文あやは階段を見上げながら

ふとポケットの中から

小さなメモノートを取り出す…


その中には、

何種類もの見たこともない…

そして、この地球上には…

が…

たくさん書かれていた…。


「良いなぁ…お姉ちゃん…、ウチの中学にも…

そんな部活あったら良いのに…。」







続く。

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こんらんぐ! ~人工言語同好会へようこそ!~ 左と右《さとみぎ》 @Sham486

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