エピローグ

 ――数年後。


『サイコ、ジェットがもう持たない。このままじゃ街に落ちちゃうよ!』


 炎を上げたジェット機がNYの上空を飛ぶ。乗客を乗せたその落ち行く鉄の塊を操縦するのはネクストジェネレーション計画のメンバーの一人であるコードネーム”テクスチャー”と呼ばれる少女だった。


 ハイジャックを無効化しながら絶体絶命の彼女が通信で呼び掛ける相手、コードネーム”サイコ”。


「後二分で片付けるから待ってて、テック」


「それは拙者の台詞である! 小娘め、このソニックブレードのサビとなれ! ご覚悟をぉぉお!!」


「うるさいわ。このエセサムライ」


 サイコと呼ばれた白い長髪の少女はその髪を躍らせながら、身に纏った黒いジャケットの袖でソニックブレードの刀を受け止める。


 強化合成繊維で編まれたジャケットは防弾防刃仕様ではあるが、ソニックブレードの高周波ブレードは本来それすら容易く両断する切れ味を持つ。しかしそれを受け止めることを可能とさせているのは、偏にサイコの持つ強力な魔法の作用によるもの。


「馬鹿な!?」


「ごめんなさい、あなたに構っている暇は無くってよ」


 彼女のサイクハンドにより空間に固定された高周波ブレードは事も無げにへし折られ、続いてサイクが両掌の間に集めた魔力に呪文を吹き込んだ。すると無色であった魔力は青い輝きを放ち、サイコがそれをソニックブレードへと振り翳した瞬間放たれたブリザードが彼を飲み込み、瞬く間に鎧武者を象った氷像へと彼を閉じ込めてしまった。


 そしてサイコは袖に隠れた腕時計を見て得意気に鼻を鳴らす。


「一分ジャスト。自己ベスト更新ねっ」


『聴こえてるわよサイコ! 終わったなら早く助けに来てよお!!』


 はいはいと通信機から響く大声に苦笑したサイコはソニックブレードと交戦していたビルの中腹からガラスを突き破り飛び出す。


 広がる大空には煙の尾を引いたジェット機が降下を始めていた。


 魔法により飛翔したサイコは空気抵抗を無効化し、マッハを超える速度で瞬時にジェット機に追い付いて見せた。


 コックピットの窓ガラスをノックし、何やら大騒ぎしているテクスチャーを茶化した彼女は燃えるエンジン部分へと移動し、掌に生み出した特異点に炎と煙を全て吸い込ませ炎上を止める。


 そしてジェット機の上へと出た彼女はサイクハンドを拡大して機体を固定し、持ち上げて行く。


 目の前に迫る高層ビルを辛うじて飛び越えることが出来た後は安全な高度まで達し、機内では安堵したテクスチャーが座席からずり落ちる様に脱力し、乗客の歓声は機外のサイコの元にまで届いていた。


 そして機体を空港まで乗客ごと無事に送り届けたサイコは、NXG計画の拠点たる養成施設には戻らず、フリーダムタワーの天辺に立ち、風に髪を流しながら夕焼けて行く空を眺めていた。


 彼女が付けたままにしていた通信機からはサイコと彼女を何度も呼ぶ声が送られている。それを彼女は耳から取り外し、ジャケットのポケットへと放り込んだ。


 そして踊る髪を片手で軽く押さえながらもう片手の掌の上に乗せたブローチに埋め込まれた、夕日に輝く金属片を見詰め、サイコと言うコードネームを与えられた彼女は独り言ちる。


「私はミュール。ミュール・W・Hウォーヘッド・ブルスケルトン」


「最強の魔女」


「……に、なる予定」


「見ていてね、パパ――」


 一羽の鷲が沈みゆく太陽に向かい雄大に羽ばたいて飛んで行くのが見える。


 ミュールはブローチをジャケットのNXGのエンブレムに重なる様に取り付けると、先を行く鷲を追い掛けるようにフリーダムタワーから飛び立つ。


 標的は眠ることを知らない悪。目指すは世界で一番強いパパが愛した人々の、平和だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔女のパパ ~WAR・HEAD~ こたろうくん @kotaro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ